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2014年1月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者たち<br/>「美への挑戦」篇
2014年4月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者は、語る。
2014年5月 雑誌広告<br/>美しき挑戦者たち<br/>「天野安喜子×デーナ・ベルテ」篇
資生堂トークセッション「美しき挑戦者たち」vol.5
国立情報学研究所 教授 新井紀子 × 女流棋士 矢内理絵子
そもそも違う人間と人工知能
矢内 人間が将棋を学ぶとき、最初は「どうやって玉を詰ますか」という計算を鍛えることからはじまります。その基礎力が付いたら、次は「どういう戦術をとるか」という段階に入って、過去のデータを調べ、実戦で試し、経験を積んで、引き出しを増やしていきます。
新井 詰将棋というのも大事なんですか?
矢内 詰将棋は頭の中で駒を動かして、10手先とか20手先の局面を脳の中に映し出すための訓練なんです。やっぱりより先の局面が鮮明に見えている人ほど強いですからね。
新井 ある意味、コンピュータも同じことをしていますね。イメージとして見るか、0と1で演算しているかの違いはありますけど。
矢内 さらに、将棋では局面ごとに、たくさんの可能性の中から横に広く読む場合と、直線的に深く読まなきゃいけない場合とがあるんです。
新井 矢内さんはコンピュータの戦いを見て、どんなふうに感じるんですか?
矢内 形にとらわれてなくて、発想が自由だなと感じますね。人間の場合、「金と銀の連携がきれい」というふうに、形の美しさで局面を判断するところがあるんです。でも、コンピュータは一つひとつの局面ごとにリセットしながら最善の手を探している印象です。
新井 文脈がない?
矢内 そんな感じがします。人間は線で読んでいるのに対して、コンピュータは点でとらえているイメージです。
新井 人間は意味を考えるからこそ、データ量が少ないなかで学ぶことができるんですね。逆に何の脈絡もないものからは、苦痛すぎて学ぶことができません。物語性がないもの、意味がないものを機械的に処理するという面では、コンピュータのほうが優れています。人は意味を考える。コンピュータは無意味なもののなかに可能性を見出す。そういうことなんじゃないでしょうか。
矢内 なるほど! すごく実感します。プロ同士の対局って、見てるだけでちゃんとすべての手を覚えていられるんですよ。それは、「なぜこの局面でこの手を指したか」という理由がわかるからなんです。逆に、初心者が動かせる駒をとりあえず動かしているのは、見ても覚えられません。
勝負の先に見えてくるもの
新井 私が関心を持っているのは、「基本的にコンピュータと対局して強くなってきました」みたいな10代や20代の若い世代なんです。そういう方が第3回電王戦のときにもお勝ちになりましたよね。
矢内 豊島将之七段ですね。
新井 そういう方がどんなことを考えているのか、人間と対局したときにも強いのか?そこにとても関心があります。
矢内 電王戦で今まで白星をあげた若手の人たちは、新人王戦で優勝したり、タイトル戦に登場したり、結果を残してます。電王戦に出るためにコンピュータとたくさん対戦して訓練した人たちは、そのあと軒並み成績が上がってますね。
新井 たぶん私たちより上の世代は、「人間が負けちゃった……ガックリ」みたいな人が多いと思うんです。でも、勝った負けたで一喜一憂するんじゃなくて、「そういうこともあるのに、なんでこの人たちはショック受けてるんだろう?」という感覚の若い人たちが作っていく新しい世の中に、私はすごく興味を持っています。コンピュータとの勝ち負けに、ことさら意味を持たせない世代が、新しい価値観を作っていくんじゃないでしょうか。
矢内 確かに若い人のほうがサバサバしてますね。そのあたりはドライです。実際、コンピュータが人間が思いつかないような手を指してきてるわけですから、どっちが勝つかということじゃなくて、コンピュータの考えも柔軟に採り入れていく姿勢が大事なのかなと思います。
新井 コンピュータは意味を考えないから、将棋が強くなってもそれを何か別の行為に活かせません。それに対して、人間は意味というものを考えるから、将棋を通じて高めた集中力や洞察力、決断力を別のことに応用できますよね。だからこそ、将棋という文化は発達してきたんだと思います。
だから、「東ロボ」でも、点数だけを見て、合格・不合格を論じるのではなく、「この手の問題は全問正解なんだけど、こっちはどうも苦手らしいから、ここが人間の勝負すべきところなんだな」というふうに、ドライに認識することが大事だと思っています。人間とロボット、それぞれの得手不得手をうまく組み合わせて、よりよい文化、文明を築き上げられるような方向に持っていくことが重要だと思うんです。
女性の柔軟さや多面性が求められる時代へ
新井 この間、「世界女性会議」というところでお話をさせていただいたんです。そのときにいろんな方とお話しして気づいたのは、世界のトップの女性たちでも、専門をひと言で言える方がすごく少ないということです。なぜかというと、仕事の区分というもの自体を男性が作ってきたからですよね。「工学とは何か」「数学とは何か」「棋士とは何か」。そういう定義はみんな男の人が作ってきた。女の人はいろんなことをやるから、その分類にはフィットしにくいんですね。でも、いまや一つのことだけやって生き抜くのは難しい時代。これからますます、女性の柔軟さや多面性、人と物事をつないでいく力みたいなものが大切になっていくと思います。
矢内 すごく共感します。将棋でも、男性と女性の考え方はちょっと違うなって感じるときがあるんですよ。特に子どもたちに教えていると、男の子は何度負かしても、「もう1回、もう1回」って挑戦して来ます。それで一人で寝食を忘れて勉強する。一方、女の子の場合は、うっかり負かしちゃうと「もういや」ってなっちゃうんです。でも、勝たせてあげて、コミュニケーションをとりながら細かく指示してあげると、とても一生懸命やるんです。
新井 数学も同じですよ。男子のグループはやっぱり最初から勝ち負けなんですね。「一人でやりたい」っていう子も多い。だけど、女子のグループは、「これはこうじゃん」「だよね」と言いながら、みんなでコミュニケーションをとって進めていきます。男子は勝つかどうかに関心がある。女子は答えがわかっていく過程を共有することに関心がある。協調して何かを理解できる状態に仕上げていくという面では、女子のほうが能力が高かったりします。
矢内 私自身はやっぱり勝負師なので、勝つ喜びというものが大きいんです。ただ一方で、女流棋士会の会長でもあるので、将棋というもの自体のおもしろさや、棋士の魅力をもっと外に向けて発信して、いろんな人に共有してもらいたいという思いが強いんです。勝ち負けと同時に、人間ドラマの部分も見て楽しんでもらいたい。そういう仕事にも、これからもっと挑戦していきたいなって思っているんです。
新井 将棋と数学、男性が作り上げてきた夢の世界にうっかり入って、そこで挑戦してきたという部分があるからですかね。今日はすごく共通点があったので、楽しくお話ができました。
矢内 私も新たな気づきがいっぱいあって勉強になりました。ありがとうございました。