第2回 shiseido art egg/審査結果

審査実施報告

新進アーティストの支援という資生堂メセナ活動の原点に立ち戻り、広くギャラリーの門戸を開放する公募展shiseido art egg。 2回目となる本年も全国各地より多数の応募をいただきました。
応募総数は357件。本年は、アーティストとしてのキャリアの長い方の応募が目立ち、レベルが拮抗する中での難しい審査となりました。 新進アーティストの支援というshiseido art egg の大原則に則り、これまでに作品を発表する機会が比較的少なく、これを機に新たな展開が期待できる作家であること、資生堂ギャラリーの空間で自身の作品を生かすプランと力を持っていること。
以上の条件を満たしたアーティストの中から、長時間におよぶ審査の末、窪田美樹、槙原泰介、彦坂敏昭の3名が入選となりました。

審査員所感

岡部あおみ(武蔵野美術大学教授/資生堂ギャラリーアドバイザー)

2007年4月初頭までニューヨーク大学の客員研究員として渡米していたため、残念なことにart egg第1回展を見ることができなかった。だが先鋭な企画を長年手掛けてきた資生堂ギャラリーが初めて行う公募展には、メディアからも大きな期待が寄せられ、見ごたえのある個展が続いたと聞く。選ばれた3人の作家の実力を目にして、ひるんでしまった人もいたに違いない。第2回目の応募数は減ったものの、年齢を問わず、豊かな実績と実力をもつ人が多く、時間のかかる非常に密度の濃い審査となった。
とはいえ、新たな才能の発掘という主旨もあり、今回は重要な国際展への参加歴や東京での規模の大きい発表歴などの特別なキャリアがある応募作家をしいて押す審査員は少なかった。たんなる一回性のアイデアだけではなく、それを超えられる持続力をもち、独自なヴィジョンを確実に展開してゆける才能。未踏の道を開いてゆくには、ときには評価の定まった既存のアートの潮流と距離をとることも必要である。特異な空間に挑戦し、かつ全力疾走による実現を要請するart eggが課すハードルは、そうした意味で、開かれた創造の自由を提供するものだ。
ハードルは高ければ高いほど、飛翔や跳躍の可能性が生まれる。それは個展開催の幸運をつかんだ3人だけではなく、考え抜いた具体的なプロジェクトをたずさえて、勇気をもって応募してくれたすべての作家たちの未来へのメッセージでもある。

水沢 勉(神奈川県立近代美術館企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)

第2回shiseido art eggの審査にあたって、この企画のねらいが、第1回に比べて、はるかに応募者に理解してもらえるようになったことをまず確認しておきたい。この企画のたいへんユニークな点は、たんに応募者の側だけでなく、資生堂ギャラリーの側も、理想的な展示空間づくりに協力を惜しまないという点であろう。当然、応募者の側に明確な展示空間のコンセプトがあらかじめ求められることになる。そして、その点こそがもっとも重点的に審査されるわけである。
応募総数は357件。それほど多い件数ではないかもしれない。でも、入選はわずか3件というきわめて狭き門である。とはいえ、前回に比べて、企画の意図をあらかじめ応募者がはるかに理解していたことも手伝って、審査の流れも、前回に比して、選出へと無理なく形成できたように思う。
入選の三者はいずれもこれからの活躍を期待できる才能であることが、これまでの発表と応募書類から充分にうかがえるすぐれた若手作家たちである。もちろん、この企画は発表歴の有無を問うものではない。言葉の真の意味での新人も年齢を問わずに大いに歓迎している。

入選者

窪田美樹
窪田美樹 作品
かげとり(虫) 2007
家具、合板、パテ
1600×400×800mm

窪田美樹

彫刻
展覧会会期:2008年1月11日(金)~2月3日(日)(21日間)

1975 神奈川生まれ
2001 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了

自分の腕を抓って、自分が本当に居るのかを確かめてみる。居る。

審査員評

岡部あおみ

一見して人を魅了するカラフルな作品も作っていた。近年は木製家具を研磨し、断面を切り取って表面へと変容させたり、透明ビニールシートを重ねながら、接着剤でモノのフォルムを描く、コンセプチュアルな仕事を続けている。ある意味で、時流に乗ることを避けた地味な作品ともいえるし、展示計画はとくに気負いのない個展開催という内容だったが、最初から第1次の審査員全員の票を獲得し続けた。表層をテーマにする作家の多くが、概念や意味を無化する方向へと向かうのに反して、窪田は物体とイメージをめぐる真摯な問いかけを、より広がりのある彫刻と絵画の差異にまで象徴的に昇華する。自らの表現の根底に投げかけるまなざしは、ラディカルであると同時に美しい。

水沢勉

「発見されたオブジェ」にさらに発見的に介入する彫刻的な試み。近年、さらに、表面の問題にも関心を深め、彫刻の絵画的状態とでもいう中間領域へもアプローチを開始している。しかし、シュルレアリスムの「驚異」をねらうものではまったくなく、むしろ、結果的には、日常の手触りの感覚を大事にしながら、しかし、あまり類例のない場所へと向かいつつある。個物としての彫刻を越えた、大きな空間との関係での展開が期待できる才能のひとりであろう。

槙原泰介
槙原泰介 作品
bakery dummy 2007
足場、クランプ、干し肉、紐

槙原泰介

インスタレーション
展覧会会期:2008年2月8日(金)~3月2日(日)(21日間)

1977 広島生まれ
2003 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了

楽しみです、資生堂ギャラリー。
素敵な展覧会がたくさんありました。僕にとっては、常にいつかはやってみたいと思ってきた場所であり、単に観客としてはいられなかった思いがあります。
今僕がここでやりたいことは常に変化しています。作品は、来年21日間にしか見せることができません。画像、文字やことばになってしまう前に、たくさんの人がその空間に遊びに来てくれたらと思っています。

審査員評

岡部あおみ

インスタレーションというヴィジュアルな「成果」を見るだけでは、この作家の実体はつかみにくい。すべてにおいて「わかりやすさ」といった観客へのサービスと「優しさ」が要求されるご時世にあって、槙原ほど寡黙で「意地悪な」作家はいないと思う。ポーズではなく、悪魔的ともいうべきアートへの、行為への執拗なまでのこだわりが、自然にそうさせるのだ。たとえば、巨大なパンを焼いて展示するというごく単純に見える過去のプロジェクトで、どれほどの実験と失敗が繰り返されたかを知れば、驚愕しない人はいないだろう。最近は、楽器をモチーフにしているが、展示という行為に賭ける情熱は、ともかく尋常ではない。彼の映像作品を見ると、創造プロセスの独特な統語法の一部を掴めるが、資生堂でのインスタレーションの際に、映像を出品する予定かどうかは定かではない。

水沢勉

空間を徹底してインスタレーションとして変容させることの試み。スケール感と明快さという点で、応募作品中、もっとも印象の残るものであった。今回の提案は、「シンバル」が画廊スペースに密集し、林立するという、きわめて異化作用の強いアイデアである。空間ばかりでなく、そのなかに入っていくわたしたちの身体をも、五感すべてを通じて変容させるような潜勢力を感じさせるプランであり、大いに期待できる。

彦坂敏昭
彦坂敏昭 作品
テサグリの図画 No.55 2007
凹版、紙、鉛筆、顔料、膠、
水彩、顔料ペン
530×1000mm

彦坂敏昭

絵画
展覧会会期:2008年3月7日(金)~3月30日(日)(21日間)

1983 愛知生まれ
2005 京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業

このようなチャンスを与えていただきありがとうございます。これまで、あまりこういった機会に出会ってこなかったので、正直、戸惑いました。今は、今回の展覧会で、ひとつでも多くの問題に出会う事ができればと願っています。膨大な数の問題をひとつひとつ解決に導いていく態度こそが、美術家の仕事だとも考えており、ひとりでも多くの方にこういった美術家もいるのだと、目撃していただければと思っています。

審査員評

岡部あおみ

ポートフォリオの作品群は、隙がなく精緻で見事なまでに質が高い。ある程度年齢のいった熟練作家の仕事のように見えたので、24歳だと知ったときには驚嘆させられた。すでにグループ展で作品を見る機会があったにもかかわらず、同一作家と同定するのに時間がかかった。それは彦坂の絵画が秘める様式への懐疑のためかもしれない。彼の作品は、第三の世界ともいうべき「絵画=版画」の境界に君臨している。コンピューター加工で自律する画像と化した風景は、版によって紙に定着されることで絵画のプログラム・ベースを形成する。それは「オリジナル」という場をもたず、限りなく「ズレ」てゆくセリアルな反絵画の始まりを期し、無限の差異の世界へと絵画を解き放つ行為となる。

水沢勉

デジタル的な画像の変換を、「版」の手続きという、一見、迂遠な手段を経て、絵画化するという手法によって、もうひとつのパラレルな「現実」を喚起する絵画を追及している。科学的ともいえる実験性は、今日、効果の追及ばかりに短絡しがちな、メディアアート的な発想と一線を画している。むしろ、禁欲的であり、その結果解放される絵画空間が官能的になるという逆説的な真実にこそ生きる絵画を目指しているように感じられる。

応募状況

1.ジャンル別

ジャンル別

2.年代

年代