第3回 shiseido art egg賞

shiseido art egg賞-様々なジャンルで活躍する3人の審査員が、独創性、新奇性、資生堂ギャラリーとの空間の親和性(いかにギャラリーの空間を読み解き、使いこなしたか)に加えて将来性を評価の中心として審査し、3つの個展のなかから、ひとつにshiseido art egg賞を贈ります。

第3回shiseido art egg賞は宮永愛子さんに決定いたしました。

宮永愛子展
宮永愛子展

4月17日に行われた贈賞式において、宮永さんに前田社長より記念品および賞金20万円を贈りました。

贈賞式
宮永愛子

受賞の言葉

沢山の方に展示を見ていただけたこと。
制作に関わる人との時間。それから二人の仲間との出会い。
どれがかけても気持ちよい展示は出来なかったと思います。
この経験を大切な一歩として、ひとつのアートの時代を紡いでいけるよう頑張りたいです。

審査実施報告

審査員

本年の審査員は石内都、鷲見和紀郎、茂木健一郎の3氏です。審査員は、3ヶ月にわたるshiseido art egg展開催期間中に3つの展覧会を鑑賞し、審査にのぞみました。そして実際にクリエーションに関わる視点から、また科学的な視点から、各展覧会について活発な議論を交わしました。

3人とも新人ながら完成度が高く三人三様の個性をよく出しており、予想以上で驚いた、というのが審査員全員の共通する意見でした。
その中でひとつの展覧会を選ぶことは、例年のことながら困難を極める作業となりました。

宮永愛子は、空間把握の確かさと、造形的な美しさ、時代性にマッチしている点で高い評価を得ました。
佐々木加奈子は、未完成ながら世界に開いた視点を持った、日本では稀な作家であるという点で高く評価されました。
小野耕石は作品の提示方法に課題が残るものの、決して現代的ではない手法で全く新しいもの(誰も見たことのないもの)を作り出そうとする姿勢が今後のアート界の方向性を変えていく力を秘めている点で審査員の強い支持を得ました。
将来性なのか、空間把握の完成度なのか、作品自体の持つポテンシャルなのか、また現在性(同時代性)なのか、これからのアート界の今後も視野に入れた評価なのか、3時間におよぶ議論の末、資生堂ギャラリーの空間把握の完成度が最も高く、同時代性が評価された宮永愛子にshiseido art egg賞を贈ることに決定しました。

作品を見た後しばらくしてどのように自分の中で立ち上がってくるのかを作品評価の基準のひとつにする茂木健一郎氏、コンセプトと作品の関係性、アート界の現状と今後の展望も基準の視野に入れる鷲見和紀郎氏、女性作家独特のまなざしを日常的な事物に反映させながら作品化を考える石内都氏。各ジャンルで活躍され、独自の世界を確立されている3人の審査員が、真摯に各作家の展覧会について考え、濃密な議論の中で、評価と今後の課題を提示してくださることは、参加作家にとっても、事務局にとっても、非常に重要であり、アートエッグの趣旨の大切な一部と考えています。宮永愛子、佐々木加奈子、小野耕石の3人には、審査会でいただいた貴重なご意見を今後の活動につなげていってもらいたいと思っています。貴重なお時間をアートエッグ賞審査に費やしてくださいました、石内都氏、鷲見和紀郎氏、茂木健一郎氏に心から御礼申し上げます。

審査員所感

宮永愛子展 《地中からはなつ島》
2009年1月9日(金)~2月1日(日)

かつて湧き水や井戸が多数存在した「銀座」の地下にあるギャラリーという場所性に着目し、水脈をモチーフとしたことは高く評価できる。
難しいギャラリーの空間を非常に上手く使いこなしていた。また、造形的な美しさは3展の中でも評価が高かった。
いつかは滅びるという物質の宿命を象徴するような、ナフタリンという消えてなくなる素材を用いて作品化している点が非常に面白く、確かだったものがメルトダウンしていく現代の世相にマッチした作品である。

宮永愛子展
宮永愛子展

反面、パイプをギャラリー内に林立させてその中で展示したことで、インスタレーションの印象が強く、消えてなくなっていく作品の質(世界観)とのバランスにもひと工夫欲しかった。
日常品をかたどってモチーフにしている点、実在のモノを元に表現が生まれている点が、現代的であり表現として弱い部分でもある。実在しないものをナフタリンで表現した作品も観たかった。という意見がある一方で、日常へ目を向ける女性独特の感性で、あえて日常にあるものをモチーフにして記憶や時間を作品化している点がこの作家の持ち味であり、評価できる、という意見も出た。

佐々木加奈子展 《Okinawa Ark》
2009年2月6日(金)~3月1日(日)

閉じている印象の作家が多い日本の若手の中で、歴史的事実、社会的問題を主題とし、現地の手触り、身体性を含めて作品化しているという点で貴重なタイプのアーティストである。このようなアーティストがshiseido art eggとして選出されたことは意義深い。
しかし、ボリビアのオキナワ村という史実をストレートに表現しすぎたために、ドキュメンタリーなのかアート作品なのか曖昧になってしまった。

佐々木加奈子展
佐々木加奈子展

史実や社会的問題を作品化する(事実を伝えたい)場合、主題の生々しさを一見分かりにくいまでに消化して表現したほうが、アート作品としてより強く心に残るものになるのではないか。モチーフの中で強烈ななにかをしぼりこんで提示する(例えば、本人が登場する「全力疾走の場合」のような映像を大きく扱う)などの工夫が欲しかった。 この作家の考え方や視点は日本において貴重なので、今後の表現に大いに期待したい。

小野耕石展 《古き頃、月は水面の色を変えた》
2009年3月6日(金)~3月29日(日)

版画という、人類が古くから使用してきた技法を基本に、自身で発見した手法(ドットを100回以上重ねて刷って重積させ、色の積層を構築していく)で、「色」という自身の興味をとことん追求し、今までにない表現を模索している姿勢は評価できる。
大変美しい作品だが、展示方法に検討の余地がある。壁面への展示など、見せ方や構成などを工夫し、作品の持つポテンシャルを更に引き出すことができたら、一層魅力的な作品になるはずである。

小野耕石展
小野耕石展

作家自身、現在は作る行為に集中しているが、今後アーティストとしての技量を問われる時期がくるであろう。技術の進化にのみ固執していくのは危険であるが、現在の愚直なまでの姿勢を保ちつつ、新たな表現の幅に是非挑戦していってほしい。

審査員

石内都(写真家)

石内都(写真家)

群馬生まれ。横須賀育ち。1977年個展「絶唱・横須賀ストーリー」で本格的デビューをはたし、1979年『APARTMENT』で木村伊兵衛賞を受賞。古びた街、身体の傷など「生」の記憶と、時間の痕跡を表現し続けている。2005年、第51回ヴェネチア・ビエンナーレで日本代表として参加し、波乱の半生を背負った自身の「母」をひとりの「女」としてとらえ、身につけていた衣類や、遺品などから織りなされるシリーズ「mother's」を出展した。主な展覧会に「石内都:mother's」(2006年、東京都写真美術館)、「石内都展 ひろしま Strings of Time」(2008年、広島市現代美術館)、「石内都展 ひろしま/ヨコスカ」(2008年、目黒区美術館)など。2009年、毎日芸術賞受賞。

鷲見和紀郎(彫刻家)

鷲見和紀郎(彫刻家)

岐阜生まれ。ブロンズ、石膏、ワックスなど様々な素材を使い分け、幾何学的形態から有機的形態まで幅広い表現をおこないながら、「垂直性」と「水平性」の問題に取り組むなど、同世代の彫刻家の中でも特に、オーソドックスな彫刻の条件を堅持して作品を制作している。主な展覧会に「現代美術への視点―形象のはざまに」(1992年、東京国立近代美術館・国立国際美術館)、「視ることのアレゴリー」(1995年、セゾン美術館)、「ART TODAY 2000」(2000年、セゾン現代美術館)、「今日の作家XI 鷲見和紀郎 光の回廊」(2007年、神奈川県立近代美術館 鎌倉)など。資生堂ギャラリーでは第5次「椿会展」(2001~05年)に参加。

茂木健一郎(脳科学者・ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー)

茂木健一郎(脳科学者・ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー)

東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文芸評論、美術評論にも取り組んでいる。主な著書に『脳とクオリア』(日経サイエンス社)、『生きて死ぬ私』(徳間書店)『心を生みだす脳のシステム』(NHK出版)、『意識とはなにか--‹私›を生成する脳』(ちくま新書)、『脳内現象』(NHK出版)、『脳と仮想』(新潮社)、『脳と創造性』(PHP研究所)、『クオリア降臨』(文藝春秋)、『脳の中の人生』(中央公論新社)、『プロセス・アイ』(徳間書店)、『ひらめき脳』(新潮社)がある。『脳と仮想』で、第4回小林秀雄賞を受賞。2008年、横浜美術館で開催された「わたしの美術館展」ではゲストキュレーターを務めた。