第3回 shiseido art egg/審査結果

審査実施報告

2005年より開始した、新進アーティストの支援という資生堂メセナ活動の原点に立ち戻り、広くギャラリーの門戸を開放する、公募展shiseido art egg。 本年は全国各地より321件の応募をいただきました。
3回目となる今回は、資生堂ギャラリーの空間を意欲的に読み解いた魅力的なプランを提出する応募者が目立ち、今までに無く難しい審査となりました。
その中で、審査員に「是非実現させてみたい」と思わせるプランを提出し、またそれを実現できる実力を備えた宮永愛子、佐々木加奈子、小野耕石の3名が入選となりました。

審査員所感

岡部あおみ(武蔵野美術大学教授/資生堂ギャラリーアドバイザー)

二人の新たな資生堂ギャラリーのスタッフが加わった第三回目shiseido art eggの審査は、6人の審査員のうち、初回に一人しか推す者がいなかった作家が最後まで残るなど、波乱に満ちたプロセスを辿った。一人しか推薦者がいない場合は基本的には落選するが、その審査員が説得力のある援護射撃を行えば、次の段階まで残される。とはいえ、最終的には推す審査員の数が重要なので、通常は最後のほうまで残るのはなかなか難しい。また今回の場合、プランを変えて、再度応募に挑戦した作家が入選するなど、応募者も審査員も回を重ねたことで、審査方法に微妙な深度が増したように思える。 三人の入選者は版画とオブジェをベースとするインスタレーションが二人と、映像が一人、年齢的には二十代後半から三十代前半の前途洋々たる若手作家たちだ。必ずしも容易とはいえない資生堂ギャラリーの空間に対して、これまでのキャリアを最大限に活かした斬新なプランが魅力的だった。shiseido art eggでの展示経験が、今後の飛躍への確固たるスプリングボードとなることを願っている。

水沢 勉(神奈川県立近代美術館企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)

shiseido art eggとはなにか。ようやくその意図が周知されてきたことを、今回の応募作品を見ながら、手ごたえとして感じた。たんなる若手育成の公募展ではなく、あくまでも資生堂ギャラリーという、まだまだ短いとはいえ新たな歴史を閲しつつある空間を、生まれいずる才能の、いうならば孵卵器として提供しようとする試みである。卵が卵のままに留まっていては、だれにもその才能を確かめようはない。たいせつに温め、孵し、そして、飛び立たせる。そのためのアフターケアまでも意識したプログラムである。
啐啄同機。親鳥がいたずらに焦って卵をつついてしまったら、未成熟な小鳥は卵のなかでむなしく未生のままに世界の光を浴びることはない。わたしたちはそのタイミングをしっかりと測らなければならない。ほんとうに正しい判断であったのか。それは将来に問われ、その愚かしさを嗤われるかもしれない。しかし、判断を迷っていては「同機」は望みようもない。審査する側はいつでもそのジレンマに苛まれる。 資生堂ギャラリーという空間で生まれたいという、つよい意欲を感じるプロポーザルが確実に増えてきたように思う。時空の符合。その鮮やかな証明として「啐啄同機」。それこそがshiseido art eggの本質であることを今回わたしはあらためて確認することになった。

入選者

宮永愛子
宮永愛子 作品
「凪の届く朝」部分 2008
水槽、ナフタリン、玩具

宮永愛子

インスタレーション
展覧会会期:2009年1月9日(金)~2月1日(日)(21日間)

1974 京都生まれ
1999 京都造形芸術大学美術学部彫刻コース卒業
2007 東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了

憧れの場所でした。あの空間を自分の思い描く世界に、と思うと今からわくわくします。
また私の作品は変化するので、一度しか出会えないときをどう表現するのか考えています。沢山の人に出会えますように。

審査員評

岡部あおみ

プランを高度に練り直し再挑戦した情熱がじかに伝わるポートフォリオだった。時間とともに消滅するナフタリンという特殊な素材をすでに10年近く展開してきた作家である。下着、蝶々、靴の成型など、一見抒情的に見えがちな作品だが、その直観的な発想には、体にしみこんだ日本的美意識を踏まえながらも、それを超えてゆく広がりがあり、独特の詩的想像力と科学的認識力に富んでいる。米国から英国へと続いた海外での体験の成果が花開く場となることだろう。

水沢勉

すでに頭角を現している若手のひとり。ナフタリンを素材に、その変幻自在な性格を利用して、エフェメラル(短命)な造形を試み、多くのひとからの共感を得ている。しかし、近年、さらに場所性にも関心を深め、エフェメラルなものは、かえって永遠に触れているという直感を磨きつつあるように感じられる。静謐な饒舌という陥穽を賢明に慎重に回避しつつ、目には見えないものの存在をわたしたちに鮮烈に意識させるインスタレーションを期待したい。

佐々木加奈子
佐々木加奈子 作品
「Okinawan Ark(仮)」 2008
映像

佐々木加奈子

映像
展覧会会期:2009年2月6日(金)~3月1日(日)(21日間)

1976 宮城生まれ
2001 米イサカ大学ジャーナリズム学科卒業
2004 スクール・オブ・ビジュアルアーツ(NY)大学院写真映像科修了
2006 文化庁在外研修員としてロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英)留学

今回のテーマで選んで頂いた事、とても嬉しく思います。
自分が、慎重に扱って来た歴史のプロジェクトで、このボリビア滞在により沖縄から移民した方々と話を聞き、試行錯誤しながら出来た作品です。 今の時代、戦争や、過去の歴史とかけ離れている生活を送る、現代人へのメッセージです。
展示は映像に限定しました。今までの写真という制作から、一歩前進した形を表現出来れば良いと思っています。 会期中、多くの人に空間、音、映像を体験してもらいたいです。

審査員評

岡部あおみ

静けさが思考の深さを示唆する地味だが内面の光に満ちた写真。だが提出された作品資料だけで、彼女がVOCA展に出品していた作家だと気づいた者は少なかった。ニューヨークでの勉学を 2004年に終え、その後英国にも留学していて、4年間ほどしか活動歴がないが、しっかり地道な展開を行っている。時間軸と空間の転移を可能にする映像メディアが、歴史に憑依する佐々木独自のタイムトリップの物語を編み出し、戦争や政治への思惟をアートの社会性に転換させる果敢な賭けといえよう。

水沢勉

映像にひそむ見えざるもの。その見るための感度は文化のコンテクスト化のたえざる訓練によって練磨される。佐々木の作品には、そのような決意がときにあまりに生真面目にそのまま露呈するようである。しかし、今回のプロポーザルでは、ボリビアと沖縄という意外なコンテクストのぶつかり合いを、予測できない、発見的な旅のきっかけに選んでいる。それが3面マルチの映像とインスタレーションにどのように展開するのかたいへん楽しみである。

小野耕石
小野耕石 作品
「古き頃、月は水面の色を変えた(仮)」部分 2008
スクリーンプリント

小野耕石

版画
展覧会会期:2009年3月6日(金)~3月29日(日)(21日間)

1979 岡山生まれ
2004 東京造形大学絵画専攻版画表現コース卒業
2006 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻版画科修了

人間、版画、絵の具、紙を再考する
素材を超える発想と技術を手に芸術に踏み込む

審査員評

岡部あおみ

審査員の誰も実際には作品を目にしたことのない作家だった。シルクスクリーンの油性インクを小さなドットに無数に重ね刷りする方法で、平面的な版画を油彩的色層のあるカラードットへと転化させ、点描的筆致ともいえる技で、見る位置によりオプティカルに変化する色面を構成する。精緻でミニマルな手技で作られるドットは微小な人間のようでもあり、そのグローバルな集積はカラフルでマジカルな地表をイメージさせる。

水沢勉

石を耕し、そこに自分の色を植えていく。名は体を表す。小野の作品は、物質としての絵具を、版の技法によって、何度も何度も重ねていくことで、鍾乳洞の石筍という自然の営為を、人為的に繰り返してみせているようである。そして、その単調さの極みに、あやまちなく独特の神秘性が宿る点でも、このふたつは似ているというべきかもしれない。資生堂ギャラリーの空間が、大都会のひとつの洞であることをわたしたちに感じさせずにおかない展示になるのではなかろうか。

応募状況

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