第5回 shiseido art egg賞

shiseido art egg賞-クリエーションに関わる様々な分野で活躍する3人が審査し、3つの個展の中で資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造をもっとも予感させると評価した展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。

第5回shiseido art egg賞は今村遼佑さんに決定しました。

今村遼佑展 今村遼佑展
撮影:加藤健
今村遼佑展

4月20日に行われた贈賞式において、当社社長の末川より今村さんに記念品並びに賞金20万円を贈りました。

贈賞式
今村遼佑

受賞の言葉

震災についての話が審査の場でもなされたと聞きました。社会あるいは個人の世界への見方が大きな変化を余儀なくされている時だと思います。私の制作がどのようにその影響を受けるべきなのか現時点では考えはまとまっていません。実践する中で反応したことを確認していければと思います。変化するのであれば変化すればいいし、変化しないのであれば変化しなくていいと思っています。変わることが正しいとも思いません。さまざまなメディアで膨大な情報が飛び交う時代だからこそ、もっと別の確かさをもって小さな事象を伝えることのできる美術に価値も出てくるかと考えています。ただ、今後時間をかけてより広く遠い想像力を獲得していきたいと思っています。そしてそれを持続すること、と同時に過信しないこと。その中でもっとよい作品を生み出せればと思います。ありがとうございました。

審査実施報告

【総評】
本年度の審査員隈研吾、宮島達男、やなぎみわの3氏は、shiseido art egg展の開催期間中に3つの展示を鑑賞し、ポートフォリオを確認する等の過程を経て審査にのぞみました。キャリアを積んだクリエーターならではの厳しくも温かい意見が交わされ、熱を帯びた議論となりました。
特に本年は、3つめの川辺ナホ展開催中に起きた東日本大震災が、審査の行方を左右しました。時事的な要素を審査に反映させることの是非を問いながらも、震災後に世界の価値基準が変わったと審査員それぞれが感じていたこと、また、これ以降の日本の美術界は大きく変容すると思われることから、「震災後の世界に求められる表現」という視点が大きな焦点の一つになりました。
その結果、3人のアーティストそれぞれが完成度の高い空間を作りだしており、将来も期待されるが、より場の力を引き出していたこと、鑑賞する者の感覚の閾値(いきち)を広げ、世界の見え方を変える試みであることが評価され、第5回shiseido art egg賞は今村遼佑展に決定しました。
貴重なお時間をshiseido art egg賞審査に費やしていただき、熱心かつ誠実に議論してくださった、隈研吾氏、宮島達男氏、やなぎみわ氏に心から御礼申し上げます。

審査員
審査員
審査員
撮影:加藤健

審査員所感

藤本涼展
2011年1月7日(金)~30日(日)

自身の感覚や感性でとらえた被写体を独自の手法を用いて印画紙に定着し、新たなイメージを作り出している作品。写真と別のマテリアルを用いてイメージを合成していくときに出てくる視覚的なイメージの揺らしが、このアーティストの持ち味と言えるだろう。見る側の観点が問われるタイプの作品である。
写真としての完成度は高く、表現されたイメージも美しい。また、アーティスト本人のやわらかで繊細な感覚をそのままの状態で提示している点、言い換えれば、持っている要素を無防備にすべてさらけ出している点は、見る側から痛みにも似た感覚を引き出すことに成功している。

藤本涼展
撮影:加藤健
藤本涼展

反面、その持ち味が、弱さやもの足りなさにつながっており、そこをどう考えていくかがこれからの課題である。自身の感覚だけに寄らず、「私」を超えるより大きな枠組みの設定があると、作品に強度が加わるであろう。とはいえ実力はあり、今後、評価がついてくるアーティストだと思われる。

今村遼佑展
2011年2月4日(金)~27日(日)

神経を研ぎ澄まさないと聞こえてこないような「かそけきもの」に寄り添い、見る側の感覚、閾値(いきち)を問いただす、興味深い試み。人間の感覚・知覚と環境との関係性を見せることを意図し、削ぎ落としたミニマムな表現によって、ギャラリーというホワイトキューブの空間から場所の力を引き出すことに成功した。
この作品を見ることで、鑑賞者の感覚の閾値(いきち)は広がり、無機的な空間にも多様な場所性があると、初めて気づく。そして、自分の知覚センサーがこれほどまでに鈍かったのだということを知らされる。そのような、人間の感覚を、生物としての根幹にかかわる原始的なところにまで増幅していく作用を引き起こす作品である。
技術的には未熟な点も見受けられるが、見る側の感覚を問いただし、作品に接した前後で世界の見え方を変えてしまうような力がある。震災後を生きる我々には、これから「声なき声に耳を澄ませること」が求められる。それを聞きとらない限り、世界を再構築することはできないだろう。そのような意味で、この作品は、これからの我々が求めるべきものを示していたと思われた。
今後はもう一歩踏み込んだ強度のある表現を獲得し、一層の飛躍をしていってほしい。

川辺ナホ展
2011年3月4日(金)~27日(日) 
※12日(土)~22日(火)は東日本大震災の影響により休館

視覚的なレトリックを駆使して意味性を変容させていくという、日本ではあまり見られない手法を用いた展示。作品構成も緻密で、3つの展示のうち完成度が最も高く強さがあった。「私的なもの」をメタレベルで相対化できる視点も貴重であり、アーティストとしての安定感を感じる。
一方で、ロジックで明快であるが故に見る側が作家の意図を受け取って納得してしまうと、それ以上の深まりや広がりを生じさせにくいところがある。 いずれにしても、東洋的・前近代的なゆるさを排し、ロジカルに世界を構築している点は評価に値する。現代美術のレトリックを超えたものを、どこまで表現できるかが今後の課題となるが、このような強度は現在の日本の美術界が最も必要とするものといえる。

川辺ナホ展
撮影:加藤健
川辺ナホ展

東日本大震災で展示が一時中断され、実質的にも作品の見え方にも震災の影響を一番受けた作家であるが、再開後に来場者に配布されたコメントには、自身の表現の背景と、表現を問い直した経緯が記されていた。自作に誠実に向き合い直し、言葉を記した経験は、作家として生きていくうえでの糧となるだろう。これからの日本のアートを牽引する立場で活躍することを期待している。

審査員

隈研吾(建築家/東京大学教授)

隈研吾(建築家/東京大学教授)

神奈川生まれ。1979年東京大学大学院工学部建築学科修了後、1990年隈研吾建築都市設計事務所設立。代表作として、石の美術館(2000)、サントリー美術館(2007)、ティファニー銀座(2008)などがある。2009年芸術文化勲章オフィシエ(フランス)受章、2010年「根津美術館」の設計で毎日芸術賞、2011年「梼原 木橋ミュージアム」の設計で芸術選奨文部科学大臣賞(美術部門)受賞など国内外で活躍する。

宮島達男(現代美術家/東北芸術工科大学副学長)

宮島達男(現代美術家/東北芸術工科大学副学長)

東京生まれ。1986年東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。1988年ヴェネツィア・ビエンナーレに招待され、LEDを使ったデジタル数字の作品で国際的に注目を集める。以来、世界30カ国250カ所以上で展覧会を開催。1993年ジュネーブ大学コンペティション優勝。1998年第5回日本現代芸術振興賞受賞。同年ロンドン・インスティテュート名誉博士。代表作に「メガ・デス」など。また、被爆した柿の木2世を世界の子どもたちに育ててもらう活動、「時の蘇生」柿の木プロジェクトや核なき世界を目指す「ピースシャドウプロジェクト」も推進している。

やなぎみわ(美術作家)

やなぎみわ(美術作家)

兵庫生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。若い女性の理想の祖母像を描いた「My Grandmother」シリーズ、寓話の中の少女と老婆にスポットをあてた「寓話」シリーズなど、女性性をテーマにした写真作品で知られる。グッゲンハイム美術館(ベルリン)、東京都写真美術館、資生堂ギャラリー、国立国際美術館(大阪)等での個展ほか2009年にはヴェネツィア・ビエンナーレの日本館代表にも選ばれるなど、国内外で活躍。資生堂ギャラリー第六次椿会メンバーとして2007年から2010年まで活動。