第4回 shiseido art egg/審査結果

審査実施報告

資生堂ギャラリーは、1919年のオープン以来「新しい価値の発見と創造」という企業理念のもと、90年間連綿とその活動を継続してきました。shiseido art egg(シセイドウアートエッグ)は、その長きにわたる活動の一環として、発表の場を求める新進アーティストの皆さんに、広くギャラリーの門戸を開放する公募制のプログラムで、今回で4回目を迎えます。
本年は、6月1日から15日までの応募期間中に、全国各地より336件もの応募をいただきました。
資生堂ギャラリーの空間を読み解いた魅力的なプランの応募が目立ち、複数回のチャレンジという方も見受けられ、熱い審査となりました。その中で、新たな表現の創出や、次世代を担う可能性の観点もあわせ、応募プランを実現願いたいと感じた、曽谷朝絵、岡本純一、村山悟郎の3人が入選となりました。

審査概要

応募受付: 2009年6月1日~15日
応募総数: 336件
審査員: 岡部あおみ(武蔵野美術大学教授/資生堂ギャラリーアドバイザー)
水沢勉(神奈川県立近代美術館副館長兼企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)
資生堂企業文化部

審査員所感

岡部あおみ(武蔵野美術大学教授/資生堂ギャラリーアドバイザー)

応募された方々のポートフォリオにじっくり目を通す作業はかなり根気がいる。だが、興味深い提案を読み、未知の作家に出会える喜びのせいか、身体的な疲労に反して、どんどん元気になるのが不思議だ。それは工夫を凝らしたテーマや丹念に仕上げられたプランなどから湧き出す創造力が、無限の精神力となって伝わってくるからに違いない。いつもみなさんに心から感謝したいと思う。もちろん、次の選択段階では苦難の時間が待ち受けているのだが。
個展を開ける3人は、約330人の応募者数からいえば、110人に1人の非常に厳しい選抜に残った人たちだ。当然、時代を画すようなテーマ設定、観客の視点や導線の配慮なども含め、考え抜かれたプロジェクトを明確に伝える応募用紙のまとめ方も重要になる。さらに、与えられたギャラリー空間に対する独創的なアプローチも大事だが、それを実現できる実力をポートフォリオで示さなければ、受け入れ側には不安が残る。また、絵画や彫刻の設置といった従来の作品を展示する、いわばおとなしい提案で入賞する場合は、作品の魅力だけではなく、その特質が、資生堂ギャラリーの特徴的なスペースでより輝きを増し、際だったすばらしい個展になると判断したときが多い。
空間に合わせたインスタレーションはもともと新たな生成を目指すわけだが、どんな作品でも展示して初めて、場との共生による鼓動が聞こえてくる。アートエッグの審査の困難は、まだ見ぬ時空間の息吹きを、審査員が想像し、決断しなければならない点にある。

水沢 勉(神奈川県立近代美術館副館長兼企画課長/資生堂ギャラリーアドバイザー)

さまざまな公募展がある。もちろん、その公募展設立の理念こそがすべてを牽引する原動力であるべきであり、あいまいな理念に基づくものは、おのずと歳月に淘汰されることになる。長いこと続いた公募展は、主催者と関係者の意志と情熱に支えられると同時に、応募するひとたちの側からの参加意欲によっても育てられる。また、さらに入選者のその後の活躍もその公募展にかけがえのない重みをあたえることになるだろう。過去4回目のshiseido art eggの審査に参加して、そのような相互作用が、この若い公募展にも生まれつつあるように感じた。若手が中心であっても、資生堂ギャラリーという挑戦しがいのある空間での展示を求めて、中堅・ベテランのアーティストからの応募があったことも心強い。挑戦する精神こそ、「新進」であることの欠くことのできない条件であるからだ。ヨーゼフ・ボイスの言葉をもじることを許してもらうならば、「だれもがeggである」のだ。
個展形式で展示ができることは、この公募展のかけがえのない魅力である。そのために通常の展示に投入されてきた学芸スタッフの知識体験が惜しみなく提供されることは、やはり、過去を振り返ってみても、特別な意義があったように思う。それはたんに技術的なレベルに留まるものではなく、いうならば精神の浮力を入選者たちに感じさせてきたのではなかろうか。蔡国強、キム・スージャ、ピピロッティ・リスト、米田知子、やなぎみわ、などの国際的に活躍するアーティストたちの作品が並んだことのある場所に展示することは、そら怖ろしくも、こころ弾む出来事にちがいない。この公募展はそのような仮想の対話によってもさらに厚みを増しつつあるのだと思う。

入選者

曽谷朝絵
曽谷朝絵 作品
<鳴る色>2010
photo by 洲崎一志

曽谷朝絵

インスタレーション
展覧会会期:2010年1月8日(金)~31日(日) 21日間

1974 神奈川生まれ
2006 東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻博士後期課程修了(Ph. D)

色から音が鳴り、波紋のように広がって、始まりも終わりもなくいつまでも続いています。現実以上にリアルに、いつも私の中に在るこの光景を視覚化した新シリーズを、憧れていた Shiseido Galleryで発表できることがとても嬉しいです。 自分という感覚器官が世界を取り込み、解体し、再構成して吐き出す、という認識のプロセスの中で、再構成したものを提示するのが絵画なら、今回の作品はその前の段階の、解体された世界のビジョンです。感覚が未分化な感覚のまま縦横無尽に飛び回る、近くて遠い空間を創りたいと思います。

審査員評

岡部あおみ

水中に漂う透明感のあるバスタブの絵画作品で曽谷朝絵は大きな注目を浴びてきた。近年手がけたライブペインティングの経験を生かして、色から音を聞くという作家が、光と反転と狂いをコントロールしつつ、観客を非日常的で浮遊する色彩空間へと誘う。絵具とビニールシートなどを使った切り絵とコラージュの手法で、床と壁面に描く大規模で意欲的な作品になるだろう。緻密な分析による素材と形態と色彩が奏でる効果、そしてあふれんばかりの美しい夢の予想図に、一目で魅了された。

水沢勉

2009年横浜ZAIMでのライブ・ペインティング「air」を機会に、曽谷の仕事は、一気に展開を遂げはじめたように見える。タブローの制約を解き放って、縦横無尽に空間全体を絵画のエレメントによって変幻させることができるようになった。従来の波紋のモチーフは、さらに奔放に拡散し、よりいっそう色彩の効果が前面にたち現れるようになった。その目覚ましいまでの瑞々しさは、底光りするだけのはにかみを捨てて、私たちを圧倒するほどの惜しみなさで包みこむにちがいない。

岡本純一
岡本純一 作品
<ソフィーの森-出口->
2009 
photo by 加藤健

岡本純一

インスタレーション
展覧会会期:2010年2月5日(金)~28日(日) 21日間

1979 兵庫生まれ
2004 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了(MFA)

「かたん ことん かたん ことん」
機織り機の音が響いております。
私は、創造力を「かたんことん」と作品に編み込んでいるのです。恩返しとは、何かを編み出し、つくりだすことなのでしょう。
「かたん ことん かたん ことん」
おじいさんとおばあさんが障子に穴をあけて、こっそりこちらを覗いております。ここはひとまず、気づかないフリをして。会期まで、あと少し 「かたんことん かたんことん かたんことん・・・・・」

審査員評

岡部あおみ

柔軟な思考力と巧みな技で、岡本純一は人体と風景の融合など、つねに新鮮で大胆な立体作品を制作してきた。今回はギャラリー空間を彫刻するというユニークな発想のもとに、明と暗、暖と寒の二つの極とその境界を表現し、観客の身体感覚と知覚を揺さぶる斬新なプロジェクトだ。明るい空間の俯瞰図を見ると、折り紙で作った飛行機の形体をイメージさせる。体を縮めて小さな二つの障子窓があるシンプルな空間を行き来する実体験のさなかに、一体どのような思いがよぎり、いかなる次元へと足を踏み入れることになるのだろうか。とても楽しみである。

水沢勉

空間全体を作品化する「空間の空間」ともいうべきコンセプトの意欲的な提案である。資生堂ギャラリーの内部空間にさらに入れ子状に別の空間がはめ込まれる。普段は脇役的な性格付けをされることの多い奥のやや小さい部屋が、予想を裏切って、まったく違うものに変貌するにちがいない。たんなる新奇な仕掛けではなく、思考を促す装置としての発想が背景にあり、「空間についての空間」ともいうべきメタレベルの表現をしっかり捉えるかどうかに作品の成否はひとえにかかっている。

村山悟郎
村山悟郎 作品
左:<神の宿る部分> 2009
右:<浸透する ドリフトする> 2009
東京都現代美術館蔵
photo by 木奥恵三

村山悟郎

絵画
展覧会会期:2010年3月5日(金)~28日(日) 21日間

1983 東京生まれ
2009 東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻前期博士課程在籍

ある行為を、その環境との関係から捉えなおそうという生態学的視点に立ってこれまで絵画に取り組んできました。行為の連環系、行為間の相互浸透、そのシステムの作動による時間発展およびストカスティックなプロセス、それらが大きな主題です。
絵画をシステムとして思考した時、絵画が、主体の行為およびその環境と時間を含むより広範な領域として立ち上がるのではないか? それを提示できればと思います

審査員評

岡部あおみ

村山悟郎はデヴューしてまだ日が浅い。修士課程に在籍中の若手作家だが、編み・塗り・描画するという何層にも連携し、反復し、変奏する果てしない行為のシステムによって、巨大な平面作品を生み出す。プリミティヴな身体性と細密な地形図、そして懐かしい手芸の風合い。独自の手法の発見と展開にとどまらず、ミニマムとマキシマムといった人間と宇宙の関係性をはらむ壮大かつ親近感のある表現は、しなやかで力強くかつ繊細である。

水沢勉

村山は絵画の誕生の場にこだわり続けている。そのためにタブローを所与のものとして受け入れるのではなく、さらに「タブラ・ラーサ」の状態に還元したというべき素材そのものである「紐」に立ち返り、もう一度、それを編んでいくことから再出発を試みる。編まれた紐に下地を施してペイントする。そのときに発見的に出会う生成中のシステムが絵画を促すといえばよかろうか。そして、床面で水平に為された仕事の結実が壁に垂直に立ちあがる。わたしたちには絵画の再生に果たして立ち会うことができるのだろうか。

応募状況

応募状況