サクヒン

Graphic Design 手に取る人をドキドキさせたい。細部までこだわった、刺繍モチーフの商品カタログ

刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用) 刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用)
刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用) 刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用)
刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用) 刺繍作家、ETSUSHI氏とコラボした資生堂 商品カタログ1、2(社内用)

Comment

ドキドキ・キラキラの感情を込めて、生まれ変わった商品カタログ

--資生堂の商品カタログ(社内用)が、これまでとはまったく異なるデザインになりましたが、どんなきっかけで生まれたのでしょうか。

鎌村:この仕事を担当することになった際、せっかくならこれまでになかったような商品カタログを作りたいと考えました。これまでのカタログは商品そのものを使ってデザインされた物が多かったのですが、今年は商品を使わず、新しくなったSHISEIDOロゴを立たせるようなデザインにして欲しいとの依頼がありました。あらゆる角度でテーマを探っていく中で、モデルを使った案やSHISEIDOロゴのSをグラフィカルに見せるデザイン案などもありましたが、今回はそういった、王道のグラフィックデザインではなく、もっと人の手や温度、質感を感じられるものを制作したいと考え、最終的に今回の刺繍案に辿り着いたんです。

--全体的に華やかでキュートな印象を受けます。今回のテーマを教えてください。

鎌村:今回のテーマは「MAKE UP DOKIDOKI」と「MAKE UP KIRAKIRA」です。まず、お化粧は人をドキドキ、キラキラさせられるものだという想いがありました。資生堂にとって商品は命です。そのカタログを手に取る方が、ドキドキやワクワク、キラキラといった心弾むような表紙にしたいと考えました。2種類あるカタログのうち、赤のカタログ1(表紙左下)は喜びによって溢れる感動を、金色の涙で表現しています。青のカタログ2(表紙右下)はこれから起こることへの期待や興奮、驚きといった感情を表現しています。それぞれに「顔」が隠れているのが一つのポイントです。また裏表紙から表紙にかけて、投げキッスのハートや宝石のキラキラが続いて、裏と表を繋ぐ役割を持たせています。

刺繍はリップなどのコスメをモチーフにしている 刺繍はリップなどのコスメをモチーフにしている

色味やパーツの位置などを確認する鎌村(左)と、刺繍作家のETSUSHIさん(右) 色味やパーツの位置などを確認する鎌村(左)と、刺繍作家のETSUSHIさん(右)

繊細な刺繍と厚みは、ETSUSHIさん作品の魅力 繊細な刺繍と厚みは、ETSUSHIさん作品の魅力

独創的な刺繍作家ETSUSHI氏とのコラボレーション

--今回は刺繍作家ETSUSHIさんとコラボレーションしていますが、どのような経緯からですか?

鎌村:最初にETSUSHIさんの作品を見たのは展覧会です。小さな刺繍の作品が壁にびっしりと飾られていて、100個以上あったのではないかと思います。その一つひとつがとても魅力的で、それぞれ違った表情をしていました。その造形力と、どこにもない個性の強さ、インパクトのある柄や色使いに惹かれました。その時からいつか一緒にお仕事をしたいと思っており、今回はそれがいい形で実現できたと思います。

--すべてのモチーフで使われている刺繍はどうやって作られたのでしょうか。

鎌村:一般的な布に縫い付けていくタイプの刺繍ではなく、水に溶ける生地にミシンを使って糸を何重にも重ねて刺繍を施し、最後にその生地を水で溶かし、作品を取り出すという独特な方法で制作しているということです。ものすごい量の糸を使うので、独特の厚みが出るのも魅力ですね。

--色合いもポップでかわいらしいものが多いですね。

鎌村:彼の手がけるモチーフは、特にこれといった強いイメージやルールがあるわけではなく、日常生活の中でパッと思いついたものから、感覚的に紡ぎだすことが多いそうです。そうした自由でユニークな模様と形を活かすにあたって、どこまで資生堂と融合させていくのかは課題でした。二人のイメージをすり合わせるのに、かなりの時間話し合ったと思います。私からモチーフの形や色、柄を伝えて、それをETSUSHIさんが作品にする。何度も修正を繰り返し、お互い試行錯誤しながらイメージを固めていきました。特に色の感覚を合わすのにはかなり苦労しましたが、お互い「これだ!」という方向性が見えてからは、一気に完成まで向かいました。

書道歴20年以上の異色デザイナー鎌村和貴

--手描きの文字もいい風合いを出しています。

鎌村:これは木炭と和紙を使って私が書いたものです。というのも、私の経歴が少し特殊なんですが、20年以上にわたって書道の勉強をしてきました。大学も大東文化大学文学部書道学科といって、書家の登竜門のようなところに7年間在籍していました。そのまま書家になる道もあったのですが、あるとき友人の名刺とカタログを作ったことをきっかけに、デザインに興味が芽生えたんです。友人はその作品を手に、飛び跳ねて喜んでくれて。その強い喜びを体験し、デザインには人を幸せにできる、圧倒的な力があることを実感しました。それから大学院でデザインを専攻した後に資生堂へ入社しました。

--書道を20年学んだ後に、資生堂入社とは、他にない経歴ですね。

鎌村:そうですね、かなり特殊だと思います。今回のカタログでも、私の「書」をグラフィカルにあしらう案もありました。デザインを私一人で手がけるにあたり、もっと「鎌村」という個人の作家性を出してもいいのでは、という意見があったんです。それで、一つはETSUSHIさんという作家性、もう一つは鎌村という作家性の二つの方向性でデザインを進めていきました。もともと自分としても刺繍案を推していたこともあり、最終的にETSUSHIさんの刺繍案を採用しました。機会があれば、書を全面に打ち出したデザインにも挑戦したいと思っています。

--今回、最もやりがいを感じた部分はどこでしょうか。

鎌村:なんといってもETSUSHIさんという強い個性を持つ作家と仕事ができたことに尽きますね。作家と仕事をするのが初めてだったので、とても貴重な経験になりました。また、個人的には刺繍のレイアウトについて、納得できるバランスを見つけるまで長い時間をかけてきたことでしょうか。素晴らしい刺繍作品が出来上がってきたので、それを最善に見せるレイアウトをしなければという責任感もありました。作品のビビッドな色味を再現してもらうために、印刷工場にも立ち会い、「このカタログはとにかく熱量がすごいんです! 最高の印刷で、それを伝えたいのでよろしくお願いします!」と熱く現場の方にお願いをしました。とにかく熱量あるのみ、という感じでしたね(笑)。

--その想いが伝わるような、ドキドキするポップなカタログに仕上がりましたね。

鎌村:作り手が熱量を持って打ち込んだものは、やはり手に取る人が喜んでくれるし、人々の印象に残せるんだと感じました。制作にはもちろん苦労もありましたが、やり遂げることの意味を実感できる仕事でした。

和紙に木炭で書いたというカタログのロゴは、鎌村の直筆を使用

木炭の独特な風合いは、カタログに温もりを与えてくれる

掲載日 2016年7月

Profile

鎌村 和貴(かまむら かずき) Designer
大東文化大学文学部書道学科卒業後、武蔵野美術大学大学院基礎デザイン学コース修了。2013年資生堂入社。

Credit
CD
小野健
AD
片板豊樹
D
鎌村和貴
PH
伊東祥太郎
P
神林弥生

クレジット表記について
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • Copy D: コピーディレクター
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー
  • ST: ストラテジスト

クレジットは資生堂 宣伝・デザイン部のスタッフのみの掲載としております。

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