ハナシ
工藤青石(コミュニケーションデザイン研究所 デザイナー / クリエーティブディレクター)×長崎佑香(資生堂 宣伝・デザイン部 アートディレクター)
×村岡 明(資生堂 宣伝・デザイン部 デザイナー)

100年愛される「パッケージデザイン」を作るには?

資生堂のクリエーターが、各界で活躍する方々と「美」を語る対談シリーズ。資生堂 宣伝・デザイン部が設立100周年を迎える2016年は、「未来の資生堂デザイン」が目指す美をテーマに語り合います。今回は、資生堂商品の顔である「パッケージデザイン」をテーマとした鼎談をお送りします。

お招きしたのは、かつて資生堂宣伝部に所属し、現在はコミュニケーションデザイン研究所の代表をつとめる工藤青石(くどう あおし)さん。数多くのパッケージデザインを手がけた工藤さんは、デザインにおけるコミュニケーションを模索し、プロダクトだけでなく、公共施設のサイン計画など、多様なデザインに取り組んでいます。そんな工藤さんと対話するのは、1980年代生まれの資生堂デザイナー、長崎佑香と村岡明の二人。情報技術や社会環境の変化を課題としつつ、今必要なデザインを考える現役デザイナーたちは、工藤さんとの対話から、どのような発見をするでしょうか?

工藤青石(くどう あおし)
工藤青石(くどう あおし)
コミュニケーションデザイン研究所 代表。1964年、東京都生まれ。1988年東京藝術大学卒業。同年、資生堂入社。1992年から4年間、パリに駐在。2005年資生堂を退社し、デザイナー / ビジョナーの平野敬子とともにコミュニケーションデザイン研究所(CDL)を設立。主なパッケージデザインに「SHISEIDO MEN」「qiora」「IPSA」など。主なクリエイティブディレクションとして「SHISEIDO PROFESSIONAL」「OPAM(大分県立美術館)のコミュニケーションデザイン」などがある。主な受賞に2001年度毎日デザイン賞、日本パッケージデザイン大賞4回、IFデザイン賞など国内外で受賞多数。
長崎佑香(ながさき ゆか)
長崎佑香(ながさき ゆか)
1982年、名古屋生まれ。2006年愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科卒業。同年、資生堂入社。デザイナーとしての主な仕事にブランド「SHISEIDO」「Clé de Peau Beauté」「INTEGRATE」「HAKU」などがある。今年4月からはインナー活動として、デザインとテクノロジーを融合させて美しい生活文化を創出するための研究チーム「DesignR&D」が発足。未来の化粧や、ECにおける新しいデザインのあり方などを提案している。
村岡明(むらおか あきら)
村岡明(むらおか あきら)
1986年、東京生まれ。2010年多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。同年、資生堂入社。主にブランド「SHISEIDO」のデザインを担当。今年8月には、マツダ株式会社と共同開発したフレグランス「SOUL of MOTION」のデザインを務めた。また、社外活動では次世代のクリエーターを対象にした国際デザインコンペ『レクサスデザインアワード』にデザインユニット、AMAMのメンバーとして参加し、グランプリを受賞。

パッケージデザインに重要なのは「客観性」

『毎日デザイン賞』も受賞した工藤青石デザインの「キオラ」(1998年)

なめらかな曲線が印象的なフレグランスボトル「ヴォカリーズ」(1997年)

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工藤さんは、2005年に資生堂を退社されるまで、数多くの傑作パッケージをデザインなさっています。工藤さんの後輩にあたるデザイナーの長崎さんと村岡さんは、工藤さんのデザインについて、「資生堂らしさのなかに新鮮さや驚きがある」とおっしゃっていましたが、具体的にどのようなものでしょうか。
長崎
私が工藤さんのデザインで印象的なのは「キオラ(qiora)」です。すごくシンプルなかたちだけど、脳裏に強烈に残るというか。資生堂らしさを意識しつつ、それを革新させていこうという気持ちが、例えば微妙に湾曲したデザインに感じます。この微細なデザインの揺れみたいなものを通して、それを使うユーザーとコミュニケーションを取ろうとしているように思います。そこがすごく素敵です。
村岡
僕はフレグランスの「ヴォカリーズ(vocalise)」がすごく好きです。シンプルなデザインですごくたくさんの効果が出ているなあ、と思うんですよね。正面や、側面によって「こんなことできるんだ!」と驚かされる。美しさと発見がいっぱいあるパッケージです。
長崎
シンプルなデザインのなかに、繊細さや内面を感じさせるのは難しいですよね。
村岡
そうですね。僕がパッケージデザインを始めた頃は、ちまちまとかたちを作っていく傾向があったんですよ。小さくなりがちというか。でも工藤さんの作品の大胆さに触れて、気持ち良いデザインを実感できました。
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後続する世代の資生堂デザイナーに影響を与えている工藤さんの作品ですが、当時はどのようなことを考えて制作されていたのでしょうか?
工藤
仕事を始めて考えたのは、やっぱりデザインの仕事には「客観性」がすごく重要で、それはホットな状態ではもてないということです。「自分はこうしたい」という自我は、デザインをするうえでは邪魔になるんじゃないかな。僕は常に依頼されたことに対して最適な答えを探すという姿勢でいたし、客観的な目線からデザインしていたと思います。
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デザインは誰のためなのか、という目線を忘れてはいけないのかもしれませんね。そして工藤さんのもつデザインへの姿勢は、今のデザイナーたちに継承されているのかもしれません。
工藤
宮大工の西岡常一さんは著書『木のいのち木のこころ』(1993年)のなかで、「宮大工の仕事っていうのは結局教えられない」と書いています。例えば伊勢神宮の式年遷宮は20年に1回しか建て替えがないから、現場で直接教える機会はごく限られる。それでもきちんと建物を造っておけば、それを解体することで多くのことを学べると、記していました。
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解体を通じて、直接会ったことのない職人の技術や思いが伝わるということですね。
工藤
だから長崎さんと村岡さんが、「キオラ」や「ヴォカリーズ」を見て触れて、商品を通して何かを受け取ってくださったのはとても嬉しいです。僕のほうから質問したいのですが、お二人はどういう風にデザインに取り組んでいるんでしょう? 僕の若い頃とはまた違うプロセスかもしれない。
村岡
デザインのイメージを膨らませるために、ヒントになりそうなものをとにかく集めたりスケッチをしたり、ですね。あとは実際に試作を繰り返します。
長崎
プロセス自体は、昔も今も変わらないと思います。でも、工藤さんのデザインを見ていると、悩みや迷いはほとんどなくて、一気に正解にたどり着いたような気がするんですよね。

テクノロジーによって、パッケージも進化していく

工藤
今と昔は、商品を取り巻く環境も課題も違うので、共通の「正解プロセス」はおそらく存在しないと思うんです。新人のときは資生堂宣伝部のなかで商品を作る方法論があって、それに沿いながらスケッチを描いていきました。でも、もう少し経験を積んで自分の視野が広がっていくと、「どういうお客さんが求めているんだろう」とか、いろんなことを考えるようになります。そうすると、ルーティンの決まったプロセスだけでは不十分だと考えるようになりました。
村岡
それは、ちょっとわかります。
工藤
それで僕の場合は、パッケージが並ぶ店頭での印象、商品を買ってくださった方の家での佇まいとか、それが5年後どう見えているかとかを考えるようになった。その課題を解決しようと思うと、際限なく広がっていく。だけど考えたら考えただけ、その商品に多くのものを込められると思っていました。でも、デザインを構築する以外の、そういう課題は業務化されていないし、既存のプロセスでは解決できないことが多いんですよね。
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そうやって考えるプロセスには、かなり時間がかかりませんか? そして、決して一直線にたどりつくものではないように思います。
工藤
時間はかかるけど、意外と一直線かもしれない。例えば、満たさなければいけない条件や課題が50個あったとしても、すべてを丁寧に見ていくと答えは一つだったりする。だから全部を解決する整合性のある答えに行き着けるかが勝負。たどりつきたい一つの答えに行き着く最善の道を模索するのがデザインのプロセスであって、そういう意味では迷うことはないとも言えますね。
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工藤さんは資生堂にいらっしゃった頃から、ものをデザインするということを超え、デザイナーが視界に収めなければならないコミュニケーションなどを拡張してきた、ということですね。そういう意味では、現在長崎さんが取り組んでいる「デザインR&D(リサーチ&ディペロプメント)」の取り組みには共通するところがあるように思います。
長崎
テクノロジーがどんどん進化していくと、「化粧」の概念もどんどん変わっていくはずなんですよね。新しい技術がもたらす化粧の未来をデザインの視点から考えるために立ち上げたのが「デザインR&D」の活動なんです。人の生活を豊かにするためにテクノロジーをどうもち込むべきかが課題。ますます増えていくECにおけるパッケージの価値やあり方についても考える必要があるなと。
工藤
その活動の到着地点や目標はどんなことなんだろう?
長崎
2年以内に、なんらかのアウトプットをしていく想定をしています。商品化するかはわからないですが、お客さんに届くようなかたちにはしようと。現在はそのためのリサーチ期間で、アンドロイドを研究されている方や、ウェアラブルデザイン(身につけられるデジタル端末)の研究者とお話をさせていただいています。
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それは面白そうですね。
長崎
たくさんお話するなかで、ある方から「人間そっくりのアンドロイドが一般化した未来では、美の規範が画一化していくかもしれない。そのときに肌を美しくすることばかり追いかけていていいの?」と言われて、「たしかに!」と。そうすると、内面の美がますます重要になっていくかもしれませんね。

本来、デザインというものは
「コミュニケーション」を作るもの

村岡が『レクサスデザインアワード』でデザインした寒天の梱包材

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「資生堂とテクノロジー」は、今後とても気になるキーワードになりそうですね。村岡さんは、社外での活動として次世代のクリエーターを対象にした国際デザインコンペ『レクサスデザインアワード』に参加し、グランプリを獲得したそうですが、どんな作品を作ったのですか?
村岡
寒天で作った梱包材です。スーパーで売られているような寒天を素材にして、梱包材やパッケージを作ろうと。大学時代の同級生がチームメンバーなのですが、その一人が環境に強い関心をもっていて、製品の梱包材が捨てられるばかりなことに疑問をもっていたんですね。もしもそれが寒天製であれば、お湯で溶かすこともできるし、土に戻すこともできる。改良を加えれば土壌改善にも寄与できるかもしれません。
工藤
寒天のプランは、どういうところが評価されたのかな?
村岡
前提として社会性が求められるテーマのコンペだったんですけど、デザインが生まれて処理されるまでのシナリオがちゃんと提案できたところが高評価だったようです。ここでの経験を資生堂のプロダクトに生かしていければいいな、と個人的には考えています。
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違う目線で制作する社外コンペは、デザイナーを成長させるのかもしれませんね。この機会に長崎さんから工藤さんへ聞いてみたいことがあるとか。
長崎
はい。工藤さんの会社は「コミュニケーションデザイン研究所」ですね。私自身、デザインにおけるコミュニケーションに関心があるので、社名の理由がとても気になります。
工藤
組織内で商品デザインに取り組む際、担当部署でやるべき課題がはっきり区切られていることに疑問があったんですよ。グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、スペースデザインと、いろんな種類のデザインがあるけれど、それをどんな基準で分節することができるんだろうと思うんです。実際にはすべてのものが、基本的にシームレスなはずなんですよね。
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産業システムを成り立たせるために、区切らなくてはいけないのかもしれません。
工藤
でもその区切りは、良いデザインを作ることとは関係ない。むしろ良いデザインを作るには弊害だと僕は思っています。良いデザインとは何かと言えば、化粧品であれば、「それを使う人にとって良い」というのが最上位なんですよ。それが20世紀の産業革命以降、量産やスピードを優先する分業制のシステムによっておざなりになってしまった。
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現在の消費社会も、基本的には産業革命以降にできた社会システムにのっとったものですね。
工藤
だから自分の会社を始めるときに考えたのは、デザインをどのように捉え直すかでした。そこで念頭にあったのが、「本来、デザインというものはコミュニケーションを作るもの」ということ。空間、平面、パッケージ、映像などの専門的な知識や技術はそれぞれの領域ですが、共通するのは「最善のコミュニケーションを生み出す」を目指していること。そう考えて、コミュニケーションを複合的にデザインするという意味で社名をつけました。

100年前の商品を新しく「100年もつデザイン」で考える

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村岡さんは、既存アイテムのデザインリニューアルも多く手がけられているそうですが、何か意識されていることはありますか?
村岡
既存のデザインを尊敬しつつも、今までにないようなチャレンジングなものもやりたいと思って取り組むこともあります。例えば、「バイオパフォーマンス」というブランドのリニューアルパッケージでは、バイオテクノロジーが生み出した保湿成分を配合した商品なので、クリームのボトルは細胞分裂を表した3段構造になっています。既存の3段はいかしながら、使い勝手の改善と、現代デザインで表現することを課題にしました。
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工藤さんも、資生堂時代にグローバル向け「オイデルミン」の新デザインに関わってらっしゃいますよね。どのように「資生堂らしさ」をデザインに込めていましたか?
工藤
「オイデルミン」は資生堂が最初に作った化粧水で、ちょうど100周年のとき、グローバル向けに新たな商品を開発したんですね。グランドプランを作ったのは、フランスのアーティスト ムッシュ・セルジュ・ルタンスで、僕はそのアシストを担当しました。ムッシュ・ルタンスが鉛筆でさらさらっとスケッチを描いて、その絵を元にして僕が実際の商品へとデザインしていったんです。ムッシュ・ルタンスの言葉で今も印象に残っているのは「これを今、新しくするということは、100年もつものにしなきゃいけない」という言葉です。そこで彼がもっとも重要視したのは、「この商品の最も大きな特徴である赤は変えないこと。そして丸いキャップ部分の形状は残して、ボトル部分はモダンな四角にする」。それだけなんですよ。
村岡
とてもシンプルですね。
工藤
そう、シンプル。あと「オイデルミン」を言葉でコミュニケーションするのではなくて記号的に認知させようと、シンメトリーの鏡文字のロゴにした。つまり、デザインにおいて何を抜き出すべきかを考えることがすごく大事なんです。それが商品の100年後のあり方を定義する。でもこういう発想をもてる人はほとんどいない。僕はそれをムッシュ・ルタンスと出会って目の当たりにしたことで、デザインに対する思想だけでなく、生き方にも影響を受けたという自覚があります。
長崎
生き方自体も変えるというのは希有な経験ですね。
工藤
あと、化粧品の仕事をしていて感じるのは、女の人たちってすごく敏感だと思うんです。化粧品をデザインして評価されたときに、女性は「え、こんなことまで気がついちゃうわけ!?」みたいなことまで指摘される。言葉としては「かわいい」とか「好きじゃない」という広い範囲の表現ではあるけど、その奥には僕とはまったく違うセンサーが働いている。そして僕らは、そのセンサーに対して鋭敏でなければならないし、そのセンサーに引っかかるデザインの要素を意図的にコントロールしていかないといけない。おそらく「資生堂らしさ」というのは、その領域に関わるものだと思うんです。

上が発売当初の「バイオパフォーマンス」(1988年)、下が村岡がデザインした「バイオパフォーマンス」(2015年)

初めて化粧品として発売された「オイデルミン」。上が119年前にデザインされた初期のデザイン(1897年)、下は工藤氏が携わった「オイデルミン(グローバル)」(1997年)

デザインの評価は時代と相対するもの。
だからこそ「変わらない美」を追求する

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工藤さんは、これからのパッケージデザインに何が求められると思いますか?
工藤
100年前も、現在も、100年後も、本当に大事なことはあまり変わらないと思うんです。時代に左右されない一番大事なことが何かを考えないと、いいデザインは作れないのではないか。それは普遍的なテーマとしてクリエーターたちはもっておかないと。資生堂はそれをもっていたから100年以上続く企業となりえた。それは創業者たちが作り上げたものだと思うんです。そのひとつに、初代社長・福原信三の「商品をして全てを語らしめよ」という言葉がある。僕はそれを新入社員の研修で初めて聞いたのですが、今でもそれが常に、資生堂で商品を作る、デザインすることの根本だなと思いますね。一方で、デザインの評価は相対的なものだと思っています。その時代、環境のなかで評価が変化するということ。
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デザインの評価は時代によって左右されてしまうもの、ということでしょうか?
工藤
そう、時代ごとの相対的な位置づけのなかで、デザインは評価されるのだと思っています。だからこそ僕ら制作側の人間は、普遍的なものを追求していく必要がある。本質に近いものがちゃんと提示できれば、長い時間、多くの人に受け入れられるはず。そして評価する一番の軸は、やっぱり「美しさ」だと思う。「美」という感覚こそが、一番広くて共通している変わらない評価だと思うんですよ。好き嫌いの趣味嗜好を超えたところに「美」という概念がある。「かっこいい」「先端的」の最大公約数は「美しさ」でないのかな。「美」を追求してきた資生堂はその思想をもっているはずです。
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「美」を発信していく立場である現役のお二人は、これからどのようなデザインを生み出していきたいですか?
長崎
常に先端を走っているのが資生堂だと思っています。世間を驚かすような面白いデザインをしたり、予想外のものを作ったり。時代に対して常に新しいアプローチをするという気持ちを忘れたくないですね。工藤さんには、すごく広い視野をもって仕事をすること、つまり「包容力」のようなことを学ばせてもらいました。
村岡
僕も同意見で、やってこなかったことをやりたい。デザインをすることが好きで入社したのですが、最近、デザインって「社会貢献」の一環なのかなと思っているんです。お客さんの要望はもちろん、ブランドや会社がもっている課題を僕のデザインで貢献することもそうですし、大きく見れば環境という面でも貢献できるような活動がしていきたいですね。それも、コミュニケーションデザインの一つだと思っています。
掲載日 2016年10月
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