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Technology リアル×デジタルの新しい地平を拓く。マジョリカ マジョルカがサイネージで実現した「魔法空間」の秘密

「マジョリカ マジョルカ」のプロモーション『MAJOLICA MUSEUM』 「マジョリカ マジョルカ」のプロモーション『MAJOLICA MUSEUM』

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大切にしたのは「魔法感」。ブランドコンセプトを日常空間に再現

--2017年2月に東京メトロ新宿駅構内で行われた「マジョリカ マジョルカ」のプロモーション『MAJOLICA MUSEUM』は、デジタルサイネージが設置された通路の柱をショーケースに見立て、3Dに浮かび上がった商品を博物館のように見せる手法で話題を呼びました。この企画はどのように始まったのでしょうか?

矢村:「マジョリカ マジョルカ」は現在15年ほどの長い歴史を持つブランドで、ファンの年齢層が徐々に高くなってきていることが課題でした。また、同ブランドではこれまで、顔写真を送るとマジョリカ マジョルカの世界観にジェネレートされた似顔絵イラストが送り返されてくる「マジカルドレッサー」など、スマホを使ったデジタルコンテンツを制作してきました。しかし、スマホやスクリーン内だけで何かをすることに限界を感じており、新しい取り組みの必要性を感じていたのです。そこで、効果的に若者にアプローチするための新たな施策に取り組もう、というのが今回のプロジェクトの発端でした。

--デジタルコンテンツへの危機意識が背景にあったんですね。

矢村:若者を集めて流行りのコンテンツについて話を聞いたことをきっかけに、マーケットの飽和状態に気づきまして。若い人たちって特に、面白くないコンテンツに対する評価はシビアですし、広告っぽさが感じられるものを嫌う傾向も強いんですよね。さまざまな競合コンテンツがあるなかで、従来通りスマホのコンテンツをつくってもすぐに飽きられてしまうのではないか、ターゲット層に上手くアプローチできるのか、といった懸念点が見えてきたんです。そんな折、今回ご一緒させていただいた制作会社のビービーメディアさんから、駅に設置されている動画広告枠「デジタルサイネージ」を使った企画の提案がありました。

--「博物館」というアイデアはどのように出てきたのですか?

矢村:ひとつには、ブランドがずっと大事にしてきた「魔法感」があります。メークで自分に魔法がかかったような素敵な気持ちになる、というブランドコンセプトを、「駅という日常空間に突然出現する、非日常的な博物館」で表現したかったんです。また、以前からの調査で消費者の評価が高いことがわかっていた、商品パッケージをきっかけとしたコミュニケーションをしたかったというのもあります。

さらには、サイネージが、ただ平面の広告枠として使われることに対して、もったいなさも感じていました。せっかく現実空間にあるのだから、よりリアルと交差する表現ができないかな、と。そこで、商品をしっかり見せることと、魔法感を驚きある姿で見せるため、博物館でいこうという結論に至りました。

--現場は9本の柱に35面のサイネージがあり、1日15万人以上が利用する通路です。この場所の特殊性については、どうでしたか?

矢村:若い人も含めて通行量が圧倒的に多く、若者への認知拡大という今回の目的にはとても適した場所でしたね。また、空間全体を使って「ブランドの体験」をつくりたいと考えたときに、35面ものサイネージが1か所に集まった空間は、まさに今回の企画にぴったりの奇跡的な場所でした。こんなに多くのサイネージが、しかも1つの柱の4面に設置されて集まっている空間というのは、世界的に見ても稀なんですよ。

--まさに、この場所なくしては実現しなかった企画なんですね。

矢村:私が関わる以前から、ホテルの客室をブランドの世界観に沿った空間につくり上げ、期間限定の宿泊プランとして売り出す企画などもしていたんです。「ブランドを体験してもらうことを重視する」という伝統を、デジタル技術を使って装い新たに実現したのが今回の企画ともいえますね。

今回の施策をまとめた動画

ある一点から見ると、商品パッケージが3Dに浮かび上がって見える ある一点から見ると、商品パッケージが3Dに浮かび上がって見える

商品が最も美しく浮かび上がって見える角度を検証するために、卓上でも重ねて実験を行った商品が最も美しく浮かび上がって見える角度を検証するために、卓上でも重ねて実験を行った

チークの商品パッケージ(上)と、その背景に配された壁紙のデザイン(下)。各商品に対し、壁紙も一つひとつ制作したチークの商品パッケージ(上)と、その背景に配された壁紙のデザイン(下)。各商品に対し、壁紙も一つひとつ制作した

駅構内での現実の体験をオンラインとリンクさせるために用意した、「マジョリカ占い」のコンテンツ画面駅構内での現実の体験をオンラインとリンクさせるために用意した、「マジョリカ占い」のコンテンツ画面

立体が美しく見える角度の探求、壁紙のデザイン......。細部にこだわるブランドの精神を随所に散りばめた

--実際にかたちにするうえで、こだわった部分はどこでしょう?

矢村:商品パッケージやブランドの世界観を、細部にまで活かすようこだわりました。例えば、サイネージ画面の中身だけをデザインするのでなく、柱全体にブランドのロゴを配した壁紙を巻いたり。今回展示したのは4つのアイテムですが、映像内の商品の背景にも、それぞれの商品のパッケージデザインから連想してつくった、別々の壁紙を敷いています。細部にこだわるブランドの精神を随所に散りばめました。

--実際の柱の物質性も薄まることで、魔法感に拍車がかかっていますね。

矢村:また、商品の見え方も検証を重ねました。直角に交わった2面のサイネージに商品が立体感を持って浮かび上がる、という演出ですが、すべての角度からそう見えるわけではなく、ある一点から見たときにだけ、トリックアート的に立体に見えるんです。どうすればキレイに見えるか検証するために、ティッシュボックスでミニチュアの柱をつくって、なかにスマホを入れて試すなどという地道なこともやりました(笑)。角度のつけ方がとても大変なんです。

--でも、その「一点の出会い」にこそ、非日常的な特別感があるように感じます。

矢村:そこは、現場での微調整も重ねました。終電後の駅にみんなで集合して、始発まで現場で確かめる作業も何回かやっています。それぞれの柱のなかの商品がキレイに見えることはもちろん、柱同士の連動も重要で。

というのも今回、ブランドロゴのなかにも描かれている「マジョリカバード」という鳥が8つの柱をぐるりと飛び回る、という仕掛けも施したんです。鳥が降り立った場所に行ってみると、QRコードが出てきて、そこからブランドサイトに飛ぶと、自分に合ったマジョリカ マジョルカの商品がわかる占いができる、という。これはリアルの体験をオンラインにつなげる施策として実施したものですが、柱間の鳥の移動をスムーズに見せることにもこだわりました。

--不確定要素が多い現実空間での試みには、難しさもあったのでは?

矢村:そうですね。デジタル上で完結するコンテンツなら、大抵は制御できるのですが、今回は人の動きも含めて予測できない。人通りが多い駅の通路で、歩行者の流れを妨げないかどうかも気にしたポイントでした。

でも、それがむしろ面白かったですね。今回の施策はいわゆるOOH(屋外広告)ですが、インターネットなどの新しい媒体が出てくるなかで、OOHは現在、下火に感じられます。しかし私自身もそうですが、スマホやインターネットのなかには多くの情報が溢れすぎていて、なかなか広告に意識が向かなくなっていると思うんです。そのなかで、日常にふいに飛び込んでくる屋外広告には、使い方次第で逆に可能性があるのではないか。今回は「魔法感」をコンセプトに掲げるブランドと組み合わせたことで、その可能性が見えた気がします。

最新技術と、現場のリアルな体験。その掛け合わせで、人の心を動かす表現が生まれる

--展開中、現場での人々の反応はいかがでしたか?

矢村:横目で見ながら通り過ぎていってしまう人が多いかなと思ったのですが、予想以上に立ち止まってくださる方が多かったです。お客さんとブランドを、「体験」を通じて結びつけることができたと思います。数値で言うと、マジョリカバードが入り口になるブランドサイトの訪問者は、前月比で187%に増えました。メディアやSNSでも話題にしていただき、目標だった若い層も含めて、これまでは届いていなかった人々にブランドの体験を提示できた手応えがあります。

--技術であらゆることが可能になり、街中に広告が溢れる現代で、驚きを与える表現をつくることは大変です。今回の企画が成果を残した要因は何でしょうか?

矢村:逆説的ですが、あまり広告然としていなかったのが良かったのかもしれません。今回は、通常の広告であれば必須である発売日などの情報は掲載せず、何よりも「世界観を体験してもらうこと」を重視したんです。ファン層を広げるというミッションと同時に、極端な話、「マジョリカ マジョルカを一生買います」という人が1人でも増えたらいい、という気持ちもありました。

2003年のブランドの立ち上げ時にチームで共有されていた重要なコンセプトのひとつとして、「平均的なものにはしない」「『嫌われない』より『好きにさせる』」というものがあったそうです。とかく数による結果が重視されがちなこのご時世にはなかなか言いづらいことですが、その哲学を守り、ただ闇雲に数字を稼ごうとするのでなく、「1人に特別な体験を」という、基本を実践できたのが良かったんだと思います。

--良いものをつくれば、数字は後からついてくると。

矢村:SNSでの拡散を目指してつくっても、瞬間風速で終わってしまう。むしろ、体験をきちんとつくり込めば、自然と人に伝えたくなるものだと思うんです。そこはもう一度、基本に立ち返って考えてもいいのかなと思います。

同じようなことが、テクノロジーの使い方についてもいえると思います。広告表現において、テクノロジーはあくまでも手段であって、それを使って何を表現するかのほうが大事だなと。新しい技術の提示を第一目標にすると、本末転倒になってしまうと思います。「マジョリカ マジョルカ」が長く続いてきたのも、ブランドとして守るべき世界観を発信し続けてきたから。広告においても、媒体を問わず長く続けて、受け継いでいけるような表現を大切にしたいですね。

--最後に、今回の試みを通じて今後につなげたいと感じた点を聞かせてください。

矢村:今回の企画では、『デジタルサイネージアワード』という賞をいただきました。このアワードのほかの受賞作も見てみると、いまサイネージは、どんどん特定の場所と結びついたものになっていることがわかります。例えば、実際の噴水の水の動きと映像が連動したものであったり、空港の保安検査場付近のサイネージを利用して、X線による手荷物検査のモニターを模した映像を流したものであったり。

これを応用すれば、たとえば時間帯や季節、気候などによって表情を変えるといった、その場所でしかできないサイネージの表現も考えられるはず。広告が信じにくくなった現代だからこそ、より現実と日常に寄り添ったそんな表現にも、今後は挑戦してみたいですね。

マジョリカ マジョルカのブランドサイト マジョリカ マジョルカのブランドサイト

Profile
矢村 智明(やむら ともあき) Web Director
資生堂 宣伝・デザイン部Webディレクター。広告制作会社・広告代理店・IT企業を経て資生堂入社。
Credit
CD
小助川 雅人
AD
成田 久
C
田中 翔子
PR
渡辺 桂子
WebD
矢村 智明

クレジット表記について
  • ECD: エグゼクティブ クリエイティブディレクター
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • Copy D: コピーディレクター
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー
  • ST: ストラテジスト

クレジットは資生堂 クリエイティブ本部のスタッフのみの掲載としております。

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