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Other 宣伝部の「お医者さん」クリエーティブ・ストラテジストとは?

クリエーターの新しいパートナー クリエーターの新しいパートナー

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時代の変化が生んだ、宣伝・デザイン部の新しい機能

--宣伝・デザイン部のクリエーティブ・ストラテジスト(以下、ストラテジスト)として活躍されている富士榮さんですが、入社当時は営業職だったそうですね。簡単に、これまでの資生堂での経歴を伺えますでしょうか。

富士榮:はい、私は資生堂に入社して10年ほど、営業としてお客さまと向き合う現場に立ってきました。そのあと、宣伝・デザイン部に異動となり、プロデューサーとしてマキアージュ、TSUBAKI、HAKUなどを担当しました。そして、宣伝部のクリエーティブ強化にお力添えいただいた、ネイキッド・コミュニケーションズの吉田透さんの指導を受けてさまざまなスキルを身につけ、宣伝部所属のストラテジスト第1号になったんです。

--吉田透さんといえば、企業の戦略プランニングを手がけるストラテジストとして、広告・マーケティング業界で著名な方ですよね。富士榮さんがご師事された内容は、どのようなものだったのでしょうか。

富士榮:一例ですが、ストラテジストの訓練として、世の中の広告がどんなことを伝えようとしていたのかを逆算して考える方法を教えていただきました。ターゲットは誰か、ブランドの課題は何か、競合はどこか、展開時の社会状況はどうだったかを推測することで、さまざまな広告クリエーティブのもととなった「コアアイデア」がわかるようになりましたね。

--広告クリエーティブの前段階にあたる「コアアイデア」を導き出すのがストラテジストの役割の一つといわれます。実際のお仕事は、どのような内容なのでしょうか。

富士榮:資生堂におけるストラテジストの仕事は、生活者と企業・ブランドが重なるポイントを見つけてコアアイデアを設定し、クリエーターをインスパイアすること。なので、ブランドチームのメンバーを集めて意見を出し合うワークショップをしたり、街に出て化粧品売り場や人を観察したり、インタビューをしたりと、さまざまな手法を用いてコアアイデアを探っています。いままで表に出てこなかったお客さまの声を発見し代弁できる存在になれれば、と考えています。

--たしかに、SNSなどの普及で私たちが受ける情報が増え続けるなかで、生活者の「声」も一律ではなくなっているように感じます。そもそも、資生堂社内にストラテジストが誕生した背景とはどういったものなのでしょうか。

富士榮:人々の意識や行動が多様化している昨今、企業・ブランドと生活者のコミュニケーションは一方的なものではなく、どんどんフラットな関係になっています。そんな時代に求められるコミュニケーションとは、お互いが何者なのかを深く理解したうえで、自分と相手の共鳴ポイントを見出すこと。ストラテジストは、多角的なアプローチで共鳴ポイントを見出し、ブランディングや、生活者の体験価値作りを専門的に行うために生まれたんです。

--ブランドの世界観作りを手がけてきたクリエーティブディレクターの高橋さんは、ストラテジストと一緒に仕事をすることで、どのような影響がありましたか。

高橋:ストラテジストが誕生したことで、お客さまの声を反映しながら、それぞれのブランドにおける「広告は何のためにあるのか」「ターゲットはどんな人か」「ターゲットとなる人の気持ちをどう動かしたいか」などを、きちんと整理できるようになりました。マーケティングの課題を踏まえたうえでどんなものを作るべきか方向性が明確になったので、ブランドとして伝えたい「キーメッセージ」が強くなったと思います。

富士榮:ストラテジストは光を収束・発散させる「レンズ」と役割が似ています。レンズを通過した光が一点に集まるように、さまざまな情報(ファクト)から課題を絞り込み、キラリと光る重要な焦点(コア・コミュニケーションアイデア)に集める。そして、そこから七色のスペクトルが広がるように、クリエーターの色とりどりのアウトプットに発散していくんです。

また、焦点に集めた光のエネルギーで火がつけられるように、クリエーター魂に火をつけることができたらいいな、といつも思っています。

生活者と直接会って、声を背負う 生活者と直接会って、声を背負う

ストラテジストの役割の概念図 ストラテジストの役割の概念図

生活者のリアルに迫る。プランニングで大事にしているのは「背負う」感覚。

実際に街に出て、気づきを得る 実際に街に出て、気づきを得る

生活者や有識者に密着し、行動を観察 生活者や有識者に密着し、行動を観察

生活者のリアルに迫る。プランニングで大事にしているのは「背負う」感覚。

--ストラテジストは生活者を理解するために、どんなことをされているんでしょうか。

富士榮:時代による価値観の変化や、深層心理を把握するためにはデータも重要です。でも、それだけで理解しようとせず、直接触れ合うということをとても大事にしていますね。例えば、実際に商品をお使いいただいているお客さまや社外の有識者とお会いして話を伺ったり、街に出て市場の変化を見て回ったりすることで、新鮮なリアリティのある発見が多くあり、視野もぐんと広がります。

高橋:僕が担当しているマキアージュは、いままで順調に成長を続けてきたブランドだからこそ、今後どこまで新しいチャレンジができるか、線引きが難しいと思っていました。

そう考えていた矢先、富士榮さんからのアイデアで、まずはマキアージュが好きな人だけにフォーカスしてインタビュー調査をすることになったんです。すると、ブランドのファンは思いが強いからこそ「もっとこうなればいいのに」という声をたくさん持っていたことに気づきました。

インタビューで、人々が私たちの製品のどんなところにワクワクしているのかを聞き出せたことは新鮮でしたね。ストラテジストが用意してくれた調査の場を通して愛用者からの率直な意見を聞くことは、ものづくりの喜びを感じられる瞬間でもあり、それをクリエーティブのアイデアにも生かせるんだなと思いました。

富士榮:高橋さんをはじめ、クリエーターが実際のお客さまの輪のなかに入って直接お話しを伺う機会はいままであまりなかったので有意義でしたね。調査でお客さまの話を聞いていくなかで「こんな心の声に応えたい!」という気持ちが湧き上がる瞬間があるのですが、これが起こらないとものづくりがスタートできないと思っているほど、大事にしている感覚なんです。

マキアージュが提案する「レディ」とはどんな女性? ブランドが伝えたいメッセージを浮き彫りにする

--長く資生堂の宣伝・デザイン部に関わってきた高橋さんは、お客さまの声を聞いて、いまの時代に求められているクリエーティブとはどんなものだと感じられましたか。

高橋:バブル経済が崩壊した20年ぐらい前までは、子どもからお年寄りまで、家族全員が同じ部屋でテレビCMを見て、「この商品いいね、買いに行こう」となることが当たり前だったので、みんなが共感するようなクリエーティブを意識すればよかったんです。でも、いまはそれぞれ自分の部屋でテレビを横目に見ながらスマホを操作しています。そんな、情報や価値観が人それぞれ多様化している時代では、すべての人から好んでもらえるものを作るのではなく、「ある人だけは大絶賛してくれるもの」に焦点を当てたものを作るのがいいみたいです。意外にそのほうが結果として多くの人の共感を得ることがある。それがいまのコミュニケーションですね。

富士榮:そのために、マキアージュではブランドイメージをよりくっきりさせ、チームで感覚を揃えるために、「壁を作る」というワークショップを行いました。全員が肩を並べて眺められるボードを前に、みんなでいろいろなアイデアを自由に出し合い、そこに貼りつけていくというものです。ボード上に張り出された各自のアイデアに、さらに別のメンバーのアイデアが上書きされていくので、だんだん全員の感覚が揃ってくるんです。

--実際に、「壁を作った」ときのお話を聞かせてください。

富士榮:マキアージュでは、現行のブランドのコアメッセージ「レディにしあがれ」について、「そもそも『レディ』とは何か?」を明確にするワークショップをしました。

高橋:制作チームのメンバー各自が思い描く「レディ」のビジュアルイメージや、キーワードを壁に貼り出していったんです。すると、マキアージュが掲げる「レディ」は、「キラキラは良いけれど、ギラギラはダメ」「上品は良いけれど、保守的はダメ」といった、いままで可視化されていなかった美意識のキワが、どんどん浮き上がってきて。今後「伝えたいメッセージ」をより強いものにできると感じました。

何度も打合せを重ね、方向性を見出す 何度も打合せを重ね、方向性を見出す

ブランドの輪郭を浮き彫りにするための「マキアージュの壁」 ブランドの輪郭を浮き彫りにするための「マキアージュの壁」

「お客さまを幸せにする喜び」を、未来の資生堂につないでいきたい

--ストラテジストの登場により、資生堂のクリエーティブがより私たちのための新しい価値を生み出してくれるのではないかと期待しています。いま、そんな新しいコミュニケーションづくりに取り組まれている富士榮さんは、今後についてはどのようにお考えですか。

富士榮:私は資生堂に入社してすぐ営業に配属されたので、化粧の力や資生堂が培ってきた145年の歴史をお客さまから学ばせていただいたと思っています。身をもって知ったその歴史を、10年後や100年後の未来の資生堂につないでいきたいと強く思いました。

今後はクリエーターが困ったり、行き詰ってしまったりしたときに相談されるストラテジストになりたいと考えています。そして「富士榮がいたから、迷いなく跳べた」と言ってもらえる、クリエーターのジャンプ台のような存在が理想です。この職種ができて日も浅いので、まずは実績をきちんと丁寧に作っていきたいですね。

--ありがとうございます。さまざまなブランドのクリエーティブを牽引してきた高橋さんはいかがでしょうか。

高橋:クリエーターとストラテジストの連携をさらに強め、新しい価値づくりにどんどん挑戦していきたいですね。資生堂が「人々の喜びを第一に考える」「豊かな気持ちになってもらう」「美しくなってもらう」ということを見失わずにいられるよう、ストラテジストの方には、私たちクリエーターを正しい方向に導いていってほしいと思います。

僕は、ストラテジストは宣伝部の「お医者さん」だと思っています。ブランドが好調のときも、そうでないときも、常に状態を把握して適切な診断結果とそのアドバイスをくれるような存在。クリエーターは、ストラテジストとともにものづくりをすることで、自信を持って仕事を進めることができるのです。

Profile
富士榮史(ふじえ ふみ) Creative Strategist
2001年お茶の水女子大学卒業後、同年に資生堂に入社。営業部門勤務を経て2010年宣伝・デザイン部に異動。プロデューサーとして活動後、ネイキッド・コミュニケーションズ吉田透氏に師事。2016年よりクリエーティブ・ストラテジストとして活動中。
Profile
高橋歩(たかはし あゆむ) Creative Director
1967年生まれ。東京藝術大学大学院修了後、資生堂入社。2005年~2009年ヨーロッパ駐在。主な仕事に、SHISEIDO MEN、マキアージュなど。
Credit
ST
富士榮史
CD
高橋歩

クレジット表記について
  • CD: クリエイティブディレクター
  • AD: アートディレクター
  • D: デザイナー
  • C: コピーライター
  • P: プロデューサー
  • PH: フォトグラファー
  • PL: プランナー

クレジットは資生堂 宣伝・デザイン部のスタッフのみの掲載としております。

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