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研究開発
Innovation

1997年度

資生堂サイエンスシンポジウム'97

SKIN : Interface of A Living System

開催年月 :
1997年7月
主催 :
資生堂

概要

21世紀に向けて、これからのスキンケア像を考える。
「皮膚:生体のインターフェイス」をテーマに、シンポジウムを開催しました。
そもそも皮膚の将来は、遺伝子のどこかに本当にプログラムされているのでしょうか。
その解答は、まだまだ未知の領域にありますが、
皮膚研究が今や、遺伝子を視野にいれていくほど幅広い研究へと
進歩してきたことは事実です。
専門家の方を対象に、資生堂が開催したサイエンスシンポジウムでは、
国内外の研究者を招き、最先端の皮膚科学に取り組みました。

1)開会挨拶

福原 義春(資生堂)

2)基調講演 皮膚:生体のインターフェイス

Mr. Parrish,J.A.(ハーバード医科大学)

■セッション1 環境とのインターフェイスとしての皮膚

3)角層の働きと疾患

田上 八朗氏(東北大)

4)皮膚バリヤー機能のホメオスタシスの生化学的基礎とその調節

Mr. Kenneth R. Feingold(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校)

5)角質層形成における表皮細胞の蛋白代謝:細胞接着と細胞骨格分子

北島 康雄氏(岐阜大)

6)角層のディスコメーション・メカニズムとスキンケアに対する役割

小山 純一(資生堂 ライフサイエンス研究所)

7)特別講演 皮膚における核内レセプターとレチノイド情報伝達

Mr. Pierre Chambon(カレッジ・ド・フランス)

■セッション2 環境と生体とのインターラクション

8)表皮-真皮接合部複合体の構造と機能:
上皮細胞の基底膜および真皮への接着構造の特徴について

Mr. Robert E. Burgeson(ハーバード医科大学)

9)表皮中に存在する抗原提示細胞の皮膚神経による機能調節

Mr. Richard D. Granstein(コーネル大学)

10)免疫系の発生における転写調節

Ms. Katia Georgopoulos(ハーバード医科大学)

11)皮膚の構造機能制御における表皮-真皮相互作用の役割

西山 敏夫(資生堂 ライフサイエンス研究所)

■セッション3 皮膚の恒常性維持とスキンケア

12)より優れたスキンケアのための皮膚バリアー機能調節

Mr. Peter M. Elias(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校)

13)スキンケア化粧品の有効成分:新規スキンケア有効成分の開発を中心に

北村 謙始(資生堂 薬剤開発研究所)

14)抗酸化剤の効用と紫外線損傷の予防

市橋 正光氏(神戸大)

15)シンポジウム総括 21世紀へのプロローグ

尾沢 達也(資生堂)


開会挨拶

福原 義春(資生堂)

福原 義春 PHOTO

私たちは1989年以来「サクセスフルエイジング」を提唱して、この人類共通の願いを具現化していくために化粧品、医薬品の開発、美容や皮膚科学に関する情報提供など様々な企業活動を行っております。情報発信の主な活動としては、1972年より皮膚科学の専門家を対象とした国際科学シンポジウムを開催してきました。また、一般の方々を対象としたサクセスフルエイジングフォーラムを1989年より開催しております。これらと併せて、「サクセスフルエイジング」をテーマとした出版活動などを通して皮膚科学分野の最先端情報や人々が美しく歳を重ねていくためのヒントを提供して参りました。

私たちは、皮膚の構造と機能をより深く知るために、ボストンにハーバード大学と共同で皮膚科学研究所を設立したり、横浜市に皮膚科学と生体との関わりを研究するためのライフサイエンス研究所を設立する等、国内外に広範囲な研究活動を展開してきました。一方、皮膚のことを知れば知るほど、人体の持つ神秘、皮膚の機能の神秘について更に強い畏敬の念を抱くようになりました。そこで、今回のサイエンスシンポジウムでは、皮膚を生体のインターフェイスとして捉え、まず外界と皮膚との関係についてをテーマに第一セッションを展開いたします。続いての第二セッションでは、皮膚と生体との関係について議論を進めます。ここでは、話しは単に皮膚と代謝系との関係にとどまらず、皮膚と神経系、皮膚と免疫・遺伝系にまで及ぶことと思います。最後の第三セッションでは、これらの知見を基に、21世紀のスキンケア像と言うか、私たち、皮膚科学にたずさわるものの共通の夢について議論を進めていきたいと思います。

このように、本シンポジウム「皮膚:生体のインターフェイス-スキンケアの新時代を拓く」は、皮膚が本来持つ種々の機能に焦点を当てて三部構成で進めて参ります。 皮膚機能に関する多面的且つ最先端の基礎研究、それらに基づいた最新のスキンケア理論の構築、更に、その理論に基づいて21世紀に向けた商品の開発と言うように、これらの成果を結びつけて最終的にはお客様に、真に、ご満足いただける商品と情報をお届けすることが私たちの使命と考えております。今回のシンポジウムが参加者の皆様にとって、いささかなりとも参考になれば幸いでございます。


基調講演
皮膚:生体のインターフェイス

Mr. Parrish,J.A.(ハーバード医科大学)

Mr. Parrish, J.A. PHOTO

皮膚は、生体における最大の器官であり、外界との境界を成している。もし、皮膚が生体の内と外とのバリアーとして正常に機能しなければ、生命を維持することができないであろう。また、皮膚は我々の生命を支えるだけでなく、それ自身が絶えず新しく生まれ変わる組織なのである。

皮膚は、心理的な面から我々の生活に非常に大きな影響を与えている。皮膚は外界との境界であるので、皮膚は美を表現し、美を感じとるための媒介物であり、重要な伝達器官である。我々人間は、皮膚の美しさをとても深刻に受けとめる傾向にある。そして、本来の顔の色や皮膚の状態、髪の状態などをとても意識し、変化を与えようとする。実際、皮膚に変化を与えるために、毎日何らかの香粧品を使用する人がほとんどである。女性はお化粧をし、男性も髪をとかし、髭を剃るのである。そして、我々は、性別の違いや若さ、民族的特徴などを際だたせようとする。若々しい肌は記憶と思い出を通して我々に訴えかけてくる。

皮膚は本当に驚くべき器官である。我々は常に体にフィットした丈夫で柔軟な皮膚を体にまとい、内部を保護されているのである。そして、その丈夫な皮膚の外側は、細胞の非常に薄い層からできている。その細胞達がさらに薄い半透膜を作り出すことで、体液を包み、有害物質の浸入を防いでいる。さらに、その細胞層はとても便利なサンスクリーン剤であるメラニンを産生している。メラニンは絶えず存在し、決して洗い流されることなく、もし我々が定期的に日光を浴びるならば増加していく。このように素晴らしい皮膚の構造と機能は絶えず新しく生まれ変わり、皮膚はいつもいきいきとした生命力に満ちあふれている。そして、皮膚はとても美しいものである。健康な皮膚は、身体を健やかに保ち、我々を明るい気持ちにさせてくれる。


角層の働きと疾患
皮膚:生体のインターフェイス

田上 八朗氏(東北大)

田上 八朗氏 PHOTO

角層は、わずか20ミクロンという厚さの生体由来の膜である。これまでは、その組織像から皮膚の付属物のようにも看做されがちであった。しかし、実際には皮膚のもっとも特徴的かつ重要な防御膜としてのバリア機能を担う組織である。すなわち私たちが乾燥した環境においても生命活動を維持できるのは、体内の水分の喪失を防ぐバリヤ膜としての角層の存在によるものであり、これはまた、色々な有害物質や病原微生物に満ちた外界に接しながらも、その影響を受けず、つねに一定の環境で生命活動を維持してゆけることにもつながっている。

さらに、角層は皮膚最外層の組織として皮膚の外観に重要な意味をもつ組織であり、とくにその水分保持機能は皮表の軟らかさや滑らかさを決定する大切な働きをする。角層の下層は湿った表皮組織と直接に接してはいても、上層は乾燥した外気と接している。したがって、その水分保持能が低下するとふつうの環境下でも、亀裂や鱗屑を生じてくる。また、種々の皮膚疾患において角層に機能異常が生じてくると、結果として鱗屑が形成され、落屑が認められる。この角層の機能異常は、近年の生体計測工学の進歩により正確に定量的に測定がされるようになりつつある。

また、角層は深部の生きた組織と密接に連動しつつ、皮膚から体外へと望ましくない物質を鱗屑形成とともに排除するという働きをして、生体防御機構に参加しており、補体の活性化、IL-1の放出などを介して正常の皮膚では信じられない、激しい炎症反応を、起こすこともできる組織である。


皮膚バリヤー機能のホメオスタシスの生化学的基礎とその調節

Mr. Kenneth R. Feingold(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校)

Mr. Kenneth R. Feingold PHOTO

皮膚の重要な機能は物質透過に対するバリアーを形成することであり、このバリアー機能は角質層の細胞間脂質に備わっている。角質層への脂質の供給は表皮顆粒層でのラメラ顆粒の分泌によって行なわれる。溶媒による処理、界面活性剤による処理、あるいはテープストリッピングによってバリアーを破壊すると、それに引き続き表皮中において速やかにバリアーを修復するホメオスタティックな応答が以下のように起きる。
(1)既に形成されていたラメラ顆粒がバリアー破壊後、間もなく分泌される。
(2)表皮中でのコレステロール、脂肪酸、スフィンゴ脂質の生合成が増加する。
(3)新しいラメラ顆粒が形成される。
(4)角質層へ脂質が供給される。
(5)角層中での脂質のプロセシングが進行する。
(6)バリアー機能が正常化される。

ラメラ顆粒の分泌、脂質合成あるいは細胞間脂質のプロセシングを抑制すると、バリアーの回復が妨げられる。同時に水分を通さない膜で閉塞して人為的なバリアーを施してもバリアー修復が抑制される。表皮上層ではカルシウムの濃度が高いが、このカルシウムが減少するとラメラ顆粒分泌のシグナルやバリアーの回復が開始される。ここで表皮上層のカルシウム濃度が変わらないようにするとバリアー修復が妨げられる。最後に角質層の障害は表皮によるサイトカイン(TNF、IL-1α、IL-1βなど)や成長因子(NGFとアンフィレギュリン)の産生を増加させる。これらの因子は皮膚におけるホメオスタティックな応答を伝えたり、表皮増殖性異常や炎症のような病理学的変化を惹起させうるものである。


角質層形成における表皮細胞の蛋白代謝:
細胞接着と細胞骨格分子

北島 康雄氏(岐阜大)

北島 康雄氏 PHOTO

人体は、生細胞の角化細胞と死細胞の角質細胞から成る表皮によってその内部を保護している。表皮は細胞内の細胞骨格と細胞間接着(desmosome, hemidesmosome, adherens junction など)によってその強靭なシート構造を形成している。これらの接着構造分子や細胞骨格は、構造構築のみならず、角化細胞が正常に角化して角質層を形成するための増殖と分化に関わるシグナル伝達にも重要である。まず、ここではこれらの細胞接着構造と細胞骨格の分子構造とその代謝、制御についてまとめる。さらに、角質層の形成過程を蛋白分子の面からよりよく理解するために、正常の角化過程が障害される代表的な表皮疾患の幾つかを紹介したい。ケラチン遺伝子の変異はケラチン細胞骨格の崩壊を来たし、表皮水疱症や魚鱗癬様の角化異常を起こす。天疱瘡抗体がデスモソームカドヘリンに結合すると、細胞内シグナル伝達を刺激し、デスモグレイン、プラコグロビンのリン酸化とそれらの解離、プラスミノーゲンアクチベータの分泌を惹起し、細胞接着障害に至る。プロフィラグリンからフィラグリンへの代謝障害は、道化師様胎児を、トランスグルタミナーゼ遺伝子の変異は葉状魚鱗癬の原因になる。これらの疾患の分子医学的解明は治療法の開発に加えて、正常角質層の形成機序のより良い理解に寄与するであろう。


角層のディスコメーション・メカニズムとスキンケアに対する役割

小山 純一(資生堂 ライフサイエンス研究所)

小山 純一 PHOTO

角層の主な機能は外界からの異物の侵入や生体の内側からの水分の揮散を防ぐことにある。その機能を保つために常に新しく作り変えられ表面からは古くなった細胞が脱落していく(ディスコメーション)。正常時には気づかないが、肌荒れが起こると目に見える落屑が発生したり、加齢により角層が厚くなったり、ある種の皮膚疾患でも角層が厚くなったり落屑が発生することが知られている。しかし、そのような皮膚の異常とディスコメーションの変化の関連については明らかになっていない。

ディスコメーションに対して何が影響しているのか、どのようなスキンケアが有効かを明らかにするためにディスコメーションの機構を研究した。その結果デスモソームが角層細胞の接着に大きな役割をはたしており、このデスモソームを二種類のセリン酵素(トリプシン様、キモトリプシン様)が分解することにより角層細胞が脱落する機構を明らかにした。

酵素によるデスモソームの分解は角層中の水分に影響されることが明らかになった。このことは冬季の乾燥条件では酵素によるデスモソームの正常な分解が妨げられた結果、落屑が発生すると考えられた。加齢によりトリプシン様酵素の活性が低下することが明らかになり、加齢による角層の肥厚に酵素活性の低下が関与していることが示された。

ディスコメーションの観点からスキンケアを考えると乾燥により引き起こされた肌荒れの落屑の発生には保湿により角層水分量を適正に保ち、酵素を正常に働かせることが有効である。また、酵素活性が低下することにより引き起こされる角層肥厚、落屑の発生にはデスモソームの分解を促進する薬剤が有効であると考えられた。


特別講演
皮膚における核内レセプターとレチノイド情報伝達

Mr. Pierre Chambon(カレッジ・ド・フランス)

Mr. Pierre Chambon PHOTO

レチノイドレセプターRARsおよびRXRsは核内レセプタースーパーファミリーに属し、リガンド誘導性転写制御因子としてターゲット遺伝子の同種応答配列に結合してその発現を調節する。転写メディエーター/転写仲介因子(TIFs)は核内レセプターを活性化する機能ドメインAF-2のリガンドに依存した転写活性化の仲介に関わっていると考えられる。われわれは、TIFの候補タンパクをいくつか同定し、性質を調べてきたが、それらは特異的にいくつかの核内レセプターのリガンド結合ドメインとリガンド依存的に相互作用することを明らかにした。TIF-2はAF-2を活性化させる因子が転写装置となるのに必要なすべての性質を有している。

すなわち、 (1)in vivoで核内レセプターとアゴニスト依存的に相互作用する。
(2)in vitroで核内レセプターのリガンド結合ドメインとアゴニストに依存し、かつ正常なAF-2に依存して相互作用する。
(3)自己活性化能を潜在的に有している 。
(4)核内レセプターが自己不活化するのを抑制する。
(5)トランスフェクトした細胞で過剰発現させると核内レセプターのAF-2活性が亢進する。

一方、自己活性化能を有していないTIF-1はショウジョウバエのヘテロクロマチン蛋白HP-1(それ自身でクロマチンの構造・機能に関与しているタンパクと相互作用する)のマウスホモログと相互作用する。したがって、TIF-1は核レセプターのAF-2の作用を仲介し、クロマチン構造を再構築させている可能性がある。さらに、構造的、機能的にTIF-1あるいはTIF-2のいずれかと関連しているタンパクの特徴から、転写メディエーターの新しい遺伝子ファミリーが存在している可能性が示唆される。ここでは、どのようにしてTIFsがそれらのメディエーター機能を示すのかについて、リガンドの結合による核レセプターのリガンド結合ドメインのコンフォメーション変化に着目して論じる予定である。

in vitroで、RARとRXRはへテロ二量体として様々な同種応答配列に結合するが、果たして多数のRARとRXRのアイソフォームのへテロ二量体化が、脊椎動物のライフサイクルを通しておこるレチノイドの極めて多様な作用を説明するレチノイドレセプター機能単位の多様性を生じさせ得るのかどうか、という問題がでてくる。RAR/RXRヘテロ二量体が実際、in vivoにおいてもレチノイドシグナルを伝達しているという結論は、いくつかの証拠によって強く支持されている。第一に、胎児期癌細胞F9とNB4細胞では、レチノイドによる分化誘導、細胞増殖抑制、アポトーシスあるいはターゲット遺伝子の発現において、RARとRXRの間に明らかな相乗作用が存在する(RARアイソタイプの特異的アゴニストとpanRXRアゴニストで活性化した場合)。第2に、RAR、RXRあるいはRAR/RXRのシングルあるいはダブルミューテーションを持つF9細胞ではレチノイド応答性が損なわれている。第3に、RARとRXRのシングルあるいはダブルミュータントマウスを用いて、特定のRAR/RXRアイソフォームの組合せをノックアウトすると、その影響には明瞭な相乗作用が認められる。これらのことは、RAR/RXRのへテロ二量体が生理的条件下でレチノイドシグナルを伝達する単位であることを証明している。

皮膚におけるレチノイドレセプターが果たす生理的役割について、特異的にRAR、RXRアイソタイプの両方あるいはいずれか片方の発現を変化させたトランスジェニックマウスやノックアウトマウスによる発生学的研究から得られた最近の成果を中心に論じたい。


表皮-真皮接合部複合体の構造と機能:
上皮細胞の基底膜および真皮への接着構造の特徴について

Mr. Robert E. Burgeson(ハーバード医科大学)

Mr. Robert E. Burgeson PHOTO

皮膚表皮と真皮の間の基底膜には、アンカリング複合体と言われている特異的な構造体が含まれている。この構造が表皮と真皮の接着を安定化していることが知られている。アンカリング複合体中の構成タンパク質は、表皮細胞内の細胞骨格ケラチンタンパク質と真皮の結合組織タンパク質の両者と結合しうる機能がある。アンカリング複合体のこの機能の重要な構成物質の一つがラミニン5である。多くの研究室から報告されているように、ラミニン5の各鎖をコードする遺伝子の先天的な異常が、重篤な水疱形成で知られるHerlitz致死型の接合部型先天性表皮水疱症の原因であることから、ラミニン5は表皮の接着に必須であることが示された。

ラミニン5は、ヘミデスモソーム構成タンパク質の膜通過型のα6β4インテグリンと結合することは明らかであるが、一方、基底膜や真皮の構成物質とどのように結合しているのかは、必ずしも解明されていない。我々は以前、ラミニン5は単独で精製される場合と、ラミニン6あるいはラミニン7と共有結合した会合体として精製される場合があり、組織中ではこれら2つの存在様式があることを報告した。さらに、ラミニン5-ラミニン6/7会合体はナイドジェンを介して他の基底膜成分と結合できることも示した。また最近、我々はラミニン5分子がVII型コラーゲンと結合することを明らかにした。

これらの結果から、分子状のラミニン5は表皮-真皮結合の安定化に寄与する重要な分子種であり、一方、ラミニン5-ラミニン6/7会合体はヘミデスモソーム間の基底膜との複合体形成/安定化に寄与しているという作業仮説をたてた。この仮説に基づくと、表皮と真皮の接着に問題のあるような臨床的な疾患において、ラミニン5は表皮細胞の接着を改善すると考えられる。そこで、我々は表皮シート移植や創傷治癒、あるいは接合部型先天性表皮水疱症の表皮細胞の移植に及ぼすラミニン5の添加効果を試験した。まだ予備実験的ではあるが、ラミニン5は基底膜構造形成の割合を増加し、表皮細胞の接着を促進する作用を有することが示唆された。


表皮中に存在する抗原提示細胞の皮膚神経による機能調節

Mr. Richard D. Granstein(コーネル大学)

Mr. Richard D. Granstein PHOTO

ランゲルハンス細胞は表皮中に存在する突起をもった抗原提示細胞であり、皮膚の免疫反応において重要な役割を果たしている。ランゲルハンス細胞の各種機能の少なくとも一部は、ペプチドサイトカイン、その中でも特に、 interleukin-10(IL-10)、tumor necrosis factor-α(TNF-α)、granulocyte macrophage-colony stimulating factor(GM-CSF)によって調節されている。

最近の研究から、神経伝達物質であるcalcitonin gene-related peptide(CGRP)がランゲルハンス細胞の抗原提示機能を抑制することが明らかにされた。さらに、ランゲルハンス細胞はCGRP含有神経と高頻度に接触していることか解剖学的に証明された。また、ランゲルハンス細胞が他の神経ペプチドに対するレセプターを発現していることがつい最近の実験によってわかった。さらに興昧深いことに、ランゲルハンス細胞が神経の分化に影響する物質を生成することが見い出された。

これらの結果は、ランゲルハンス細胞と神経とが相方向に影響しあうという概念を支持するものであり、さらに神経系による免疫系の調節機構が皮膚にも存在することを示すものである。


免疫系の発生における転写調節

Ms. Katia Georgopoulos(ハーバード医科大学)

Ms. Katia Georgopoulos PHOTO

抗原特異的な免疫反応の惹起に関与する免疫細胞の発生は、zinc fingerを持った一群のDNA結合蛋白によって調節されている。この中で最初に発見されたメンバーはIkaros遺伝子であり、最も幼若で多分化能をもった血液幹細胞から、成熟したリンパ球まで発現している。Ikarosは、B細胞、T細胞の分化および、リンパ球のホメオスタシスに先行して発現する。この遺伝子の正常な発現を妨げる変異は、重篤な免疫不全の原因となり、急速にT細胞リンパ腫を引き起こす。したがってIkaros蛋白は、リンパ球の早期分化に不可欠であると同時に、リンパ球成熟の後期においても重要であることが明らかとなった。

遺伝子レベル、生化学レベルの研究から、この遺伝子は、他の因子と複合体を作って作用することがわかった。この中の一つは、相同的なAiolos遺伝子上にコードされており、Ikaros遺伝子に比べて限定的で発生過程および、成熟リンパ球に限られ、特にB細胞に多い。B細胞の成熟に重篤な影響を及ぼすAiolos遺伝子の欠損について議論する。


皮膚の構造機能制御における表皮-真皮相互作用の役割

西山 敏夫(資生堂 ライフサイエンス研究所)

西山 敏夫 PHOTO

線維芽細胞により収縮したコラーゲンゲル上で表皮角化細胞を培養する皮膚モデル系では、細胞の挙動が生体皮膚に類似していることが知られている。我々は、表皮角化細胞や線維芽細胞の機能、あるいは表皮-真皮結合部の基底膜形成において、表皮-真皮相互作用や細胞-マトリックス相互作用がどのように重要なのかを明らかにするために、この皮膚モデルを用いて研究を重ねている。現在までに以下に示す結果を得ている。

  1. 1.生体皮膚で線維芽細胞は増殖性の極めて低い静止状態の細胞である。線維芽細胞により収縮したコラーゲンゲル(真皮モデル)内での細胞の増殖は、高密度のコラーゲン線維により抑制されており、in vivoの状態に類似している。これは、増殖因子であるEGF, b-FGF, TGF-βに応答しないこと、およびPDGFへの増殖応答性の低下による。
  2. 2.皮膚モデルにおいて、表皮角化細胞の増殖および表皮細胞層の厚さは、線維芽細胞により制御されている。線維芽細胞の分泌するパラクライン増殖因子のうち、KGFが表皮細胞増殖に重要な役割を担っている。
  3. 3.表皮角化細胞と線維芽細胞の両者とも、基底膜成分の合成と表皮細胞-真皮モデルの境界への沈着に関与している。特に、線維芽細胞は基底膜の微細構造形成を促進している。

以上の結果は、細胞-細胞間相互作用や細胞-マトリックス相互作用が、細胞増殖やマトリックス成分の産生、沈着、さらにはそれらの構造形成にも重要な役割を果たしていることを強く示唆している。培養皮膚モデルでのこれらの実験事実から、生体皮膚の構造と機能の制御メカニズムを解明するための重要な情報が得られる。


より優れたスキンケアのための皮膚バリアー機能調節

Mr. Peter M. Elias(カリフォルニア大学 サンフランシスコ校)

Mr. Peter M. Elias PHOTO

皮膚の最も重要な機能は、物質透過に対するバリアーである角質層を形成することであり、この角質層によって陸上における生命の維持が可能になる。正常なバリアーの維持は生体にとって極めて重要であり、そのために表皮中でいくつかのタイプの代謝活性が調節されている。これらの代謝プロセスは、イオン、およびサイトカインのシグナルの作動に応答して調節されている。後者のあるものはまた、炎症をも誘導する。したがってバリアーの破壊は、ホメオスタティックなバリアー回復過程のみならず病態生理学的な変化をもたらすこともありうる。この外的因子によって惹起される一連の変化を考慮すると、バリアー機能の異常によって引き起こされたり長引いたりする多くの皮膚疾患の治療の手段の一つとして、バリアー機能を維持することが重要であることが改めて理解できる。個々の状況に応じた治療の手段としては以下のようなものが含まれる。

(1)適切な構成比の脂質混合物を補充する。
(2)主要な脂質の異常を特別な生理機能を持つ脂質で正常化する。
(3)生理活性脂質*が効果を示さない場合、不活性で生理活性のない脂質を利用する。
(4)皮膚全体の保護剤の処方への抗炎症成分、不活性脂質、生理活性脂質を適用する。
(5)粘膜への特別な処方を開発する。

*生理機能を持つ脂質、生理活性脂質(Physiological Lipid)とは表皮、角質層中に本来存在しているコレステロール、脂肪酸、スフィンゴ脂質などを意味し、これらの脂質は外用した場合、表皮細胞中に取り込まれる。これに対しワセリンなどは角質層に留まる。


スキンケア化粧品の有効成分:
新規スキンケア有効成分の開発を中心に

北村 謙始(資生堂 薬剤開発研究所)

北村 謙始 PHOTO

肌荒れは、角質層の乾燥・粗造化を特徴とする美容上好ましくない皮膚状態であると同時に、慢性的な肌荒れは、皮膚老化を促進する要因のひとつと考えらている。この肌荒れの予防、改善は化粧品において、最も基本的、かつ恒常的に求められている機能である。

この肌荒れについては、これまで角質層の機能や成分の変化と肌荒れ現象との関連に着目した多くの研究がなされてきたが、肌荒れの発生機序については現在も多くの不明な点が残されている。一方、肌荒れに対する有効成分については、従来から角質層の保湿の観点からの研究、開発が主体であった。 本シンポジウムでは、肌荒れの発生機序の一端を明らかにし、その発生機序に立脚した優れた有効成分の開発を目的とした研究を中心に報告する。

我々は、肌荒れの発生過程に表皮内のプラスミノーゲン(PLG)活性化系が重要な役割を果たしていることを明らかにした。更に、その知見に基づいた有効成分である 4-Aminomethyl cyclohexane carboxylic acid を見出だしスキンケア化粧品の新規有効成分として開発した。


抗酸化剤の効用と紫外線損傷の予防

市橋 正光氏(神戸大)

市橋 正光氏 PHOTO

太陽紫外線を浴びた皮膚は日焼けで赤くなり、その後色素沈着を誘導する。この現象は、紫外線の直接作用あるいは活性酸素(ROS)を介した間接作用により生じ、同時に細胞DNA損傷と個体の免疫抑制を伴う。 8-ヒドロキシグアノシン(8-OHdG)はスーパーオキシドアニオン、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなどのROSにより生じる光生成物である。がん関連遺伝子に生じた8-OHdGは変異を誘導し、細胞をがん化させる。また、紫外線はプロモーターとしても作用する。

一方、色素細胞の増殖とメラニン生成は、紫外線B照射により表皮角化細胞により生成されるα-MSH、エンドセリン-1およびチオリドキシン/ADFによりパラクライン経路で刺激される。N-アセチルシステイン(NAC)はこの反応を抑制する。α-トコフェロール誘導体は紫外線Bによるメラニン生成を抑制し、またチロシナーゼとTRP-2の酵素活性及びmRNA発現レベルを抑制する。

SOD、カタラーゼ、ビタミンC及びビタミンEなどの内因性抗酸化物質は比較的大量の紫外線Bに曝露された皮膚や細胞に生じた活性酸素を消去する。

NACは紫外線Bによりリン酸化されたSrcによるNFkBの活性化を抑制し、細胞を死から救う。 α-MSHはアレルギー性接触皮膚炎反応の感作と惹起の両ルートを抑制し、さらにトレランスを誘導する。従って、NACは紫外線Bによる免疫抑制を阻止し、生体の免疫機構維持に有用と考えられる。ビタミンCとビタミンEは、in vitro系で紫外線による免疫抑制を軽減させることも明らかになっている。 これらの結果は、抗酸化剤が光老化や光発癌の予防に有用であることを強く示唆している。


シンポジウム総括 21世紀へのプロローグ

尾沢 達也(資生堂)

尾沢 達也 PHOTO

人間の生命は皮膚によって守られている。その最上層はわずか20ミクロンの厚さの角層である。これはまさに生命と非生命を分ける境界のようなものである。 皮膚は生体で起きている生命現象を素直に反映し、同時に環境からの影響を内部に伝達する。そして、細胞は相互に会話し、お互いにコミュニケーションをとっている。これらの結果として生命のホメオスタシスは守られている。 殊更興味深いことは、こころとからだが皮膚を介してつながっているという実態が、ランゲルハンス細胞と神経細胞の接触を確認することで判ってきたということである。そして、皮膚細胞中で起こっている様々な現象が分子生物学的手法を用いて遺伝子のレベルで解明されつつあるという事実も、これからの皮膚科学の興味の行方を示唆している。

21世紀、エイジングはグローバルな課題である。ヒトが幸せに生涯を全うする手段の一つとして、外からのスキンケアが身体の内部に伝達し、そして身体の内部に様々な変化をもたらすことが考えられる。それをマクロな形で生物学的に捉えると共に、これからは分子生物学的あるいは分子生理学的手法で、よりミクロに、そしてダイナミックなかたちで捉えていくことになるだろう。 この時、皮膚は単なる生命の袋を超えて、脳とこころを取り込んだ生命そのものの活動に直接関与する存在になると思う。新たな時代の皮膚のケアの手段について本シンポジウムは極めて多くのヒントと確信を提供してくれるに違いない。

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