第8回 shiseido art egg賞

shiseido art egg賞-クリエーションに関わる様々な分野で活躍する3人が審査し、3つの個展の中で資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造をもっとも予感させると評価した展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。

第8回shiseido art egg賞は今井俊介さんに決定しました。

今井俊介展
今井俊介展

今井俊介展 <range finder>
撮影:加藤健

4月7日に行われた贈賞式において、当社企業文化部部長の岡田より今井さんに記念品並びに賞金20万円を贈りました。

贈賞式
今井俊介

撮影:加藤健

受賞の言葉

作家になるんだと思ってから早いもので10年と少しが経ってしまいました。この賞を頂けたことでタマゴからヒヨコくらいにはなれたかなと思います。ここ数年は絵画というものに向き合ってきたつもりでいます。そこで掴んだ何かがひとつのかたちに出来たのは、この空間で展覧会を開催することが出来たからだと思います。好き勝手にやらせてくれた資生堂の皆様、見にいらしてくれたお客様、そして審査員の方々をはじめ関わっていただいた全ての方に感謝いたします。

審査実施報告

【総評】
本年の審査員は堀江敏幸、三田村光土里、山本直彰の3氏が務めました。審査員はshiseido art egg展の開催期間中に3つの展示を鑑賞し、各作家のポートフォリオを精査し、また、必要に応じて作家本人と話をするという過程を経て審査にのぞみました。
複雑なプロセスを経て制作した立体作品でモノとイメージの関係に働きかけた加納俊輔、正面から絵画に対峙し平面の中に現れる三次元性を問うた今井俊介、日用品を美術品に見立て芸術が成立する場や枠組みを検証する古橋まどかと、3人のジャンルは異なり、作品も三者三様ですが、芸術の構造自体について問題を提起している点に共通の要素が見られました。
また、いずれも作品制作の技量や展示の完成度が高かった一方で、「その先」へ向かおうとするチャレンジングな姿勢や強い欲求が希薄に感じられた点も指摘され、審査は、作品の持つエネルギーや制作する上での切実さ、次の展開への期待などが焦点となりました。最終的に、際立った安定感、平面に向き合う姿勢の潔さ、絵画作品としての魅力そのものが評価され、第8回shiseido art egg賞は今井俊介に決定しました。
貴重なお時間をshiseido art egg賞審査に費やし、幅広い視点から熱く議論してくださった堀江敏幸氏、三田村光土里氏、山本直彰氏に心からお礼申し上げます。

審査員
審査員

審査員所感

加納俊輔展 ジェンガと噴水
2014年1月10日(金)~2月2日(日)

重なり合った複数のベニヤ板の表面に、別の重なりを見せるベニヤ板の写真を貼って再構成することで、実物とイメージの関係がわからなくなる。そのような鑑賞者の認識を揺さぶる立体作品と写真作品による展示である。
視覚を通じた認識について、様々な素材を用いて追究した、よく計算された仕事で、一見、単なるオブジェに見えるが、複雑な工程によって“時間”を凝縮して見せたことにより、ある種の厚みや重み、人工的な圧力も獲得している。大量のベニヤ板を切るようなハードな作業も制作プロセスに含まれているのに、そんな汗臭さを全く感じさせないクールな仕上げが印象的である。こういう表現や効果は、デジタル社会ならではのものといえるだろう。全体の空間構成力も高く、この作家の多才さ、器用さが感じられる洗練された展示だった。

加納俊輔展
撮影:加藤健
加納俊輔展

ただ、展示が洗練されているがゆえに、鑑賞者にあまりインパクトを残さないということにもなりかねない。色や感覚、テクニックにおいて独自性の高いビジュアルなので、多少完成度を犠牲にして破綻することになったとしても、表現欲求をストレートにさらけ出した方が全体的な強度が増すのではないかという意見もあった。
実物とイメージの関係、視覚的な認識を問う加納のコンセプトは、様々なスタイルでの挑戦が可能な広がりのあるものだ。新しい物の見方を提示するオリジナルなスタイルを確立しているので、今後、それをどのように深めていくのか、才能の進化を見守っていきたい作家である。

今井俊介展 range finder
2014年2月7日(金)~3月2日(日)

ストライプ柄をランダムに組み合わせ、旗がはためいているような立体感を生み出す平面と、ストライプ柄を染色した布の立体作品1点を展示。オーソドックスな絵画というものに真正面から取り組み、勝負を挑んでいる作品群だった。
一見コンセプチュアルに見えながら、単なる思考実験に留まらない鮮烈な実感を伴った作品となっているが、それは、このシリーズを始めたきっかけが、日常生活の中である女性の服装に新鮮な感動を覚えたことだったと聞いて納得できた。つまりこれは、作家がそのとき感じた驚きや喜び、興奮をいったん殺して平面として再構築した作品だということである。日常のハッとした体験をこのような平面作品として落とし込めるところに、才能の軽やかさや可能性を感じる。

今井俊介展
撮影:加藤健
今井俊介展

テクスチャーも含め、「絵」として成立させることへのこだわりや喜びが伝わってくる点、平面でありながら空間を意識しており、絵がひとつの空間造形として成り立っている点も評価したい。過去作品よりも現在の作品の方が、絵としての強度を増してきていることから、今後さらに平面という枠組みの中で、どのような勝負を見せていってくれるのか非常に楽しみである。
ただ、奥の部屋に立体作品を配置したことについては、意見が分かれた。資生堂ギャラリーという独特の空間にそれを置きたくなった心情は理解できるし、プロセスの提示という意味では鑑賞者側の理解が深まる面もあるのは事実だが、平面作品をほぼ一定のサイズで統一している意味合いを強めるためにも、平面だけで構成するこだわりを貫き通してほしいところもあった。

古橋まどか展 木偶ノ坊節穴
2014年3月7日(金)~3月30日(日)

祖母の家で見つけた日用品を用いて制作したオブジェと、それらを撮影した写真作品を展示。ロンドン在住経験の影響を思わせる色彩感覚、建築を学んだことも関係するだろう垂直方向への指向など、独特の世界をつくりだすことに成功している。特に写真作品は背景のトタン板の扱い、影の方向、強調された平面性など、計算し尽くされた完成度の高さを感じる。

古橋まどか展
撮影:加藤健
古橋まどか展

ただ、美術の枠組みを問う行為は、作品をつくり始めて間もない人が誰でも興味を抱くものといえる。そのあとに重要となってくるのはやはり主題であり、今後は古い日用品を扱う意味や、その重みについて、自身が精緻に問うていく必要があるだろう。また、制作にあたって自身の手作業が少ない作家の場合、作家の気迫が空間を十分に満たしていることが重要である。ロンドンで発表した前作のような生々しさや気配がもっと感じられれば、スタイリッシュな造形力と相まって、より強いエネルギーを感じることができたと思う。
いずれにせよ、抜群の造形センスがこの作家の大きな魅力であることは確かである。今回は日本の古い日用品を素材にしたために日本の鑑賞者にとっては想像力がやや狭められる面があったが、意味性を外したものを素材に用いた時に、おそらく、この優れた造形センスをより発揮できるだろう。今後は、たとえば建築を学んだ経験を生かし、美術史ではなく建築史に立脚した表現を試みることによって、独自の立ち位置を獲得できるのではないだろうか。

審査員

堀江敏幸(作家、フランス文学者)

堀江敏幸(作家、フランス文学者)

1964年岐阜生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1995年『郊外へ』で作家デビュー。1999年『おぱらばん』で三島由紀夫賞、2001年『熊の敷石』で芥川賞、2003年『スタンス・ドット』で川端康成文学賞、2004年同作収録の『雪沼とその周辺』で谷崎潤一郎賞、木山捷平文学賞、2012年『なずな』で伊藤整文学賞、2013年『振り子で言葉を探るように』で毎日書評賞など受賞多数。小説執筆の傍ら、翻訳、新聞等での書評、芥川賞選考委員を務めるなど幅広い分野で活動している。現在、早稲田大学文学学術院教授。

三田村光土里(美術家)

三田村光土里(美術家)

1964年愛知生まれ。1995年現代写真研究所基礎科修了。日常の記憶と記録のドラマをテーマに写真や映像、家具など思い出の品々を組み合わせ、自身の記憶や追憶を盛り込んだインスタレーションを展開している。2005-06年文化庁派遣在外研修員としてフィンランドに滞在。最近の個展に2013年「Art & Breakfast Vienna」(Hinterland)、2012年府中市美術館でのグループ展「虹の彼方」など。2002年には「Not so Smooth 三田村光土里×孔成勳(コン・ソンフン/Sung-Hun Kong)」(資生堂ギャラリー)に参加。

山本直彰(画家)

山本直彰(画家)

1950年神奈川生まれ。愛知県立芸術大学大学院日本画専攻修了。1992-93年文化庁派遣在外研修員としてプラハに滞在。実物のドアを貼りつけたDOORシリーズなど、日本画の枠に捉われることのない作品を制作している。2009年平塚市美術館での「山本直彰展 帰還する風景」など個展多数。2010年に第60回芸術選奨文部科学大臣賞、第59回神奈川文化賞を受賞。資生堂ギャラリー第五次椿会に2001年から2005年まで参加。現在、武蔵野美術大学日本画学科特任教授。