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Product Design デザインとテクノロジーを融合させて新たな美をつくる。『CRAFTING NEW BEAUTY』プロダクト展

「CRAFTING NEW BEAUTY 美をつくるプロダクトデザイン」展示風景 「CRAFTING NEW BEAUTY 美をつくるプロダクトデザイン」展示風景

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化粧品の枠にとらわれず、美の可能性を追求する四人のプロダクトデザイン展

--銀座ビルの銀座コミュニケーションスペースで、『CRAFTING NEW BEAUTY 美をつくるプロダクトデザイン』展が10月6日まで開催中です。

駒井:資生堂では毎年、グラフィックデザイナーが主体となって作品を展示する『Beauty Graphics』展を開催していますが、今回の展示はそのプロダクトデザイン版として、パッケージ&スペース・クリエイト室のメンバーが主体となって行われました。

--展示のテーマはどのような経緯から生まれたのでしょうか?

駒井:われわれは普段、商品や店舗のデザインを行なっていますが、近年は化粧品に限らない、幅広いプロダクトやサービスのデザインにも関わり始めているんです。その方針の背景にあるのは、近ごろの「美をつくる」製品の多様化です。大手家電メーカーの美容家電がヒットする状況のなかで、資生堂も化粧品にこだわらず何でもデザインしていこうと考えています。

長崎:私が所属する「Design R&D」は、まさにそうした分野の提案に特化することを目的として2016年4月につくられた研究チームです。ミッションは、デザインとテクノロジーを融合させて、未来の美しい生活文化を創造すること。化粧品の枠にとらわれずに、いまだからこそ考えられる美の可能性を日々、模索しています。

駒井:またそれとは別に、残りの出品者三人も、先端テクノロジーと関わりながら、個人的にさまざまな活動を行なってきました。「CRAFTING NEW BEAUTY」という括りのもとで、デザイナーそれぞれの現在進行形の関心を見せたのが今回の展示です。

村岡:最近では社会的にも、美しさの基準が広がってきていて、環境への配慮に美を感じる人もいれば、触覚のような体験に美を感じる人もいる。さまざまな思考やプロトタイプを提示することで、観る人にとっても自分にとっても考える機会をつくれたら、という意図もありますね。

--資生堂の研究分野における進歩も、展示の背景にはあるのでしょうか?

駒井:そうですね。資生堂は香りや触覚の研究の分野で、ほかの企業にない知見をたくさん蓄積しているんです。実際に研究所と関わってみると、「こんなにすごい技術が社内にあったのか」という発見があり、逆に研究所がデザインの力を求めていることも見えてきた。そうした情報共有から生まれたプロダクトやアイデアも、いくつか展示されています。

「CRAFTING NEW BEAUTY 美をつくるプロダクトデザイン」チラシ 「CRAFTING NEW BEAUTY 美をつくるプロダクトデザイン」チラシ

展示会場 展示会場

村岡による「Open Study」展示村岡による「Open Study」展示

村岡デザインの、寒天を使った梱包材 村岡デザインの、寒天を使った梱包材

駒井による「Haplog Machine」展示。研究用機器としてふさわしいかたち、ディテールを追求 駒井による「Haplog Machine」展示。研究用機器としてふさわしいかたち、ディテールを追求

駒井デザインのウェラブル・マルチコントローラーと、デザイン画 駒井デザインのウェラブル・マルチコントローラーと、デザイン画

環境を考えた美、自然で美しい所作。オープンイノベーションの活動を展示

--具体的な展示物について聞かせてください。村岡さんは、「環境」「持続可能な社会」とデザインとの関係をテーマにした、一連のアイデアを展示しています。

村岡:今回は「Open Study」と題して、持続可能なものづくりについて考える2つの手法を見せています。1つ目は「Replace」という手法で、既存のプロダクト素材を別のものに置き換え、環境への負担を減らすもの。会場では寒天を使った梱包材のアイデアを展示しています。軽く多気孔構造を持つ寒天は緩衝材として機能します。また使用後は土壌の保水力を向上させる効果も期待できます。こちらは社外で参加しているデザインユニットAMAMとしての作品です。ほかにも伝統技法の張り子の技術で、化粧品の化粧箱やメーキャップをつくるという案も出品しました。

--もう1つの「Second Life」は、どのような手法でしょうか?

村岡:こちらは、パッケージに第二の人生を与える、リユースの提案です。私たちは日々使いやすさや美しさに配慮しながらパッケージデザインをしています。使用済みの容器に別のパーツを用意したり、違った機能を付加したりすることで環境にやさしいだけでなく、パッケージへのこだわりにも気づいていただければとデザインしました。

--一方で駒井さんは、資生堂の研究所が外部メーカーと2011年に共同開発し、販売もされている触動作センサー「Haplog」を使ったプロジェクトを展示しています。

駒井:このセンサーは、指に装着して何かに触れると、指の腹の幅の変化を測って触覚を数値化できるというもの。もともとは美容部員の優れた技を数値化し、教育可能にすることなどを目的に開発されました。しかし、デザインまでは意識が回っておらず、太いワイヤーが邪魔になったり、すぐに外れてしまったりという難点があったんです。

僕自身は、このことを販売に関わる同僚から相談され、そこから継続的に関わっています。2014年には、センサーをつけた機械の指がパフなどに触れると、連動してスクリーン上の映像が変化するというウィンドウディスプレイを制作しました。今回は、それと同様のシステムによるインスタレーションや、触覚の数値化を観客が体験できる展示物、また、センサーのワイヤレス化に向けたデザインモデルを展示しています。

--触覚という不可視のものを可視化する、おもしろいプロジェクトですね。

駒井:いまは研究素材ですが、さらに進化すれば、ウェアラブル端末のコントローラーとしても応用できると考えています。たとえば、スマホの狭い液晶で操作するのではなく、センサーをつけていればどこを触っていても端末を指示できるとか。このセンサーは人の所作をより自然で美しいものにする可能性があると考えています。

資生堂が持つ研究知見を生かして、「新しい美」にアプローチする

--長崎さんの出品した「BliScent」は、どんなプロダクトですか?

長崎:これは自分のために香りをカスタマイズし、空間を満たすことができる、スマートアロマディフューザーです。現代はネット環境が整ったことで、在宅勤務や自宅での通販ショッピングが容易になり、家にいる時間が伸びているという傾向があります。

香りは、自律神経に働きかけてよい睡眠を促したり、気分を覚醒して仕事への集中力を高めたりすることができます。家にいる時間をより充実したものにするために、資生堂の香りに関する研究知見が生かせるのではないかと考えたのが、このプロダクトです。

--ここでも、資生堂のアート&サイエンスのポリシーが生かされているんですね。

長崎:開発にあたっては、さまざまなリサーチワークや有識者へのインタビューを行ったのですが、資生堂だからこそできることを考え、香りとテクノロジーを掛け合わせるアイデアに至りました。こうした化粧品の範疇を超える、いわゆる家電と呼ばれるものを自分たちで発想し、アウトプットまで行うのは初めての挑戦だったのですが、資生堂が考えるべき「新しい美」には、いろんなアプローチがあるという気づきがありましたね。

長崎による「BliScent」展示 長崎による「BliScent」展示

現在のデザインに辿り着くまでの創意工夫を展示 現在のデザインに辿り着くまでの創意工夫を展示

堀の作品『幾何学と質感 プロダクトから空間まで』の展示堀の作品『幾何学と質感 プロダクトから空間まで』の展示

幾何学の構造を3Dプリンタで表現幾何学の構造を3Dプリンタで表現

試行錯誤するクリエイションの様子を展示。アイデアの掛け合わせが未来のプロダクトを生む

--最後に、堀さんは普段は店舗などのデザインを手がけるデザイナーです。出品作の『幾何学と質感 プロダクトから空間まで』はどんな経緯で生まれたのでしょうか?

:僕は触覚のなかでもとくに弾力と、その心地よさを生み出す物体の幾何学的な構造に関心を持って、調べてきました。弾力というと、一見アナログな対象のように思われますが、その感覚を幾何学の計算式にすることで、商品を置くテスターなどのプロダクトから店舗空間まで、さまざまな規模のデザインに応用できる。今回は、その思考のプロセスを見せ、モックアップで弾力の違いを感じてもらうことが目的です。さらに幾何学が店舗でのさまざまな心地よさにつながっていることを見せる展示にしたいと考えました。

--幾何学の構造が、以前よりも分析しやすくなっているということですか?

:それもありますし、3Dプリンタのような技術によって、従来は成形できなかったかたちがつくれるようになったということもあります。今回も3Dプリンタを利用しましたが、こうした「デジタルファブリケーション」と呼ばれる技術を使うと、これまでは当然のように「硬い」と思われていた素材にも、新しい構造と感触を与えられるかもしれない。そこから、未来のプロダクトや空間が作れるのでは、と考えているんです。

--堀さんは会場のデザインも手がけましたが、そのこだわりは?

:これまで資生堂の展示では、主に完成品を見せてきましたが、今回はまだ製品化までは至ってない「アイデア」を展示するということに特徴がありました。そのため、4人の作品を一緒に並べることで、それぞれにも進化の可能性があるし、お互いが掛け合わされる可能性もある、という見せ方をしています。

駒井:あえて製品に落とし込まれていない、実験段階のものも展示することで、ほかの企業との生産的なつながりが生まれるかもしれない。そこは展示全体として、とても大切にしました。普段の仕事では、実現する前提のワークフローがあり、期限も設けられていますが、それだけをやっていてよいのかという思いは共通していると思います。本来のクリエイションは、実現するかわからないこうした試行錯誤に潜んでいるのかなと。

:その筋トレのような試行錯誤は、普段のスピード感ある仕事のなかでも生きてくるものだと思います。日頃からインプットやストックをしておかないと、いざ大きな仕事を任されたときに、瞬発力を持ってアイデアを出すことはできないですから。

--その試行錯誤を受け止めてくれる資生堂の風土も、魅力的ですね。

駒井:デザインに対する社員の関心が強い会社だと思います。みんな、新しいもの、美しいものを見たいという欲求が強いんです。完成品は当然美しいものですよね。でも、そのプロセスにある思いを見せる展示は、これまであまりなかった。このデザイナーはこんなことを考えているという、個人の思考も垣間見られる、いい意味で「泥臭い」展示を楽しんでもらえたらと思います。

Profile
駒井 麻郎(こまい まお) Art Director
多摩美術大学デザイン科卒業。2001年資生堂入社。ウーノ、アネッサ、クレ・ド・ポー ボーテなどのプロダクトデザインを経て、現在はブランドSHISEIDOを担当。
Profile
長崎 佑香(ながさき ゆか) Art Director
2006年、愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸科卒業。同年、資生堂入社。ブランドSHISEIDO、クレ・ド・ポー ボーテなどのデザインを経て、現在は研究チーム「Design R&D」で、未来の化粧品について提案している。
Profile
村岡 明(むらおか あきら) Designer
2010年、多摩美術大学生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業。同年、資生堂入社。主にブランドSHISEIDOの商品デザインを担当。iFデザイン賞 ゴールド賞、レッド・ドット・デザイン賞などを受賞するほか、社外活動では国際デザインコンペ『レクサスデザインアワード』にてグランプリを受賞。
Profile
堀 景祐(ほり けいすけ) Art Director
2010年、千葉大学工学研究科建築・都市科学専攻修了。同年、資生堂入社。主な仕事に、資生堂銀座ビル、国内外イベント、グローバルSHISEIDOなどの空間デザインがある。
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クレジット表記について
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー

クレジットは資生堂 宣伝・デザイン部のスタッフのみの掲載としております。

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