第1回 shiseido art egg/審査結果

審査実施報告

資生堂ギャラリーは、新進アーティストの支援という資生堂のメセナ活動の原点に立ち戻り、広くギャラリーの門戸を開放する、公募展 shiseido art eggを開始しました。
2006年6月1日より15日までの応募期間中に、日本各地より予想を大きく上回る650件のご応募をいただきました。
ご応募いただいた方の約73%が1970年代以降生れの若きアーティストたちで、レベルの高い作品が多く、審査は困難をきわめました。
その中で審査の重要なポイントとなったのが、資生堂ギャラリーの空間にどれだけ果敢に挑んでいるか、という点でした。今回入選となった3名(平野薫、水越香重子、内海聖史)はいずれも、ギャラリーの空間をあますことなく使い切るアイデアを持っていた点が高く評価されました。

審査員所感

水沢 勉(神奈川県立近代美術館企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)

記念すべき資生堂ギャラリーとしての初めての公募展には、半月間に650件もの応募があった。東京中心部にある恵まれたギャラリー空間での展示というものがどれほど魅力的でチャレンジングなことであるかを私たちはまず実感することになった。それらのなかには、いままでの同ギャラリーでの展覧会と較べても遜色のないアイデアが少なくなかった。審査の上でなによりも検討されなくてはならなかったのは、過去の実績ではなく、空間を仮想し、そこに説得力のある作品を喚起しえる能力の質、すなわち、創造的なヴィジョンの力であった。入選はわずか3件。その狭き門を押し広げたのは、あくまでもアーティストの才能であり、わたしたちに課せられたのは、そのヴィジョンの力を提出されたアイデアのなかに見届けることであった。インスタレーション、映像、絵画のジャンルから3人のアーティストが選ばれることになった。女性2人。男性1人。これはあくまでも結果であり、そのようなバランスを配慮して選考されたわけではないことを断っておきたい。

倉林 靖(美術評論家/資生堂ギャラリーアドバイザー)

今回 art egg の審査を務めて思ったことは、まず第一に、応募作品の質の高さである。資生堂ギャラリーという、優れた、認知度も高い空間を与えられて、応募者のそれぞれが意欲を燃やして取り組んださまが想像できる。発表歴・発表経験の豊富な人、またよく名前の知られている人の応募もあった。こうした傾向は私が審査員という立場から望んでいたこととも一致していて、空間を持たせるにはかなりの力が必要である資生堂というギャラリーで個展をする作家を選ぶなら、ぜひ確かな実力のある人で、と思っていた。私見では、アートのさまざまな公募・コンクールで、可能性を評価するということから結果的に、単なる思いつき程度の作品が受賞してしまうことがままあるように思われる。それもたまにはよいが、アート界のなかで、やはりまず実力のある作家が正しく評価される空気を作っていくことは必要であり、今回は可能性よりも実力本位、何よりも資生堂ギャラリーでの実際の展示で、はっきりと力が見えるような作品を選ぶことを心がけた。またこの空間は、平面・立体のみならずインスタレーションやメディア系での工夫も良く生かされる空間なので、空間の使い方のセンスも評価するよう心がけた。

入選者

平野薫
平野薫 作品
untitled -skirt- 2006
2006年 東京日仏学院
平野薫 -アレンジメント-

平野薫(ひらの かおる)

インスタレーション
展覧会会期:2007年1月12日(金)~2月4日(日)(21日間)

1975 長崎生まれ
2003 広島市立大学大学院芸術学研究科博士後期課程総合造形芸術専攻修了

今回はこのような機会を与えていただき大変うれしく思います。最初に入選を知った時は驚きのほうが先にたち、その後に喜びがこみあげてきました。学生のころからいつかここで展示ができるといいなぁと夢みていた場所です。私にもまだ、展覧会がどれくらいのものになるのかわかりませんが、精一杯がんばりたいと思います。そしてひとりでも多くの方に、足を運んでいただければと思います。

審査員評

水沢勉

ワーク・イン・プログレスのインスタレーション作品。第一室に宙吊りされた赤いワンピースが繊維にまで解体されていく過程を作品として提示する。第二室にはタイムレコーダが設置され、その作業記録を残していく。物質と空間の相関する変容を作り手は紡ぎだしていくが、その作業を冷静に記録するというメタ・レベルの意識がさらにそこに相関する。解体作業の終了が作品の完成たりえるのか。不確定性も作品の魅力に取り込んでいる。

倉林靖

作品ファイルをみて、以前の作品の、糸が空間を縦横に走っているさまの写真がひじょうに美しかったのが印象に残り、また一枚のワンピースが会期中だんだんと糸をほぐされて会場を埋めていくという、ワーク・イン・プログレス的な発想に強く心を引かれた。ファッション性、女性性、空間の意表をついた使い方、作品の力、あらゆる意味で資生堂ギャラリーにぴったりの作品になるだろうと思われる。

水越香重子
水越香重子 作品
In the wind, 2006(DVD)

水越香重子(みずこし かえこ)

映像
展覧会会期:2007年2月9日(金)~3月4日(日)(21日間)

1976 東京生まれ
2005 多摩美術大学造形表現学部造形学科油画専攻卒業

eggのすごいところは入選して終わりではないところです。入選の連絡をもらって驚きと喜びに浸っていられるのはつかの間、すぐに実際の展覧会のことで頭がいっぱいになります。これは大変というより幸運です。新たな挑戦に向けて個展までを走る事ができるから。あの広い資生堂ギャラリーをめざして。こんな素晴らしい機会をもらえたからには驚かせるような結果を出したい。がんばります。

審査員評

水沢勉

複数のモニタとプロジェクションによる映像の小個展。アプローチの踊り場も含めて、明快に構成された展示アイデアが示された。第一室の正面壁には新作のプロジェクション。その新作では作者が掲げる「曖昧な領域」を、フィクションとして映像化することを試みられるという。この小規模な回顧展によって、いままでの作品が集約され、そのコンセプトがいっそう明らかになると同時に、さらにつぎの一歩へと展開する可能性が期待できる。

倉林靖

ファイルだけではピンとこなかったが、送られてきた映像サンプルを見て、その独特の空気感としっかりした視線に、ひじょうに魅力を感じた。小説の舞台となった場所や、経験から思い入れの強い場所を題材として選び、自己や社会の持つ記憶を横断していくという作品は、与えられた空間以上の大きな広がりを感じさせる予感がある。とても興味深い、気になる展示プランである。

内海聖史
内海聖史 作品
「色彩の下」2004

内海聖史(うちうみ さとし)

絵画
展覧会会期:2007年3月9日(金)~4月1日(日)(21日間)

1977 茨城生まれ
2002 多摩美術大学大学院美術研究科修了

美は人間の含有物です。だから常に希望を持ち、迷い無く美に向かえば良いと思います。
皆で美に向かうという意思が必要なのです。
尊敬を持って作品に接したいと考えています。

審査員評

水沢勉

メインとなる第一室のスペースを前後に分け、正面に完全にその寸法に合わせた新作を描き、その関係での後方となる壁に旧作を対峙させる。新作との関係で、後方は展示されない可能性も含む。きわめてシンプルでありながら、絵画と空間との関係の可能性を真正面から探りだそうとする姿勢が明快。資生堂ギャラリーの空間のポテンシャルを絵画本来の正面性の強調によって新たに引き出す可能性を秘めている。

倉林靖

今回、送られてきた展示プランをみて、実際の空間での展示の完成度をいちばん想像しやすかったのが、この人のものであった。作品は前から知っていて、まず彼の作品こそこのギャラリーでぜひ見てみたいものだと思った。そうとう発表歴のある人なので、公募展の賞に押すのにはどうか、とやや迷ったが、実力本位でいくならば当然彼で、という思いが結局最後までつきまとって、強く推薦させることになった。

審査の流れ

予想を大きく上回る650件のご応募をいただいたため、まず資生堂ギャラリー学芸員によって、250件に絞り込む第一次審査を行いました。その後、水沢勉氏(神奈川県立近代美術館企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)、倉林靖氏(美術評論家/資生堂ギャラリーアドバイザー)、大矢和子(資生堂企業文化部長)、山形季央(資生堂宣伝制作部 デザイン制作室長)、資生堂ギャラリー学芸員2名による第2次審査で40件にしぼり、最後に水上氏、倉林氏、資生堂ギャラリー学芸員2名による最終審査で3名が選ばれました。

応募状況

応募状況