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2015年1月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者たち<br/>「新井紀子×矢内理絵子」篇
2014年1月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者たち<br/>「美への挑戦」篇
2014年4月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者は、語る。
資生堂トークセッション「美しき挑戦者たち」vol.4
法政大学 総長 田中優子 × グランド ハイアット 東京 コンシェルジュ 阿部佳
江戸の茶屋文化と現代のコンシェルジュ
田中 コンシェルジュと聞いて私が連想するのは、江戸時代の茶屋文化なんです。
阿部 茶屋ですか。面白いですね。
田中 江戸では芝居でも遊郭でも、茶屋がお客さまのためにあらゆることを手配していたんです。たとえば、芝居町には芝居小屋の間に茶屋がぎっしり並んでいました。芝居を見に行きたいと思ったら、まず茶屋に予約します。茶屋から芝居小屋へ案内され、幕間にはお茶やお菓子が運ばれてきて、お昼には茶屋に戻って食事や着替えをします。往復の船の手配も茶屋でした。まる1日お客さまをおもてなしするのが茶屋の役目だったんです。日本人のおもてなし精神のルーツは、茶屋文化にも一端があるように思います。
阿部 江戸にもまさにコンシェルジュがいたんですね。ヨーロッパでは十字軍の時代がルーツだと言われています。疲れた騎士が旅籠や教会にやって来たとき、食事や宿泊の用意を整え、馬の世話などをした人たちが元になったという説があります。現代のようにホテルに常駐する形になってからも、すでに100年以上が経っていますから、ヨーロッパでは伝統があって、社会的な地位も高い職業です。
田中 観光名所からレストラン、エンターテインメントの情報まで、ありとあらゆることに精通していなければいけないから大変なお仕事でしょうね。
阿部 もちろん勉強はしますが、私たちはわからなくて困ったことがあったら、その分野の専門家に聞くんです。
田中 全国ネットワークがあるんですか。
阿部 日本だけでなく、世界中のネットワークですね。その代わり、自分の分野には責任を持たなければいけないんです。海外から問い合わせがあったら、日本の情報についてはひと通り答えられないといけません。
田中 壮大なお仕事ですね。
阿部 私たちのような仕事にしている人間がよく勘違いしてしまうのは、「いいおもてなし」というものがあると思い込んでしまうことです。でも、すべての人に通用する理想のホスピタリティーというものはありません。コンシェルジュの仕事は、「この方は何を求めているんだろう?」「どんなことに喜ぶんだろう?」と、一人ひとりのお客さまの気持ちに立って考えることからスタートするんです。
2020年の東京オリンピックへ向けて
田中 東京オリンピックが決まり、富士山や和食が世界遺産に登録されて、海外からの観光客は増えているんじゃないですか?
阿部 実はすでに今年の春、海外からのお客さまが急増して、ホテルはもとより、レストランもハイヤーもガイドも手一杯の状態でした。英語を話せるハイヤーのドライバーなどはもう取り合いです。すでにそういう状況ですから、2020年に向けて基本的な部分で足りていないことが山ほどありますね。
田中 私たち大学側も、2020年をめざして、英語でボランティアやガイドができる学生を養成しようという目標を持っています。法政大学には現代福祉学部もあるので、特にパラリンピックについては深く関わっていきたいと考えています。
阿部 せっかく日本にいらした外国の方には、ぜひ日本的な場所を案内したいと思うんですが、最近そこにも落とし穴があるんです。我々が「浅草や皇居はいかがですか」とおすすめしても、最近のお客さまにとっての「日本的」は秋葉原だったりスカイツリーだったりするんです。そういったイメージも受け入れつつ、日本の伝統的な魅力も紹介したいと思っています。
田中 私もよく「東京に残っている江戸らしい場所はどこですか?」と聞かれるんですよ。
阿部 それは私もぜひお聞きしたいです。
田中 学生たちに教えるときは、日本橋や人形町など、実際の町に一緒に出かけていきます。そして、江戸時代の絵や地図を見せながら、「この町は昔こんな姿だったんだよ」と説明して、想像させるんです。川は道路に覆われ、建物はコンクリートのビルに変わっていますが、時間の差を想像力で埋める体験を重ねると、だんだん江戸の町が見えてくるようになります。地下鉄に乗らず、町から町へ歩いてみると、当時の距離感もわかってくる。そういうやり方も、一つの旅の方法かなと思いますね。
パイオニアとしてそれぞれの挑戦
阿部 法政大学で女性が総長に就くのは、田中先生が初めてだそうですね。やはり大学というのは、これまで男性中心の社会だったんでしょうか。
田中 建前と本音が違うんですね。建前では大学は完全に男女平等な世界です。研究者は研究の業績で判断されますし、職員も採用試験の成績で決まります。そういう意味では実力主義で、ルールの透明性が高い。にもかかわらず、女性が教員に採用されると、「何か裏があるんじゃないか」と思われるような空気がずっとありました。
阿部 それはどんな世界でもあるんですね。実はコンシェルジュの世界も伝統的に男性社会なんです。日本は特殊で女性のコンシェルジュが多いんですが、レ・クレドールという国際組織の大会に行くと、男性が8割です。
田中 大学教員の男女比もほぼ同じですね。徐々に増えてきたとはいえ、今でも全国平均で約20%。ただ、国会議員の数などはもっと少なくて女性は7〜8%。世界各国の女性議員数ランキングでは127位ですから、まずそこから何とかしたほうがいいという気がします。
阿部 そんな中、先生が総長になったことで勇気づけられている女性も多いでしょうね。
田中 私の場合、学部長になったときも総長になったときも、周りから推されて立候補することになったんです。逆に言えば、それまでは女性の側に「責任のある地位に就きたくない」という心理があったんじゃないかと思います。
阿部 それでもあえて先生が責任を引き受けられたのはなぜだったんですか?
田中 危機感ですね。いま日本の大学は歴史始まって以来のピンチにさしかかっています。これまで人口が増え、進学率も上がる中で、大学数は750校を超え、各大学とも拡大路線を歩んできました。ところが、今後少子化が進めば、間違いなく潰れる大学が出てくると予想されています。でも、大変なときだからこそ引き受けてしまおうというところがある(笑)。
阿部 確かに女性のほうが怖いもの知らずなところがありますよね。私の場合、コンシェルジュというものがまったく認知されていない状態からのスタートだったので、「仕事の中で存在価値を見せるしかない」と思ってコツコツやってきました。そういう意味では、職業そのものを認めてもらうチャレンジだったのかもしれません。その点では、いまも危機感を持っていますし、まだまだやらなければいけないことはたくさんあると思います。
田中 私たちはいま専門家を入れて長期計画でブランディング作業に取り組んでいます。かつて「バンカラ」と言われていた法政ですが、もうそんなことを言っている時代じゃありません。過去のイメージから脱却しつつ、「自由」を至上価値とする法政のよき伝統は守る。そうやって、捨てるものと守るものを明確にして、新しいブランドを構築し直さなければなりません。これは私にとっても、大学にとっても、大きな挑戦です。