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資生堂トークセッション「My Happiness」vol.1
ワイン醸造家 三澤彩奈 × 盆栽家 山田香織
女性として家業を継ぐ葛藤
山田 江戸時代から5代にわたって続く盆栽園「清香園(せいこうえん)」に生まれた私にとって、盆栽はあって当たりまえの身近な存在でした。ただ当時、盆栽と言えば、サザエさんの波平さんのイメージ(苦笑)。
三澤 確かに波平さんと言えば盆栽ですね(笑)。私の家も4代にわたってワイン農園を続けています。ブドウ畑の中で育ったようなもので、子どものころからよくワイン造りの手伝いをしていました。でも、身の周りには女性の醸造家はほとんどいなかったし、弟もいたので、女の私が「ワインを造りたい」と言っていいのかどうか、正直迷いはありました。
山田 やっぱりワインの世界も男性社会なんですね。盆栽の世界も極端に男性社会で、女性の盆栽家は1パーセントもいないかもしれません。力仕事の面もありますし、私自身いろいろと悔しい思いをしてきました。
三澤 それでも家業を継ごうと決めたのは、何かきっかけがあったんですか?
山田 大学生のとき、両親とフランス旅行に行ったんです。初めてヨーロッパの文化に触れて圧倒されました。すごく素敵だと思いつつも、どこか違和感があったんですね。「この異質な感じは何だろう?」と考え続けて、ハッと気がついたんです。私はやっぱりずっと身近にあった盆栽の世界、日本の文化が好きなんだって。
三澤 私は子どものころから祖父と父の姿を見て、格好いいと思っていたんです。当時は今みたいに日本のワインは世界で認められていませんでした。それでも、祖父と父は自分たちがいいと思う「甲州」というブドウを信じて、逆風の中で道を切り開こうとしていました。
「甲州」と「彩花盆栽(さいかぼんさい)」が切り拓いた新しい世界
山田 三澤さんが作っている「甲州」というのは、どんなブドウなんですか?
三澤 きれいなピンク色の果皮をした醸造用のブドウです。日本固有の品種で千年もの歴史があると言われています。ただ、私が醸造家になった当時、品種として可能性があるかどうかは、まったくわかりませんでした。それでも、祖父と父がやってきたことを無駄にしたくないという思いから、必死に取り組んできたんです。
山田 植物ってなかなか人間の思い通りにはなりませんよね。でも、三澤さんは奇跡の甲州を生みだして、そのうえ世界的なコンクールの金賞を取ったんですよね。
三澤 ええ、世界でもっとも審査が厳しいといわれている「デカンタ・ワールド・ワイン・アワーズ」というコンクールで金賞に選ばれました。革新的なワインが作れたという自負はありましたが、金賞とは思ってもみなかったです。山田さんは伝統的な盆栽だけでなく、「彩花盆栽」という新しい表現にも取り組んでいるんですよね?
山田 私はもっと若い人や女性にも身近な趣味として盆栽を楽しんでもらいたかった。それには自分のほうからお客さまに近づいていくことが必要だと思ったんです。そのとき、父が考えていた「寄せ植え」の盆栽を参考にして、自分なりにアレンジした現代風の盆栽を作ってみようというアイデアが浮かんだんです。それが「彩花盆栽」のはじまりでした。
三澤 ワインも昔は伝統と格式を重んじるところがありましたけど、今はボーダレスになってきて、国や地域に関係なく、いいものはいいとクールに評価してもらえる雰囲気になってきました。
山田 盆栽も少しずつ国際化していて、去年もスペイン人の青年が清香園に学びに来ましたよ。
三澤 盆栽って、外国の木でもできるんですか。
山田 できますよ。考え方の基本を踏まえていれば、どんな植物でも作れます。もちろん基本や型は継承すべきですが、それを学んだ世界の人たちが、国際色豊かな盆栽を生みだしていったら、おもしろい未来が開けると思うんです。世界各国でいろんな流儀の盆栽が確立して、いずれワインのように国際コンクールが開けたら…ということも夢見ています。2020年には東京オリンピックもあって世界の目が日本に集まるでしょうし、盆栽も世界に向けて発信していきたいですね。
自然が教えてくれること
三澤 盆栽の元になるのは、やはり自然の風景なんですか?
山田 そうですね。だから、私もよく自然を見に行くんです。山に分け入って、樹齢千年の杉を見に行ったりもしますけど、自然って優しいだけじゃなくて厳しいものだなといつも感じます。
三澤 私も山に囲まれた土地で育ってきたので、山は怒りやすい、怖いという感覚があります。今でもいたるところに道祖神があって、山火事があったりすると、町のおばあちゃんたちは、「山が怒っている」と言います。自然に対する畏怖みたいな思いは絶えず持っていますね。
山田 自然の木というのは樹形も荒々しくて、盆栽が理想とする造形とは違うんです。手つかずの自然は異質で近寄りがたいものですけど、同時に、神々しさ、絶対的な生命力のようなものも感じさせます。私たち人間はそれにあやかりたいと感じる。だから、それを里に下ろし、盆栽という小さな形にして崇めようとしたんでしょうね。盆栽というのは、ある意味では自然の「再表現」のようなものなのかもしれません。
三澤 ワイン造りにも、そういう面はあります。私は山の野性的な部分を知っているからこそ、ブドウに関してはできるだけ野生化しないようにしているんです。ワインの醸造には、「自分の造りたいものはこれだ」という明確なビジョン、ぶれずに邁進していく精神、有無を言わせない強さが必要です。その土地と品種が持つ個性を一つのボトルにどうやって詰めるか。最終的な形をイメージした上で、苗を選んで、樹を育て、自分が一番摘みたいタイミングで収穫します。こういう味にしたいから、こういうブドウを作り、こういうやり方で醸造する。そのプロセスをすべて自分で決めるんです。
幸せを感じる瞬間は?
山田 日々、自然と接しながら、盆栽を育てることに喜びは感じますけど、達成感というものを感じたことはないんですよね。盆栽というのは、一生かけても学びきれない奥深い世界だなという思いが強まるばかりです。
三澤 ワインも何年もかけて熟成していくものなので、「完成」はありません。いくら学んでも学び足りないんですけれど、やるべきことがたくさんあるのは、すごく楽しいことだとも思います。
山田 私の場合、盆栽教室で生徒さんに教えているので、そこでの触れあいの中でやりがいを感じることがあります。「先生、やっと3年目で花が咲いたのよ」。そう無邪気に喜んでくださったりすると、少しずつお伝えしてきたことが、その方の中で感動に変わったことがわかってうれしくなります。「ああ、この仕事を続けてきてよかった。伝わったんだな」って。三澤さんが幸せを感じるのはどんなときですか?
三澤 やっぱり納得のいくワインを造れたときに勝る喜びはないですね。完璧とは言えないまでも、自分のビジョンに近づくことができたとき、自分がいま持っているすべてを出し切ったと思えた瞬間には喜びを感じます。人生、それに勝るものがいまだに見つかっていないですね。