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Space Design 100年の軌跡が示す「香り」への情熱。歴代の香水瓶が一堂に会す展覧会

香水瓶展『Les Parfums Japonais』 香水瓶展『Les Parfums Japonais』
100年の軌跡が示す「香り」への情熱。歴代の香水瓶が一堂に会す展覧会
100年の軌跡が示す「香り」への情熱。歴代の香水瓶が一堂に会す展覧会

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西洋と東洋を融合したハイブリッドな世界

--資生堂が銀座から文化発信するプロジェクト『BEAUTY CROSSING GINZA』の第4弾となる『Les Parfums Japonais(レ・パルファン・ジャポネ)-香りの意匠、100年の歩み-』展。11月からの展覧会に先駆けて、資生堂銀座ビルでの展示が始まりました。どんな内容なのでしょうか?

丸橋:資生堂初代社長の福原信三は、1910年代後半にヨーロッパ、とくにパリ文化への憧れから香水作りを始めました。「香りを芸術まで高めたい」という想いを強く持っていたことから、1917年「香水花椿」を発売。それ以降、東洋文化を融合したオリジナリティーのある香水を数多く世に出していきます。福原の「商品の芸術化」という考え方は100年後の今日まで脈々と受け継がれ、その軌跡を追っていただくのが本展の狙いです。

:資生堂銀座ビルでは、100年の歴史のうち戦後から現在までの香水瓶を約50点展示しています(12月22日まで開催予定)。

--丸橋さんは本展のメインビジュアルを担当しています。とてもシックでグラフィカルな世界観ですね。

丸橋:「Japonais(ジャポネ)」というタイトルに合わせて東洋的なデザインにすると決めていました。最初は、長谷川等伯の『松林図屏風』(16世紀頃)のように、墨絵で描く幽玄的世界を表現したかったのですが、それでは香水瓶の形状がぼやけてわかりにくくなってしまう。そう考えていたときに、狩野永徳の『洛中洛外図』(16世紀頃)のイメージが浮かんだんです。大和絵という様式で描かれた『洛中洛外図』は、場面の転換や奥行きの表現に金色の雲を使う「すやり霞」という技法が取られています。この「すやり霞」は、時空を超えた場面同士を一緒に見せるための方法論でもあり、本展覧会である100年の香水史におけるメッセージを表現するのにぴったりだと思いました。

--大和絵の手法がデザインに生きているのですね。すやり霞の間に見える5つの香水瓶は「絵」のような「写真」のような印象ですが。

丸橋:大和絵のフラットな世界観にあわせて撮り下ろした香水瓶は、平面的に見えるようわざと逆光にしています。あえて「平面の絵」と「立体の写真」、どちらにも見えるギリギリを狙いました。

--色使いについてはどのようなこだわりが?

丸橋:藍色と金色の組み合わせで、オリエンタルな世界観を表現しました。香水瓶も現物のトーンを活かしつつ、黒味を強くして統一感を持たせていますね。こうすることで、個性的な形同士が一つの世界にまとまっていくんです。

『Les Parfums Japonais』展示会場の様子 『Les Parfums Japonais』展示会場の様子

丸橋がデザインした本展のメイングラフィック 丸橋がデザインした本展のメイングラフィック

グラフィックの参考にしたという、狩野永徳の『洛中洛外図』の資料 グラフィックの参考にしたという、狩野永徳の『洛中洛外図』の資料

資生堂フレグランスの原点でもある「香水花椿」(1917年) 資生堂フレグランスの原点でもある「香水花椿」(1917年)

クリエーティブ集団plaplaxが手がけた「香りの波紋」。1Fエントランス展示 クリエーティブ集団plaplaxが手がけた「香りの波紋」。1Fエントランス展示

それぞれの「ゆう」に、短い言葉を添えて展示している それぞれの「ゆう」に、短い言葉を添えて展示している

資生堂銀座ビルのエントランスに広がるレリーフ 資生堂銀座ビルのエントランスに広がるレリーフ

展示台の囲いは、兼六園の「雪吊り」からインスピレーションを得た 展示台の囲いは、兼六園の「雪吊り」からインスピレーションを得た

個性豊かな香水を5つのキーワード「悠・優・誘・遊・幽」でグルーピング

--9月からいち早く始まった、資生堂銀座ビルの展示についてお伺いします。まず1階ショーウインドーには、商業スペースやイベントの空間演出などを手がける注目のクリエーティブ集団plaplax(プラプラックス)による水を使ったインスタレーションがあります。展示に動きがあって、見ていて飽きませんね。

:「香りの波紋」というテーマで制作をお願いしました。資生堂銀座ビルの展示は「悠・優・誘・遊・幽」という5つの「ゆう」をキーワードに香水瓶をグルーピングしています。このインスタレーションでは5種類の水盆を作り、それぞれの言葉をイメージした波紋を創造してもらいました。色のある波紋、元気な波紋......さまざまな表情を楽しんでいただきたいです。自然光が入るショーウインドーなので、同じ波紋でも時間によって見えかたが変化していきます。四季のある日本や、100年の時間の移ろい、そんなところともリンクした繊細な展示です。

--2階では、宣伝・デザイン部のフォトグラファー、金澤正人さんによる香水瓶の写真とともに、歴代の香水瓶約50点が展示されています。2Fの展示空間デザインを担当した堀さんは、戦後から現在までの膨大なアーカイブのなかからどのように展示品を選んだのですか?

:1階と同じ「悠・優・誘・遊・幽」の言葉があり、それぞれにふさわしいものを、瓶の形状、香りのイメージや名前といった総合的なところから感覚的に選んでいます。言葉ごとに5つの展示台を作り、それぞれ7〜11点の香水瓶をレイアウトしていますが、一つひとつの香水についてはあまり説明せず、言葉と香水瓶が織りなすイメージを自由に感じてもらえるように仕上げています。

--展示台のデザインはすべて異なりますね。展示台に作られた曲線が特長的です。

:これは空間との融合を意識しました。2013年に落成した資生堂本社ビル1階エントランスの床に描かれたグラフィック「BANBUTSU SHISEI(万物資生)」のレリーフが、2階へ飛び出してきたようなイメージで形を作っています。展示台の素材はあえてツヤのある黒を使うことで、瓶の姿を台の表面に写り込ませ、複数の瓶が浮かび上がったように見せる工夫をしています。囲いについては、金沢の兼六園で樹木を豪雪から守るために縄を張る「雪吊り」からインスピレーションを受けて、曲線にアレンジ。貴重な年代物の香水瓶はガラスケースでの展示が一般的ですが、ガラス越しではなく、身近に鑑賞していただくことが可能になります。

創業当初の「芸術」への想いは、新たなデザインを生む

--お二人とも、資生堂で香水に関するお仕事を担当されるのは今回が初めてとか。困難に感じたことはありましたか。

丸橋:たとえば新製品のキャンペーンビジュアルを作るときは、製品サンプルを借りてきて、いろいろな角度から見たりスケッチしたりすることで、対象をどう捉えるかを探っていきます。でも、今回の題材は現品一つだけしか残っていないものばかりで、現物をじっくり観察することができませんでした。初めての経験でしたね。

:僕も、現物を並べて見ることができたのは展覧会前日の設営時が最初でした。もちろん数値としてのサイズは事前にわかっていましたし、静岡の資料館(資生堂アートハウス)で現物も見ていましたが、総合的に展示の仕上がりがどうなるかは想像するしかなくて......。実物の展示は本番一発勝負でした。

--ちなみに、お二人が一番心惹かれる香水瓶はどれですか?

:「悠」のなかにある『現代詩花椿賞 2003年』(資生堂が主催している文学賞で、受賞者には特性香水入れが贈呈される)ですね。左右に向かって角のように広がっている香水瓶なのですが、もはやオブジェの領域。独創的な形状と、想像を超える重さは、香水瓶のデザイン概念を覆すような存在感がありました。

丸橋:僕は1964年に発売された『禅』です。当時、東洋のエッセンスを融合させたデザインは画期的だっただろうなと思います。それから、フランスのアーティスト、セルジュ・ルタンスの香水瓶は素晴らしいものが多いですね。芸術品です。

--今回のお仕事は、今後のクリエーションに対してどんな影響がありそうでしょうか。

:初代社長の福原は「香水花椿」を手がけたとき、椿の花には香りがないので、「花椿」という言葉から香りを連想して作っていったそうです。なんて卓越した創造力なのかと衝撃を受けました。その後も福原のスピリットは資生堂のデザインに受け継がれ、今日まで来ています。僕もそのバトンを未来に渡していきたいとあらためて思いましたし、非常に良い刺激をもらえました。

丸橋:若い頃はジャポニズムや東洋趣味にあまり興味を持っていませんでしたが、次第に長谷川等伯が描いた屏風絵などの良さを再確認しはじめたときに今回のお話をいただいたので、仕事にいかせる絶好のタイミングでした。東洋的なデザイン手法はもともと日本人が得意とするところ。表現方法としてもっと磨きをかけ、僕なりにグラフィックの仕事に反映していきたいですね。

『現代詩花椿賞 2013年』の受賞者のために作られた 『現代詩花椿賞 2013年』の受賞者のために作られた

東洋のエッセンスを加えた1964年発売の「禅」 東洋のエッセンスを加えた1964年発売の「禅」

現物だけでなく、撮りおろしの写真も展示している 現物だけでなく、撮りおろしの写真も展示している

Profile
丸橋 桂(まるばし かつら) Art Director
東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。1998年、資生堂入社。東京ADC賞、JAGDA新人賞、日経広告賞優秀賞、空間デザイン賞2016金賞などを受賞。最近の主な仕事は、資生堂ギャラリー グラフィック、SHISEIDO THE GINZA CI計画など。
Profile
堀 景祐(ほり けいすけ) Art Director
千葉大学工学研究科建築・都市科学専攻修了。同年、資生堂入社。主な仕事に、資生堂銀座ビル、グローバルSHISEIDOなどを担当。
Credit
AD / D
丸橋 桂(グラフィック)
堀 景祐(ウインドーディスプレー・展示構成・デザイン)
PH
金澤 正人

クレジット表記について
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー

クレジットは資生堂 宣伝・デザイン部のスタッフのみの掲載としております。

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