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2015年5月 雑誌広告<br/>My Happiness<br/>世界がふり向く 一途な愛
資生堂トークセッション「My Happiness」vol.3
作家 三浦しをん × 装幀家 大久保明子
きっかけは『まほろ駅前多田便利軒』
大久保 私、エッセイ集の『しをんのしおり』を書店で見たとき、カバーの絵とロゴがかわいかったから、思わず〝ジャケ買い〟したんです。それが三浦さんの本との最初の出会い。拝読したら、とにかくおもしろくて、それ以来ずっと「三浦さんと仕事をしたい!」と思っていたんです。
三浦 え、そうだったんですか。ありがとうございます。私も、作家になる前から本の装幀を見るのはすごく好きで、古本屋さんで働いていたときも、昔の凝った造りの本を見て、素敵だなあと思ったりしていました。いまも本屋さんに行くと、デザインに目がいきますね。「これはいいな」と思って、装幀家さんの名前をチェックすると、「大久保さんだ!」ということが多いです。
大久保 ちょっと恥ずかしいですね(笑)。それで、念願かなって最初にお仕事をさせていただいたのが、『まほろ駅前多田便利軒』だったんですけど。
三浦 あのときは、いきなりリンゴにタバコが刺さってる写真のラフデザインが送られて来たから、ちょっと驚いちゃって。
大久保 わざわざ私の仕事場まで来ていただいたんですよね。
三浦 「ほかの写真があったら見せてください」とお邪魔したものの、いろいろ見てみて、「やっぱりこれがいいね」となった(笑)。実際できあがってみると、まわりの評判もよくて、本屋さんでも目立っていました。
大久保 最初に原稿を読ませていただいたときは、舞台になっている町田の風景写真のイメージがわきました。そこで、写真家の前康輔さんに風景の撮影をお願いしたんですけど、「試しに撮ってみました」というリンゴとタバコの写真がすごくよかったんです。『まほろ』の世界って、スピード感と同時に、ちょっと「たるい」感じもありますよね。あの写真はその空気をよく表していると感じたんです。
三浦 はい。だけど、あの写真が来ても、普通は使うのをややためらうと思うんですよ(笑)。やっぱりそれをおもしろいと直感するセンスがすごいと思う。
装幀までが小説の一部
大久保 小説の場合、カバーはイラストのほうが多いんですけど、『まほろ』みたいに写真を使うと、びっくりするようなものが上がってくることがあります。そこから刺激を受けて、結果的に自分では思ってもみなかった装幀になることもありますね。
三浦 化学反応が起きるんですね。
大久保 ええ、そこは写真のおもしろさですよね。『まほろ』を持っている方にはぜひ見てほしいんですけど、じつは最初に考えていた風景写真も、カバーの下の表紙に使っています。仮フランス装という製本にして、ちょっとラフで、ざらっとした手触りも出しました。本によって作り方はそれぞれ違うんですけど、『まほろ』の場合は「おもしろく作っていい本だな」という感じがしたので、こういう造りにしたんです。実際、作業中もすごく楽しかったですね。
三浦 やっぱり本って手に持って読むことが多いから、重さとか質感もすごく大事ですよね。もしこれが重厚なハードカバーだったら、「多田と行天のくせに生意気だぞ」という感じがするかもしれません(笑)。オシャレなデザインができる方はたくさんいらっしゃると思いますけど、大久保さんのように物語の「空気」を読みとって、目に見える形に表現できる人というのはなかなかいない。小説が醸し出す空気を、本という物質に換えることができるのが、すぐれた装幀家なんだと思います。
大久保 自分がちゃんとできているのか不安(笑)。ただ、三浦さんの場合は、ご自分でいつも装幀のイメージを持ってますよね?
三浦 書き終わって手応えがあったときは、装幀のイメージが浮かぶ傾向にありますね。だから、どなたに装幀をお願いするか、どんなデザインにしていただくかは気になるほうなんです。ちなみに小説家で、「こういうデザインにしてほしい」というイメージを具体的に伝えてくる人、どれぐらいいますか?
大久保 う〜ん、1、2割ですか。
三浦 そうなんだ……あれこれ言うの、やめよう(苦笑)。
大久保 いえいえ、むしろ私は言ってくださったほうがやりやすいんです。
幸福な読書体験
三浦 装幀って、「読み終わった人の気持ちを演出する」という役割もありますよね。たとえば『まほろ』の場合、ちょっと寂しい読後感もあると思うんです。でも暗くはない。それが写真も含めて、装幀のあらゆる部分で表現されているでしょう。読み終わったあと、カバーをはずして本の造りを眺めたりしながら、「なるほど、このデザインって、こういう意味があったんだ」とわかったりすると、本を読むことがより幸せになりますね。
大久保 そう思います。私の場合、本を好きになったきっかけが『ナルニア国物語』だったんです。小学三年生のとき、学校の先生に貸してもらって夢中になって読みました。そのあと母親がクリスマスプレゼントに、きれいな箱入りのセットを買ってくれたんですよ。そのときの喜びは忘れられません。それ以来、ものすごく本が好きになって、図書館へ行っては、むさぼるようにいろんな物語を読むようになりました。
三浦 小学生のころって、小説を異様にするする読める時期があるんですよね。私が夢中になったのは、ケストナーやリンドグレーンのシリーズ。やっぱり箱入りで、タイトルの文字、挿絵や絵地図もすごくよくて、ずっと眺めていた覚えがあります。天沢退二郎さんの『光車よ、まわれ!』という本も好きでしたね。箱から取り出すと、黒地に万華鏡みたいな絵が描いてあったのが印象的でした。手書きの地図も載っていて、何回も鉛筆でなぞった跡が残ってます。たぶん読みながら、主人公たちの行く道を辿ったんだと思う。ワクワクする読書体験でしたね。
大久保 物語世界の地図が載ってるファンタジーっていいですよね。
三浦 うん、やっぱりファンタジーには地図があってほしい。私、本格ミステリに載っている間取り図も大好きで、飽きることなく眺めます。だから、自分が小説を書くときも、必ず間取り図は帳面に描くんです。でも、『舟を編む』を映画化していただいたとき、建物のセットを作る方に、「何回も原作を読み込んだけど、こんなところにベランダはつけられないよ。絶対ありえない間取りだ」と言われました(笑)。
大久保 あはは。どんなことでも仕事にすると大変だとは思いますけど、ゲラ(校正刷り)を読んでいるときって、なかなか子どものときみたいに純粋にその世界に浸ることができないんですよね。「イラストかな、写真かな? イラストでいくなら、どのイラストレーターさんに頼もうか……」というふうに、いろいろなことを考えちゃうので。
三浦 たしかにゲラで読むのって、大変なんですよね。私も自分の原稿を読むときはもう鬼の形相で、ゲラが真っ赤になるまで直しを入れます。
大久保 そのぶん、装幀を終えて、きちんと製本された本を読むと、「なんて読みやすいんだろう。すごく心に入ってくる。やっぱり本というかたちっていいな」と思いますね。やっぱり本って、読むのも、見るのも、作るのも楽しいなと感じます。もう20年、本の装幀をしていますけど、まったく飽きないですね。1冊、1冊、毎回いろんな出会いもありますし。
三浦 そうですよね。私も自分の書いた原稿を読むのは苦痛なんだけど、ほかの方の作品を読む喜びは失われないままです。今はいろんなメディアがありますけど、私はやっぱり印刷物、マンガも含めて本の形状のものが一番好き。私の毎日は、仕事をして、本を読んで、寝て、食べての繰り返し(笑)。寝る前に必ず本を読むんですけど、そのときが一番幸せかな。大久保さんは?
大久保 本ができあがったときはやっぱりうれしいですけど、日常生活でも地味にちょこちょこ幸せな瞬間はあります。最近は仕事から帰ってきて、夕ご飯を作る前にひと口お酒を飲むときがけっこう幸せですね(笑)。