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Graphic Design 100年分の資生堂宣伝史に、現役クリエーターが挑む。『Beauty Graphics展2016"ONGOING"』

『ビューティーグラフィックス展2016 『ビューティーグラフィックス展2016"ON GOING』メイングラフィック

Comment

100周年の節目に、時代を彩った作品を見つめなおす

--通算3回目となる『ビューティーグラフィックス展』ですが、みなさんどのような思いで作品に取り組まれたのでしょうか。

川原:資生堂クリエーターたちが「次代の美人像」を表現する趣旨の本展。過去には若手クリエーター活躍の場としても行われてきましたが、今年は宣伝・デザイン部が設立100周年ということもあり、現在の資生堂デザインを担う、4名のアートディレクターが作品に挑んでいます。

--本展のタイトル『ONGOING』は、「現在進行形」という意味だとか。

川原:資生堂宣伝史に残る名作からインスピレーションを得て作品をつくり、これからの時代に向けた新たなビューティーを提案しています。『ONGOING』は、過去から現在を通過して未来へ、という時の流れを、現在進行形でデザインしている私たちがつなげていく──、そんな意味を込めた、コピーライター橋口明日香による秀逸なタイトルです。この言葉が、私たち4人の想いを一つにしてくれましたね。

--広告アーカイブから、それぞれがオマージュとなる作品を選ぶわけですね。

川原:「過去の作品をオマージュに」というのは、多くのクリエーターが在籍する資生堂だからこそできる自由な発想です。先輩たちが残してくれた偉大なものに対するリスペクトがまずあって、越えられない壁に向かって挑戦していく気持ちでした。

資生堂銀座ビルに展示中のビューティーグラフィックス展 資生堂銀座ビルに展示中のビューティーグラフィックス展

ショーウィンドウには片板の作品『紅』を展示 ショーウィンドウには片板の作品『紅』を展示

オマージュしたのは、「資生堂口紅」(1964年) オマージュしたのは、「資生堂口紅」(1964年)

女性の唇をレイヤーで表現した『紅』 女性の唇をレイヤーで表現した『紅』

本番までは手のひらサイズのアクリルで色彩を調整 本番までは手のひらサイズのアクリルで色彩を調整

女性の「表情」を唇だけで表現した美しい「グラデーション」

--各作品についてお伺いしていきます。まず本展のメインビジュアルにもなっている片板さんの作品です。女性の唇をモチーフにした巨大なアクリル板のレイヤーが印象的なものに仕上がっていますね。

片板:オマージュした作品は、1964年の「口紅」広告「メイクアップトウキョウ」。まっさらなバックに赤い唇とネイルが際立った印象的なデザインです。今回は口紅をまとった唇をモチーフに、ドラマチックな紅色を色彩グラデーションとレイヤー効果を用いて立体的に表現してみました。

--口紅の色がとても美しいですね。今回、立体作品にしたのはなぜでしょう。

片板:時間の経過とともに移ろいゆく女性独特の表情を、唇で表現したかったからです。それをコマ割りにして、レイヤーで表現するとおもしろいのではと思いました。女性はさまざまなシチュエーションで本当に豊かな表情が現れます。その時々の気持ちや感情というのは「唇」に現れていることが多いのです。

--角度を変えて撮影した女性の唇を、彩度を保ったまま透明なアクリル板に印刷するのは大変な作業だったのではないでしょうか?

片板:透明アクリルは光を透過する性質があるので、不透明な白い紙などに比べると印刷した色が鮮やかに出にくいんですね。また、1枚のプレートで見たときと、レイヤーで並べたときでは色の見え方が異なります。そこは非常に苦労しました。小さなプレートで試作を重ね、発色の調整をしていきましたが、2m×1mの現物サイズでの出力は本番一発勝負。美しく出力されているか、設営直前まで緊張していました。

女性の内側にある美を、指先の表情に託して

--川原さんの作品『指先の意思』は、6枚すべてが手の写真となっていますね。

川原:「ナチュラルグロウ」のネイルカラー広告(1970年代)をオマージュしました。あえて顔を出さずに、指先や脚だけで女性の美しさを表現するという、いまでは成立しにくい潔い手法に惹かれ、現代に置き換えることに挑戦してみたいと思いました。

--ここで表現したかった女性の美しさとは、どんなものでしょうか。

川原:女性が内側に持っている、多面的な感情です。遊び心、力強い意志、ひとさじの憎しみ、大切なものを愛おしむ気持ち、惑わすような妖艶さ......。今の時代は表層的な美ばかりが優先される傾向にありますが、資生堂宣伝部はずっと内面的な美しさを大事にしてきました。そのスピリットに敬意を込めて、指先でどこまで表現できるか、にこだわっています。自分の内面にあるものと合致するなにかを感じてもらえればうれしいです。

--女性の手と絡み合うフルーツなどの小道具も、存在感がありますね。これはどのように決めていったのですか?

川原:今回は自由に撮影したかったので、ラフを一切描かず、小道具も予算が許す限りたくさん集めました。このほかに、チェスの駒やシャボン玉なんかもありました。現場でモデルさんが持ったときに、その人の内側にある隠された意識は、どのモチーフでどんなポーズのときに一番強く表現されているのかを意識しながら写真イメージをかためていきました。それぞれワンカットにつき1時間くらいかけて撮りましたが、採用したのはすべてファーストカットだったんです! これには現場が騒然となりました(笑)。

「ナチュラルグロウ」のネイルカラー広告(1970年代) 「ナチュラルグロウ」のネイルカラー広告(1970年代)

作品『指先の意思』は、背景と肌色が調和された世界 作品『指先の意思』は、背景と肌色が調和された世界

「オールドルックス」の化粧水広告(1960年/上)をオマージュ 「オールドルックス」の化粧水広告(1960年/上)をオマージュ

「ドルックス乳液」の広告(1957年/上)は、ハットをかぶって表現 「ドルックス乳液」の広告(1957年/上)は、ハットをかぶって表現

50年以上前のイラスト広告を、現代の注目女優で再現

--酒井さんは資生堂の「花椿マーク」を完成させたデザイナー山名文夫氏のイラスト広告(1926〜1960年)に着目されています。

酒井:この時代の広告は、非常にミニマムな表現のなかに、受け手の想像力をかきたてるものが込められています。今も昔も「きれいになりたい」と願う女性の気持ちは変わらないものですが、そのなかにある少しの執着心や、美にのめり込んでいくさまをデフォルメできたらな、と思いました。たとえば、1960年の「オールドルックス」は化粧水の広告だったので、水に沈んで撮影した写真の上に、当時のイラストモチーフを重ねてみました。

--モデルには、二階堂ふみさんを起用されていますね。

酒井:「きれいになりたい」という意思を表現するために、二階堂さんの表現力と強い存在感が必要でした。撮影も意欲的に挑戦してくださったので、一緒に楽しく物語を作ることができました。

--今回、写真作品のほかに動画も用意されているとか。

酒井:手やまばたきなど、一部分だけが動く「シネマグラフ」という技法を用いています。これはデジタルカメラで撮った数秒の動画に静止画のパーツを移植しているんです。ほんの数秒なのですが、わずかな動きをつけることで、彼女が持つ欲望を覗き見するような、想像力をかきたてるものにしたかった。心象風景のほんの少し先、ほんの少し奥、そんなイメージです。さらに最新液晶モニター(協賛:EIZO株式会社)を使用した映像がとても美しいので、ぜひ楽しみにしてほしいです。

「ことば」と対峙する、凛とした女性たち

--「ことばのなかに」が作品テーマの髙礒さん。宣伝部の伝統である「書体」に注目したそうですね。

髙礒:「資生堂書体」という手描きの書体が入社時から大好きで、この魅力を表現したい気持ちがありました。まだ写真広告がなかった1930年代のイラスト広告をオマージュに、「資生堂的なことば」が持つ佇まいを、現代的な素材を使って表現しました。

--1930年代の「ことば」を現代的に表現すると、どうなるのでしょうか。

髙礒:たとえば1936年の「水白粉」は、波うつ女性のイラストと文字だけでした。当時の「きよらかな しとやかな また はれやかな」のコピーと書体を私が手書きで再現し、立体に起こしました。そして、女性はモデルを起用。水で波を表現して、アクリル板にのせた文字を入れて撮影。CGは極力使用せず、原寸大の空間表現にこだわりました。

--ことばと対峙させた女性には、どんなイメージを込めていますか。

髙礒:ことばの持つ意味を立体で表現した世界に、女性がシンクロしている様子を表現できればいいなと。資生堂が描く女性像は、凛とした、品のある佇まいを持っています。そこは今後の仕事をするうえでも守っていきたい部分ですね。

オマージュにした水白粉の広告(1936年) オマージュにした水白粉の広告(1936年)

水白粉広告で使用した資生堂書体をいかした作品 水白粉広告で使用した資生堂書体をいかした作品

髙礒の手書きによって書体を再現(上)、作品をイメージしたラフ(下) 髙礒の手書きによって書体を再現(上)、作品をイメージしたラフ(下)

Profile
片板 豊樹(かたいた とよき) Art Director
東京藝術大学大学院美術研究科 デザイン専攻修了後、1997年に資生堂入社。グラフィックデザインだけに留まらず、ウインドーディスプレーなどの空間デザインも手がける。現在は、HAKU、アクアレーベルの広告デザインを担当。
Profile
川原 彩子(かわはら さいこ) Art Director
日本大学芸術学部美術学科を卒業後、1992年に資生堂入社。海外の著名なフォトグラファーたちと数多くの作品を制作。現在は、クレド・ポー・ボーテ、ロオジエなどのアートディレクションを担当。
Profile
酒井 理絵(さかい りえ) Creative Director
東京藝術大学美術学部 デザイン科卒業後、1993年に資生堂入社。広告デザインのアートディレクターを経て、クリエイティブディレクターに。現在は、インテグレートのクリエイティブディレクションを担当。
Profile
髙礒 恵子(たかいそ けいこ) Art Director
東京藝術大学大学院美術研究科 デザイン専攻修了後、2004年に資生堂入社。アートディレクターとして広告デザインのディレクションを行う傍ら、イラストレーターとしても活躍。現在、エリクシールの広告デザインを担当。
Credit

ONGOING

C
橋口明日香

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片板豊樹
PH
金澤正人

美への耽溺

CD
酒井理絵
PH
金澤正人

ことばのなかに

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髙礒恵子

指先の意思

AD
川原彩子
PH
伊東祥太郎

クレジット表記について
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー

クレジットは資生堂 宣伝・デザイン部のスタッフのみの掲載としております。

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