ハナシ
SATOSHI SAIKUSA(カメラマン)× 竹内祥記(CMディレクター)

美を生む関係

資生堂のクリエイターが、各業界で活躍されている方々をゲストにお迎えして「美」を語り合う対談。第2回は、資生堂のヘアケアブランド「TSUBAKI」のCMでクリエイティブディレクターおよびCMディレクターを務める竹内祥記(資生堂宣伝・デザイン部)が、「TSUBAKI」の広告写真、CM映像の撮影を手がけ、カメラマンとして国際的に活躍しているSATOSHI SAIKUSA氏をゲストに迎えます。女性の美しさを映像でとらえる秘訣とは?

SATOSHI SAIKUSA
SATOSHI SAIKUSA
1984年 渡仏。1986年フォトグラファーとして活動開始。1988年 広告映像の制作を始める。これまでの受賞は、NY グラッフィックカバー賞、MEILLEURE PREMIER REALISATION、マスター金賞(CF-ELF 30C)など多数。
竹内祥記
竹内祥記(たけうち よしき)
資生堂宣伝・デザイン部クリエイティブ・ディレクター、CMディレクター。1989年資生堂入社。2000年~2005年フランス、パリ駐在。資生堂の宣伝広告のクリエイティブディレクション、CM演出を手がける。主な仕事はマキアージュ、インテグレート、Za、TSUBAKI。

「かわいい」より、「エレガンス」&「セクシー」

「TSUBAKI」の撮影現場

SATOSHI SAIKUSA、竹内祥記

本日は「TSUBAKI」の撮影現場におじゃましています。竹内ディレクターとカメラマンのSATOSHIさんの間には「あうんの呼吸」を感じますが、お二人はいつからお知り合いなのでしょうか?
竹内
SATOSHIさんと出会ったのは、僕がパリに赴任していた頃ですね。
SATOSHI
かれこれ15年くらい前で、そこからの付き合いです。
竹内
気がつけばね。資生堂で働き始めて25年になりますが、当時の体験は自分に変化をもたらしましたね。若い頃はとにかく「誰も観たことのない映像を」と息巻いていましたが、さまざまな美容企業の本社があるパリでは、美に対して多様なクリエイターが協力し合い、切磋琢磨するさまを肌で感じました。
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そんな中で、SATOSHIさんと出会ったんですね。
竹内
SATOSHIさんは現地で第一線のカメラマンとして活躍していて、他の日本人写真家にはない、女性の美をとらえる力に惹かれたんです。
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お二人はどのような女性を魅力的に感じるのでしょうか?
SATOSHI
我々は、男性から見た素敵な女性像という点で共通するところが多いんです。言葉にするなら、知的さもセクシーさもある女性、といったところでしょうか。ビューティー広告では商品によってさまざまな女性像が描かれていますが、竹内さんはかわいさよりも、少し大人の雰囲気のある女性像を演出されることが多いですよね?
竹内
パリにいたとき、セルジュ・ルタンスさんのようなアーティストと仕事をするうちに、美における「エレガンス」「セクシー」という要素を改めて真剣に考えました。一方、日本のTVなどを見ると人々の興味が「かわいい」「楽しい」「おいしい」に集中している印象があって。それなら僕は「かわいい」より「美」を撮りたい、と強く思うようになったんです。
SATOSHI
僕も、凛とした出で立ち、筋の通った美しさ、というのが「資生堂らしい美」のイメージですね。

「ラブレター」を送るような撮り方

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そんなお二人は、女性の魅力をどうやって引き出すのでしょう?
竹内
化粧品の広告を作る上で、男性である自分は、異性だからこそ尊敬できる女性の美を発見して、伝えることが仕事だと考えています。もちろん資生堂には、同性の立場からそれを表現してきた功績者も数多くいます。でも、男性が自分にはない女性の美しさへまるでラブレターを書くような賛辞を贈るのも、伝統の1つだと感じていて。
SATOSHI
モデルさんやタレントさんにもいろいろな方がいて、魅力が前面に現れている人も、隠れている人もいる。特にビューティー広告では映画と違い、役柄や台詞がない中でも女性たちの素敵さをうまく引き出してあげる状況を作ることが、大切な仕事だと思います。
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現在「TSUBAKI」のCMは、蛯原友里さん、杏さん、水原希子さん、小嶋陽菜さんと、個性も多様な女性たちがその世界観を伝えていますよね。
SATOSHI
20〜30代の若さで、自立した大人のチャーミングさを体現する人はまれだと思うんです。だけど今回の小嶋さんのように、20代前半の女性でも、そんな魅力をどこかに宿している。眺める角度が少し変わるだけで、それまで見えなかったその人の魅力が見えてくることもあります。だから撮影時は、本人が自分の変化に気づけるようなシチュエーションを作ったり、対話の中でよさを伝えたりしながら進めますね。互いに少しずつ信頼関係を作る中で「私はこれでいいのかも」と感じてもらいながら、撮影していく感じです。

SATOSHI SAIKUSA

匂いのする映像を撮る

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撮影ではディレクターからカメラマンへ、細かい指示も入るのですか?
SATOSHI
竹内さんは、現場では僕を自由に泳がせてくれますよね。でも、そのための大きな水の流れを、予めしっかり準備してくれている感じがします。
竹内
仕事によっては、細いところまで指示を出したりすることもありますよ(笑)。SATOSHIさんとは、信頼関係があるので、任せている部分も多いんです。「TSUBAKI」のCMでは、SATOSHIさんが自由に動けるクレーンカメラを用意しました。そうすることで、彼が被写体に対して「いいぞ」という瞬間・空間にいつでもスッと入っていける。ムービー制作は「こうフレームがあって、この位置からカメラがパンして......」という流れに支配されがちです。でも彼はスチールのカメラマンでもあるからか、モデルに対して「ここがいい!」と感じた瞬間に、動物的な反応でそこにグッと入っていくんですよ。
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「TSUBAKI」の撮影現場を拝見したのですが、SATOSHIさんがカメラと共に出演陣の女性たちに迫っていく様子は印象的でした。そうやって生まれた映像は、流れるような連続の美と、写真的な瞬間の美が共存するようでもあります。
SATOSHI
現場は生ものだから、レンズ交換なんてしているうちに、女性たちはすぐ違う顔になっていきます。それに僕が近づいて撮るのが好きなのは、その行為が被写体とのコミュニケーションになるから。被写体側にも「いま撮られている」という実感があるほうがいいように思うんです。
竹内
SATOSHIさんはいい男だから、近づいても女性たちはウェルカムなんですよ!(笑) とにかく、そうやって撮影することで、匂いのする映像が生まれるんです。匂い立つかどうか、ということが、女性を撮るときは特に大切。形だけの美は、生きている感じがしないでしょう? そのためには、動きも重要ですが、本当に欲しいのはそこに生じる温度や息づかい、湿度だったりする。何気なく振り向いた女性の表情にハッとすることってありますよね。一流のクリエイターたちほど、そういうところに繊細に反応してくれる気がします。パリ在住のSATOSHIさんにわざわざ日本まで来てもらうのは、彼だからこそ撮れるものがあるからなんですよ。

200%準備して、結果105%が欲しい

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竹内ディレクターは、モデルさんが犬好きだと聞けば撮影現場に子犬を連れてきたり、彼女たちが好きな音楽を予め用意したりと、撮影現場のムード作りにも気を配っていると聞きました。
竹内
僕は、何よりもCMを見る女性たちに「うわ、きれい!」って思わせたい。できれば、今まで見たそのモデルさんのどんな姿よりも、です。そのためには、機材も衣装もロケーションも、できる準備は可能な限り緻密にやります。「この衣装、ここを少しだけ変えるとこうなるけど、どうする?」みたいなやりとりも、撮影直前まで続けますよ。もちろん、最終的にその人らしい魅力や時代感、商品広告としてのオーダーなど、複合的な目標を目指してはいるんですけどね。
SATOSHI
竹内さんはそういった現場のムード作りが徹底していますよね。おかげで僕らが当日、撮ることに専念できるんです。
竹内
現場でものすごい集中力を発揮するカメラマンに対して、僕らディレクターは、プロジェクトの間中、コンスタントにエネルギーを放出し続ける。これは僕の自分語録ですけれど、「200%準備して、結果105%が欲しい」。
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100点以上を取るために、その倍近い準備や気持ちで臨むということでしょうか?
竹内
そう。SATOSHIさんみたいな人に対して、彼の自由度や「感じられる場」を200%にしてあげるのが僕の仕事です。
SATOSHI
ありがとうございます。誰かのイメージ通りに撮るのではなく、現場の瞬間の中で、そのCMらしさ、モデルらしさを引き出すことに力を入れてますね。最後の最後は、荒馬のような状況で手綱を引っ張りながら作っていくくらいがいいと思うこともあります。自分自身はそんなワイルドな存在ではありませんが......(笑)。でも皆で現場の状況をうまく乗りこなしていくほうが、いいものができるんじゃないでしょうか。

竹内祥記

「リラックス」と「フラット」が現場の合言葉

撮影現場

SATOSHI SAIKUSA、竹内祥記

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撮影現場はどんな雰囲気なのでしょうか?
竹内
一番大事にしているのは「リラックス」することですね。もう1つ「TSUBAKI」のCMに限って言うと、スタッフ全員のフラットな関係性を心がけています。ふつう広告制作ってプロデューサーがいて、ディレクターがいて、アシスタントがいて......というツリー構造になることが多いんです。でもこの仕事では、現場の映像チェックのときに監督がモニターを覗いている後ろから、スタイリストもヘア・メーキャップアーティストも、どんどん意見を出してきます(笑)。
SATOSHI
信頼関係があるからこそできることですね。目指す美意識をシェアしている率が高い現場なんじゃないかな。
竹内
そのほうが結果的にモデルさんたちも世界観にうまく入ってきやすいと思うんです。指示された通りに動くことを越えて、自然と「彼らは私の魅力をどうとらえているのか? 自分はどうすれば今回求められる美しさが出せるのか?」を考えてくれる。
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出演者とも意識をシェアするために、心がけることはありますか?
SATOSHI
たとえば、タレントさんのメーク室には簡単には入りづらいし、実際入らない人も多いです。でも僕らは結構そこへ入っていって、少しだけ話したりする。たわいもない会話から、今日は調子良さそうだな、新しい恋をしてるのかなとか、何となく感じられることがあるんです。もちろん土足でプライベートに立ち入ることはしないし、最初からそううまくはいきませんが(苦笑)、彼女たちの活き活きとした映像を撮るためにも、そういう時間を大切にしていますね。
竹内
うまくいった撮影って、出演者も含めて、時間が経つのも忘れるケースが多いんです。「あ、そろそろ終わりだね」とパッとまとめて、楽しく帰っていく。ただし当然、楽しかった、だけで終わるわけにはいかないので、最終的に全員が震えるようなベストの瞬間を、いわば「えぐり撮る」のが僕らの仕事。そういう現場を作れるよう努めているつもりです。

見ている人の息を止める

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映像の場合、記憶に残る瞬間を生み出す秘訣として、編集作業も重要では?
SATOSHI
竹内さんは編集を通して映像に「いい余韻」を入れようとしている気がします。伝えたいことだけでいっぱいにしてしまうと、意外と印象が薄くなってしまう場合も多い。映画でも、ストーリーが詰まった無駄のない編集より、本筋に関係ないシーンが入っている方が、こちらに考える余裕があるぶん、記憶に強く残ることがあると思うんです。竹内さんもその種のイメージや、音、匂い、そういうものを広告に入れようとしていませんか?
竹内
確かに、15秒なら15秒の間に、そうした要素を刻み込む感じはあります。女性たちの息づかいがゆっくりなのか? 弾んでいる感じなのか? とかね。映像はそこも如実に伝わるから、息を止めたシーンをつなぐとキュッとハイテンションになるし、リラックスさせたいときは自然体で呼吸するシーンがいい。そういう編集からも、余韻のようなものが生まれます。
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CMは瞬間の連続が積み重なって生まれるものですよね。その微細なレベルでもディレクター自ら細かい調整をしているのでしょうか?
竹内
制作終盤はずーっとやっていますね。先日ある人から「『TSUBAKI』のCMは全フレームが絵になる」と言ってもらえたのですが、そこは自分でも気を遣っているところです。「TSUBAKI」のCMはストーリーがほとんどないんです。前バージョンのCMでは恋人役の安藤政信さんらに簡単な設定を伝えましたが、それも男女がA地点からB地点に向かう短いひとときの話という感じ。でも、現場では二人の距離感や息づかい、温度が撮影中にもどんどん変わっていきました。
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それを十数秒の世界に抽出して、流れや余韻、温度感や緊張感を作っていくんですね。
竹内
どこかの瞬間で、見ている人の息が止まる感じを目指しています。「あっ!」と思うとき、人は五感で集中してガツッと自分の中に取り込むから、「残るもの」になっていくと思う。それを余韻と呼ぶのか印象なのか、言葉はいろいろですけど。

SATOSHI SAIKUSA

限界を決めず、閉鎖的にならず

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最後に、インハウス(企業内)とフリーランス、それぞれの立場からの仕事観を聞かせてください。
SATOSHI
僕のような立場は、ディレクターたちが綿密に積み上げた企画を、「じゃあ、こうやると面白いんじゃない?」と常に新鮮な目で見ることだと思います。企画当初に「すごくいいじゃん!」と思ったアイデアの原点を、会議を重ねるにつれいつのまにか忘れてしまうケースも意外と多いですからね。
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そこは単なる意思疎通ともまた違う、共同作業の中で意識的に役割を担っているんですね。
SATOSHI
竹内さんのようなインハウスディレクターがまとめる現場は、意見をダイレクトかつストレートに言い合える雰囲気がある。その場限りの堅苦しい関係ではなく、いろんな話をしながら「そうか、この人はこういうものを美しいと思うんだな」とお互いに感じ取りやすい現場だと思います。
竹内
僕はインハウスのディレクターという立場にこだわりはないんです。もともとパッケージデザイナーとして入社してますし。ただ「作ること」にどん欲だったから今の自分があると思う。今一緒に仕事してくれているチームも、SATOSHIさんをはじめとしてプロ意識がすごく高いのに、大人の妙な「メンツ」を気にしない人たちばかりなんですね。
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肩書きや立場に左右されない創造性が大事だということでしょうか。
竹内
そうですね。僕は資生堂に、そんな気持ちを認めてくれる気風があると感じているので、そこは可能な範囲で、活用させてもらっています。かつて資生堂のアートディレクターだった石岡瑛子さんは、後に衣装デザインという異分野でアカデミー賞に輝きました。僕も自分で限界を決めたり閉鎖的に考えたりせず、もっと前に進みたい。人一倍努力も必要ですが、それが自分にとって刺激的ならば、挑戦する価値があると思っています。
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今回の対談では、映像制作にかける想いや、現場のチームワークについて伺いました。これからも、女性の「エレガンス」「セクシー」を描き出すお二人の作品を楽しみにしています。
掲載日 2013年7月
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