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Copy Writing 異例の長さのコピーが人の心を動かした。ありのままの「美」を肯定するメッセージに込められた想い

毎日ファッション大賞×資生堂企業広告 毎日ファッション大賞×資生堂企業広告

Comment

答えがひとつではない時代。美を見つめつづけてきた資生堂が、伝えるべきメッセージ

--資生堂は1983年から続く「毎日ファッション大賞」に毎年協賛しており、2017年も同賞に寄せた企業広告を毎日新聞に掲載したそうですね。

橋口:はい。新人賞・資生堂奨励賞を受賞したファッションデザイナーの中里唯馬さん(YUIMA NAKAZATO)とコラボレーションし、俳優の窪田正孝さんをモデルに、コンセプトメイキングやコピーライティングを私が担当しました。掲載後はSNSでも話題にしていただき、新聞社さまに掲載紙を送ってほしいと問い合わせが相次ぐなどの結果を残すことができました。

--制作はどのようにして進んだのでしょうか?

橋口:最初に取り組んだのは、中里さんへのインタビューです。アートディレクターたちと一緒に話を聞き、そこでのやりとりを通じて方向性が浮かび上がりました。中里さんは「すべての人に一点ものを」という考えで服づくりに励んでいらっしゃるのですが、その姿勢に私たち資生堂としても共感する部分が強くあったんです。

価値観が多様化した現代は「これが理想の美です」とか「これが答えです」と一方的に提示しても振り向いてもらえない時代です。そもそも一元的な「答え」が存在するなんて、もう誰も思っていない。それは現代を生きる人の多くが、声に出しては言わなくても、体感として感じていることだと思います。

「美」を見つめつづけてきた会社として、資生堂もこうした時代背景を踏まえて、これからの美のあり方について考え、発信すべきではないかと思いました。画一的でなく、それぞれがそれぞれの美しさを楽しむ未来を期待させてくれるのが中里さんのデザインなら、彼のビジョンを応援する資生堂の広告も、その未来を肯定するものにしたいと思ったんです。そこで生まれたコンセプトが「すべての人が、その人の美しさを楽しめる未来へ」。これを軸にコピー案をつくっていきました。

--実際に掲載されたコピーからは、すごく力強さを感じます。ど真ん中にストレートを投げているような印象ですね。

橋口:普段の仕事では、ブランドの世界観やマーケティング戦略を踏まえてコンセプトをつくり、広告コミュニケーションのコピーに落とし込むような仕事が多いんです。今回はゼロの状態から中里さんへのインタビューを行って、それを膨らませていく過程をすべてクリエイティブチームで完結させたので、ある意味のびのびと、普段できないような挑戦ができたと思います。

アートディレクターからは「これはただのキャッチコピーではなく、メッセージだと思った」という言葉をもらいました。私としては、どんなに短いコピーをつくるときにもメッセージを込めているつもりですが、今回はそれが顕著だったようです。SNSにおいても、このコピーに対してポジティブな感想を発信してくださっている方たちがいて、自分としても見た人の行動や思考を動かすものがつくれたのかなという気持ちです。

広告制作のメイキングムービー

橋口氏がTVCM企画・コピーを担当したアネッサ(2016年2月21日~2017年2月20日)橋口氏がTVCM企画・コピーを担当したアネッサ(2016年2月21日~2017年2月20日)

こちらは色名のネーミングを担当したマジョリカ マジョルカのピュア・ピュア・キッス NEO こちらは色名のネーミングを担当したマジョリカ マジョルカのピュア・ピュア・キッス NEO

「どう」表現するかより「何を」表現するか。言葉で新しい価値を提案したい

--普段コピーを書く際に、どのようなことを意識していますか?

橋口:コピーライターになりたての頃は、いま思えば、言葉の表層をなぞっているようなところがあったかもしれません。「商品を言葉でどう魅力的に飾るか」ということを中心に考えていたんです。けれどさまざまな仕事に携わるなかで、大事なのはもっと根幹の部分だと感じるようになって。

--根幹というのは?

橋口:「価値」とでもいいましょうか。例えば、「ケア」や「保湿」「くすみカバー」など複数の強みを持ったリップがあったとして、それを「たくさん機能があるリップ」と表現するとします。それでは商品の価値の核がどこにあるのかが曖昧なので、「なんとなくよさそうだけど、買う理由がない」と思われてしまう。

商品が持つどの価値にスポットを当てて伝えるのか、その根幹がしっかりしていなければ、いくら言葉で飾り立てても、ほかの商品と違う魅力をお客さまに感じてもらうことはできないと思います。

--「どう」表現するかより、「何を」表現するかが大事ということですね。それを見極めるために大切にしていることは何ですか?

橋口:「毎日ファッション大賞」のコピーを書いたときも同じなのですが、私はいつも「お客さまに何かしらの気づきや幸せを届けられるか」を大切にしたいと思っています。「この商品があるこういう生活っていいな」「私の毎日がこうなるんだったら素敵だな」という気づきや、「わかる、そうなんだよね! それ言ってほしかったんだよね」という共感、あるいは単純に「うれしい!」気持ち。

コピーライターは、あくまで「広告文案家」であって、詩人でもアーティストでもありません。だから、絶対に欠かせない中心は「広告するモノやコト」です。でも、そのものだけをコピーで語るのでは、お客さまに振り向いてもらえないし、すぐに忘れられてしまう。数秒でもお客さまの大切な時間をいただいているのだから、「この広告を見てよかった」という読後感を残したいなと。

--コピーライターだからこそ、誰かの心を動かすものを書きたいと。

橋口:そうですね。今回のようにSNSでの反応を見て、コピーライターってすごく楽しいなとあらためて思いました。自分でつくったものを自分だけでながめて終わりだったら、私は一文字もコピーを書かないと思います。受け止めてくれる人がいるからこそ、私は言葉を紡ぐことができるのかなって。

コピーにしては異例の長さ。でも「それが正解だ」と誰もが思った

--今回のコピーはすべての人のありのままの美しさを肯定する内容ですが、昨今人々のあいだで意識が高まっている、LGBTや性差の問題も念頭に置いていましたか?

橋口:そういった話も含んでいないわけではないのですが、私としては社会というより個人に寄り添った問題からスタートしていて。例えば「あと数cm背が高かったら、着たかった服が似合うのに」とか「もう少し鼻が高かったら」とか、そういった一見些細に見える個人の悩みを、柔らかく解き放つようなメッセージを伝えたいと思ったんです。

--言葉の順序も吟味したのでしょうか?

橋口:どちらかというと、悩んだのはどの言葉を入れるかですね。性別や肌の色はよく問題として取り上げられることですが、体重や目の大きさについては話題にされることが少ないなと思って。でも、それって私自身も気にしていることだし、同じように感じている人がいるのではないかと考えたんです。

--通常のコピーと比べて長いものになりましたね。

橋口:それは私も感じます、イレギュラーだなと(笑)。社内でプレゼンしたときも、誰かから「もっと短くしたら」と言われると予想していました。でも、誰からもそういう意見を聞くことはなくて。短めの案も同時に出したのですが、結局ほとんど全員一致で、いまのコピーを採用することが決まったんです。

コピーライターとしての経験値を積み重ねるなかで、自分が書いたものに対して、文章が長いんじゃないかとか、伝わらないんじゃないかとか、「これはどうせダメだろう」と自分のなかで勝手にボツにしてしまうことが多くなっていたんですね。でもまずは、課題に対して正解にいちばん近いと思ったことを、きちんと提案してみるべきなんだとあらためて思いました。

--今回のプロジェクトに携わったことで、これから先、挑戦してみたいことはできましたか?

橋口:これだけモノやコトがあふれた時代に、どれだけ新しい価値をつくって伝えられるか。そこに挑戦していきたいです。世の中にまだない新しい考え方や生活のあり方を提案して、少しでもお客さまにとってプラスになるような気づきを提供できるものをつくれればいいなと思っています。

Profile
橋口 明日香(はしぐち あすか) Copywriter
資生堂 クリエイティブ本部 コピーライター。ロンドン芸術大学グラフィックデザイン科を卒業後、大手通信会社などを経て資生堂入社。これまでの主な仕事に、マキアージュ、TSUBAKI、アネッサ、スノービューティーなど。
Credit
CD/PH
金澤 正人
C
橋口 明日香
AD
鎌村 和貴
P
神林 弥生

クレジット表記について
  • ECD: エグゼクティブ クリエイティブディレクター
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • Copy D: コピーディレクター
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー
  • ST: ストラテジスト

クレジットは資生堂 クリエイティブ本部のスタッフのみの掲載としております。

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