ハナシ
田川欣哉(デザインエンジニア)× 駒井麻郎(アートディレクター)

人とモノの美しいつながり

資生堂のクリエイターが、各業界で活躍されている方々をゲストにお迎えして「美」を語る対談。第4回は、ウーノやクレ・ド・ポー ボーテなどのプロダクトデザインを手がける駒井麻郎(資生堂宣伝・デザイン部)が、デザインとエンジニアリングを融合した新しいクリエーションを生み出し続けるtakram design engineering代表の田川欣哉氏をゲストに迎え、プロダクトデザインへ込めた想いと未来のビジョンを語っていただきました。

田川欣哉
田川欣哉(たがわ きんや)
デザインエンジニア。
takram design engineering代表。
1999年東京大学工学部機械情報工学科卒業。2001年英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修士課程修了。2006年にtakram design engineeringを共同設立。デザインとエンジニアリングを融合した新しい製品開発手法を実践している。主な作品に、親指入力機器「tagtype」、レーザードローイングツール「Afterglow」、NTT ドコモ「iコンシェル」「iウィジェット」のユーザーインターフェースデザインなどがある。2007年Microsoft Innovation Award 最優秀賞、独red dot design award: product design 2009受賞。「tagtype」はニューヨーク近代美術館の永久収蔵品に選定された。
駒井麻郎
駒井麻郎(こまい まお)
資生堂宣伝・デザイン部アートディレクター。
多摩美術大学デザイン科卒業。2001年資生堂入社。ウーノ、アネッサなどのプロダクトデザインを手がける。現在は、グローバルブランド SHISEIDO、クレ・ド・ポー ボーテのプロダクトデザインを担当。

デザイン × エンジニアリングの融合

資生堂銀座ビル ウインドーディスプレー資生堂銀座ビル ウインドーディスプレー

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本日は、デザインエンジニアの田川さんが率いるtakram design engineeringさんのオフィスにおじゃましています。駒井さんと田川さんは、2013年10月にリニューアルオープンした資生堂銀座ビルのウインドーディスプレーの制作でご一緒されたんですよね。
駒井
僕がアートディレクションを担当したのですが、その際に田川さんにアドバイスをいただきました。takramさんが『デザインあ』展で発表した「音めがね」という原理を応用させていただいたんです。
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それが最初の出会いですか?
駒井
初めてお会いしたのはもう少し前で、宣伝・デザイン部で数か月に1度開催している社内セミナーに田川さんをお招きして、「デザインエンジニア」の仕事についてお話しいただいたことがあるんです。資生堂では、商品開発部門や宣伝・デザイン部門というように、専門ごとに分かれて商品を作っているので、takramさんの「デザイン」と「エンジニアリング」の垣根を越えたものづくりのスタイルがとても新鮮で。何か学べることがあるのではと思い、僕がお誘いしました。

専門分野を横断する「デザインエンジニア」の仕事

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そもそも、田川さんが「デザインエンジニア」という未知の領域を開拓したのには、どのような出発点があったのでしょうか?
田川
僕は大学では工学部でエンジニアリングの勉強をしていたのですが、その頃は、ものづくりはデザインも含めてすべてエンジニアがやるものだと思い込んでいたんです(笑)。でも実際のところ、現場で主流になっているのは、分業によるものづくりですよね。効率的に大量にものを生み出していくために最適化された構造の中で、エンジニア、デザイナー、プランナー、マーケッターなどが仕事をしています。細分化された職種ごとにスペシャリティーを磨くことで現代化が進んできた経緯があります。
そこに問題意識があったということでしょうか?
田川
そうですね。もし効率を抜きにして、すべてのプロセスを1人、あるいは少人数で扱うことができたら、より正面から、ものづくりができるかもしれない。そこで、「デザイン」「エンジニアリング」のどちらにも属さない仕事のやり方を見出せないかと考えるようになりました。「デザインエンジニアリング」の分野はまだ歴史が浅いので、僕たちも試行錯誤しながらではありますが、両方を理解しているからこそ可能になる、新しいものづくりの領域を模索しているところです。
そのようなものづくりの手法は、これまでどうしてあまり発達しなかったのでしょう。
田川
「デザインエンジニア」という職業そのものが、20年前だったら存在しにくかったんだと思います。昔だったら職人的な積み上げの先にしか成り立たなかったプロの仕事が、今はコンピューターを含め、様々なツールの性能が上がり、更にインターネットの登場で知識を手に入れやすくなったことで、最近はぐっと実現しやすくなりました。
駒井
資生堂でも、最近、CAD(コンピューターによる設計支援ツール)や3Dプリンターを導入したり、以前であれば外注していた部分も、自分たちでできるようになるなど、仕事の幅が広がってきています。

田川欣哉

人の心に響くプロダクトデザイン

駒井麻郎iPad / iPhoneアプリ『MUJI NOTEBOOK』(takram design engineering)Planning and Distribution: Ryohin Keikaku Co., Ltd. Planning, Project Management and Visual Design: Kenya Hara and Nippon Design Center Planning, Software Design and Development: takram design engineering Software Design and Development: Jun Homma(Flx Style), Hisato Ogata © 2010 Ryohin Keikaku Co., Ltd.iPad / iPhoneアプリ『MUJI NOTEBOOK』(takram design engineering)
Planning and Distribution: Ryohin Keikaku Co., Ltd.
Planning, Project Management and Visual Design: Kenya Hara and Nippon Design Center
Planning, Software Design and Development: takram design engineering
Software Design and Development: Jun Homma(Flx Style), Hisato Ogata
© 2010 Ryohin Keikaku Co., Ltd.

駒井さんは商品のプロダクトデザインを手がけていますが、テクノロジーの発展は、ものづくりにどのような影響を与えると思われますか?
駒井
大学生の頃に、ある先生から「この先どんどんテクノロジーが発達すれば、音楽を聴くのに、錠剤のようなものを噛めば音楽が聞こえてくる時代になるだろう。とすると、プロダクトデザインという分野は、どんどん少なくなるだろうね」と言われていたんです。けれど、10年以上経った今、そんなことはないと感じています。確かにインターネットが普及し、メディアはCDや本などから、どんどん形のないものに変わってきています。だからといって、プロダクトデザインの重要度がなくなってきているか、というとむしろ逆に感じています。以前、田川さんもiPhoneを例に出して、ソフトウェアがハイテクノロジーになるほど、プロダクトデザインが魅力的になっているとお話しされていましたよね。
田川
ああ、デジタルだけを価値にして、外装のデザインに手を抜くと、モノの魅力が希薄になるという話ですね。製品を語るときに、よく「デジタル」と「アナログ」が対比されますよね? でも、実は両方とも「情報を記述するためのもの」という意味では同質のものであり、本質的な差はないんです。一方、デジタルとマテリアルにははっきりとした違いがあって、デジタルは形も重力もなく、記号で表されるものだけど、マテリアルは「物体」として存在して、重さや堅さ柔らかさといったものを持っています。
駒井
iPhoneは、デジタルとマテリアルの釣り合いがとれていて、その「テンション(=張力)」が商品の魅力になっているともおっしゃっていました。
田川
Apple社の製品は、ソフトウェアやエレクトロニクスが最先端であることはよく知られているところですが、それとバランスを保てるような外装の強い素材感がある。他の企業の製品の多くは、デジタル側が強過ぎて、存在としてのマテリアルの力が弱いんですよ。
駒井
確かに、iPhoneの外装はアルミやステンレス、ガラスの素材感が際立っていますね。
田川
デジタル化が進むことで便利にはなりますが、人間には生身の身体があるので、マテリアルの力が弱いと、どうしてもどこかに欠落感を感じてしまうんですね。際立ったデジタルと際立ったマテリアルが生み出す緊張感やテンション。どちらかがどちらかにすり寄るのではなく、相反する部分も含みながらぎりぎりの状態でバランスしているような感じ。そういったテンションが人の心に響く要素になるのではないかと思います。
駒井
そういう意味では、化粧品も同じですね。中身にはものすごいテクノロジーの結晶が詰まっていて、それと釣り合うプロダクトデザインを試行錯誤するわけですから。僕もキャリアが10年以上になって、商品の外側のデザインだけではなく、中身とのバランスを意識するようになってきたので、田川さんの話がすごくよくわかります。たぶん、入社したばかりの頃にこういった話を聞いても、理解できなかったと思うけど......(笑)。

人とモノの関係性をチューニングする

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お二人は、プロダクトデザインを手がける上で、どのようなことを意識されていますか?
田川
僕は、人間の進化の歴史というのは、道具の進化の歴史と符合するところが多いと考えているんです。道具を作って自分の身体機能を拡張できたことが、人間と他の生き物が違うところです。なので、道具を作ることは、人間が生き延びることとかなり近いところにあると思っていて。
なるほど。
田川
人間にとって「いい道具」とは、手にしたときに自分の身体の一部になるようなものですよね。例えば料理人によって使い込まれた包丁は、指先の感覚より鋭敏かもしれないし、私たちが普段字を書いているペンだって、いつの間にかペンという認識が消えて、あたかも自分自身が紙に書いている気になっていたりすることがあります。それって、モノと人間の間がうまくチューニングされている状態なんです。そのチューニングのバランスがすぐれた商品と出会うと、人はぐっときて購買に至るだろうし、買った後の日々の生活を変えていくだろうし。僕はそのチューニングの部分にすごく興味があるんです。スマホのUIやインスタレーションなど、様々なプロジェクトがありますが、根本の考えは変わりません。人間とモノの関係性をどう作れるか、または成立させられるか? ということですね。
駒井
化粧品の場合は、まさに日常的に使われるものなので、単なる見た目の美しさだけでなく、人が美しい所作で使い続けられるかも考えます。とは言え、女性は現実的なところも大切にするので、キャップが開けやすいといった使い勝手のよさも重視しますね。それから、その商品が百貨店に並ぶ高級化粧品なのか、ドラッグストアに並ぶリーズナブルな商品なのかによってもチューニングの方法が異なるので、そこに仕事の面白さを感じたりもします。

SHISEIDO 「パーフェクトルージュ」SHISEIDO 「パーフェクトルージュ」

「プラスすべき魅力」と「不満のゼロナイズ」

駒井
商品の使いやすさの部分にこだわると、どうしてもデザインのアウトプットの幅が狭くなってしまうこともあるんです。田川さんは、そういう経験はありませんか?
田川
確かにそうですね。モノの魅力には幅があって、人に満足を与える魅力の要素には、「かわいい」「美しい」「使いやすい」といった多様性があるのですが、不満を引き起こしている原因の方にはそれほどの多様性はありません。例えば「使いにくい」という要素です。使い勝手の改善などは、やればできる話で、「不満のゼロナイズ」と呼べる部分です。
駒井
なるほど。
田川
でも、商品企画や開発の現場でダメ出しをしている状況では、なぜかみんなダメな部分をプラスに変えようと頑張ってしまう。ただゼロにすれば良いのに、プラスを目指してしまう。プラスというのは魅力に関わる話なので、簡単にアイデアは出てこないんですよ。見当違いの修正を繰り返す中で、本来ある魅力の力が削がれていってしまうこともよく起きます。だから、自分たちが今やるべきことが、ゼロにできれば充分なものなのか、プラスにしなければいけないものなのかっていうのを、明らかにして議論しないとダメなんです。

永く愛されるモノの法則

商品が売れない原因は、さきほどの話で言うと、魅力が欠けてることにあるのか、それとも使い勝手が悪いことにあるのでしょうか?
田川
ものづくりで失敗するのは、だいたい使い勝手による不満が原因ですね。駒井さんはよくご存知だと思いますが、永く愛されて使い続けられているものって、ダメなところがないですよね。そこに、際立った魅力が加わると名作になる。いい商品を生み出すには、ダメなところをゼロにする作業と、魅力を作る作業の両方を繰り返して、時間をかけて調整する必要があるんです。
駒井
資生堂は、昔からプロトタイピングに力を入れてきました。企画の段階からアクリルモデルをいろいろと作ってみて、早いうちから具体的にイメージしながら開発を進めていっているんです。
田川
それはすごくいい環境ですよね。化粧品はコスト的に試作しやすいという話も聞いたことがありますし、どんどんやるべきだと思います。携帯電話は1つ試作を作るのに、半年間の時間と数億円のお金がかかるんですよ!
駒井
それに比べたら化粧品は試作しやすいでしょうね。それこそ、バブルのときは今よりももっと費用をかけてやっていたと思いますよ。でも、どの業界にも通じる話ですが、今は経費削減の対象がデザイン制作全般に向いてしまうこともあり......。
田川
そこはね、「市場で失敗すると大きなお金を失うじゃないですか? 関わった人間の時間も無駄になってしまう。そもそも買ってくれた人々に迷惑をかけてしまう。試作に投資すれば、損する確率を桁違いに小さくできるんですよ!」って会社に交渉しなくちゃ(笑)。

今あるものに「未知」を加えると、トレンドが生まれる

『ドクメンタ(13)』で「100年後の未来で使われる水筒とは?」という問いに対して作品化した『Shenu: Hydrolemic System(人工臓器システム)』(takram design engineering)『ドクメンタ(13)』で「100年後の未来で使われる水筒とは?」という問いに対して作品化した『Shenu: Hydrolemic System(人工臓器システム)』
(takram design engineering)
Kinya Tagawa, Project Leader (from 10/2011)
Kotaro Watanabe, Story-Weaver (from 10/2011)
Kaz Yoneda, Lead Designer (from 10/2011)
with Moon Kyungwon and Jeon Joonho, Artists
Original concept development by Motohide Hatanaka, Ph.D., Project Leader(until 10/2011)
© 2012 takram design engineering

永く愛されるもののお話をうかがったので、今度はトレンドについて聞かせてください。多くの人に受け入れられる商品を作るために、心がけていることはありますか?
駒井
あまり意識してデザインしたことはありませんが、時代によって流行のデザインというものは、まああると思っていて、ちょっと前までは、削ぎ落とされたシンプルなデザインが主流でしたよね。でも最近は、あえて手触りのあるものを作ったり、アグレッシブな形が多いような気がします。以前、田川さんは「新しいものを生み出さなくてはいけないけれど、時代に合わせすぎると面白いものは生まれない」とおっしゃっていましたよね。
田川
そもそも、時代に合わせるということが僕にはよく分からなくて。というのも、時代に迎合することを完全にやりきろうとしたら、ものすごいスキルが必要だと思うんです。僕にはそれはできないし、中途半端にするとかっこ悪いと思うんです。
では、どういう方法で新しさを作っていくのでしょうか?
田川
トレンドって、今あるものに少しの未知を加えたものだと思います。そういった未知と既知を鎖でつないでいくことで、今と5年後の社会は、全く違うものになっていく。だからデザイナーに必要な嗅覚というのは、自分のデザインした製品が、社会の中で既知と未知の絶妙なバランスを保つ、その感覚なのではないでしょうか。

ものづくりの未来に向けて

これからの未来において、プロダクトデザインの可能性をどう考えていらっしゃいますか?
田川
プロダクトデザイン全般について言うのはおこがましいですが、今の世の中で影響力のある商品のほとんどがインターネットサービスを中心としたソフトウェアで、ハードウェアでものすごいことが起こっているものは少ないんです。なぜかというと、プロダクトの場合は、たとえ面白いアイデアがあっても、その価値を世に問うためには、莫大な投資をかけて万単位で量産しなければいけないからです。だから日本の企業の中にも、面白いアイデアはたくさんあるにも関わらず、市場に出すことができない。
確かに、ソフトウェアはありとあらゆるものが次々と生まれていますね。
田川
Twitterも、アイデアだけを見たら鼻で笑われて終わりだったかもしれないけれど、これほど盛り上がったのは、誰かが試してやってみたからなんです。ようするに、新しいアイデアを世に問うことができる分野とできない分野があって、できる分野は大量の失敗とともに、思ってもみなかった発見というのが出てくる。僕は、21世紀のどこかで、プロダクトデザインのようなハードウェアの分野でも、そうした転機が訪れないかと期待しています。思いもしなかった面白いハードウェアがどんどん生まれるようになったら、世の中の産業の構造も全く変わって、プロダクトデザイナーの担う領域にも新しい可能性が生まれてくると思うんです。
あらゆる企業とお仕事をされている田川さんから見て、資生堂のものづくりはどのように映っているのでしょうか?
田川
ものづくりの環境がとても整っている会社だと思います。試作もしっかり作っていらっしゃるし、若手社員の意見も積極的に採用されていますしね。
駒井
確かにそれは恵まれた環境だと感じるのと同時に、資生堂という会社のインハウスのデザイナーだからできる仕事の可能性をすごく考えますね。キャリアを積み重ねた集団であり、新しいプロジェクトの立ち上がるときは、ゼロから説明しなくても意思の共有ができますし、長い歴史の中で蓄積された技術と経験に学ぶことも、3Dプリンターなどの新しい技術やツールを使うこともできます。いろいろな強みをいかして、これからも、僕たちにしかできないプロダクトデザインを追求していきたいと思います。
掲載日 2014年1月

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