サクヒン

Movie 一瞬の消費よりも、時間をかけて届くブランド作りを。映像で伝えるベネフィークの世界観

Bを探しに

Comment

ブランドの世界観を人気アートディレクターが映像化

--ブランドメッセージを伝えるために、映像を作るという発想が珍しいと感じました。こうした取り組みのきっかけを教えていただけますか?

永田:ベネフィークは1972年の発売以来、資生堂の社名の由来である「万物資生」の思想のもと、自然の恵みや漢方に着目したアプローチを行っていたんです。2013年に現代の女性に向けて「Beauty Biotope(ビューティ・ビオトープ)」というコンセプトでリニューアルしてから、ブランドのストーリーを伝える方法を模索していたのですが、どうにも説明的になりがちで......ずっと悩んでいたんです。アカデミックに語ることも、年表を作って歴史を伝えることもできるけど、何か違う。周りのスタッフからも「誰が観るの?」とか「手間暇をかけてもだれも観ないよ」と厳しい意見がグサグサ刺さって(笑)、なかなかいい表現に踏み込めずにいました。そんなとき、ブランドのストーリーを絵本や紙芝居のようなかたちで伝えてはどうか? というアイデアが出たんです。それを映像化して、時代に沿ったアウトプットができるんじゃないかと。ただ、どうしても社内でまとめようとすると一方通行になってしまう恐れがあるのでより多くの方に響くようにと、第三者の視点からこの映像をかたちにしてくれる方を探していきました。

--アートディレクターの渡邉良重さんを起用された理由は何だったのでしょう?

永田:渡邉さんの作品って、花や植物など自然のモチーフがすごく多いですよね。それに、女性の内面にある女性らしさや繊細な感情を、とても純粋に表現してくれる人だと思っていたんです。はじめにお声がけしたときは、「向いてないんじゃないかなぁ」と直ぐに引受けてくださる反応をいただけなかったのですが、お会いして社名の由来や、そのテーマを色濃く受け継いでいるブランドがベネフィークであることをお話ししたら、共感してくださったようです。

--「万物資生」といっても間口は広いと思うのですが、具体的にはどんな提案をされたのでしょうか?

永田:そうなんです(笑)。壮大すぎるテーマに、どうしても難解になりがちなのを避けなくてはなりませんでした。渡邉さんがいつも描かれているのは、心に寄り添ってくれるような女性の気持ちを代弁してくれるような情景。だから今回はこれまでベネフィークには登場させることのなかった女性が主人公となって、「Beauty Biotope」のコンセプトを体感するように、「万物の森」を旅する物語はどうか? と提案しました。すると、今度は渡邉さんのほうから、「Beauty Biotope」の頭文字である「B」を探しに行く主人公は、実は「B」は自分の中にあるかもしれないという"気づき"を残してはと提案してくださって、まとまっていきました。

BENEFIQUE ブランド説明 BENFIQUE が大切にするアルファベット "B" も渡邊さんによるもの。

Bを探しに Bを探しに
「涙」の表現をあえて残してまで、伝えたかった思い

--アニメーションの絵が、1枚1枚とても丁寧に描かれているのが印象的でした。

永田:一気に絵を描いてくださったのですが、同じタイミングで、渡邉さんが作詞もしてきてくれたんです。「わたしは森に行かなきゃならないの。Bを探しに行かなきゃならないの」という言葉に始まり、「世界は不思議に満ちている」と自然の中を歩き続け、最後には「わたしの中にある永遠のB」を見つけ出すという物語が、その時点ですでに形になっていました。絵に詩が添えられている映像をイメージしていたのですが、普遍的なテーマをもったストーリーに、「おかあさんと一緒」みたいな歌になったら素敵だね、と「歌」が出来上がりました。

--歌詞の中の"B"というのは、具体的にはどのようなイメージなのでしょうか?

永田:渡邉さんは、「"B"とは一瞬ですぐに消えてしまうような、美しくて儚いもの」と説明してくださいました。同時に「植物や人間、そして地球の力によって繰り返し生まれてくる。そして、それはきっと自分の中で美しく光り輝くもの」ともおっしゃられて。その説明を聞いて、なんてすてきなんだろう、と思いましたね。渡邉さんが歌詞を書いてくださり、ジャニス・クランチさんが作曲と歌を担当してくださいました。ジャニスさんの歌声を通して、静かにメッセージが心に響いてくるという理想のかたちになりました。

--すてきなメッセージですね。抽象度が高い表現だからこそ、伝えたいことが表現されたということもあったのでしょうか。

永田:そうですね、中でも一番のポイントがあって。この主人公は最後に涙を流すのですが、涙のシーンを採用するか、実は社内では様々な反応があったんです。ネガティブなイメージを抱かせてしまうのではないかという意見も出て、このシーンについては最後まで悩みました。でも、涙は悲しみとセットとは限らないし、人は嬉しい時にも、感動したときにも涙を流しますよね。森の中を進んで、美しい植物や蝶と出会い、どんどん自分の心が高揚していって、自分の中にも実は美(Beauty)があったと知って、自然と流れる涙。この感情を、作品のなかで一番大切にしたいと思いました。渡邊さんに涙の代わりに他の表現方法で回避できないかーご相談差し上げたりもしましたが、ここは折れなかった(笑)やんわり共感する姿勢を見せてくださいながら、信念は貫くーというか。結果的には渡邊さんを起用すると決めた時に、こうした妥協はいけないな、と。今はとても素直な感情のほとばしりを残してよかったと思います。説明することが全てはないですから。

あじわうように時間をかけて届けるブランド

--従来のブランドキャンペーンとは全く異なるアプローチだと思いますが、動画以外のコンテンツも作られたのでしょうか?

永田:はい。渡邉さんの描く絵本やプロダクトは非常に人気がありますね。でも欲しい、という気持ちにお応えするのに、彼女の作品をむやみにWeb上で拡散してしまうのは相応しくなのではと感じていて。そこで、Webサイトから絵本のかたちでダウンロードできる絵本のような歌詞カードと、ムービーの中で好きなシーンをキャプチャして、自分のFacebookのカバー画像にできるコンテンツを用意しました。こんな時代だからこそ、手元に置いておける仕組みを作りたかったんです。

--一瞬で消費されるものではなく、長く大切に思ってもらえるブランドを作る。

永田:そうなんです。今回の歌もそう考えていて、一過性のキャンペーンで使用される音楽ではなく、ブランドを語り継いでいく「ライフ・ロング・ソング」と呼んでいます。人生のあらゆる場面において、同じ歌詞が異なって響くこともある。この作品のメッセージも、すぐに答えを提示するものではなく、時間をかけて届いてほしいんです。子どもの頃に聞いた歌を今でも覚えているように、この歌のフレーズを、何度も繰り返して、そして時々また聴いてもらえたら、作品のあじわいも変わってくると思いますよ。

掲載日 2015年7月

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永田 香
Profile

永田 香(ながた かおり): Art Director
埼玉県出身。1997年英国Kingston University Graphic Design Department卒業。98年資生堂入社。主な仕事に、ベネフィーク、マキアージュ、HAKU、香油花椿、マシェリ、グローバルブランド「SHISEIDO」のホワイトルーセント、ベネフィアンス、フレグランスZEN。ザ・ギンザコスメティックスではコミュニケーションのデザインも手がける。


クレジット表記について
  • ECD: エグゼクティブ クリエイティブディレクター
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • Copy D: コピーディレクター
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー
  • ST: ストラテジスト

クレジットは資生堂 クリエイティブ本部のスタッフのみの掲載としております。

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