1. Home
  2. 研究開発
  3. 医師・研究者向け情報
  4. シンポジウム・セミナー
  5. 1998年度

研究開発
Innovation

1998年度

第97回日本皮膚科学会 ランチョンセミナー

「21世紀に向けて紫外線防御を考える」

開催年月 :
1998年5月
共催 :
日本皮膚科学会・資生堂

概要

1)開催にあたって

市橋 正光氏(神戸大学 医学部 皮膚科 教授)

2)最近のサンスクリーンの問題点

松永 佳世子氏(藤田保健衛生大学 医学部 皮膚科 講師)

3)光線過敏症とサンスクリーン

堀尾 武氏(関西医科大学 皮膚科 教授)

4)健常人とサンスクリーン

上出 良一氏(東京慈恵会医科大学 皮膚科 助教授)

5)関連文献


開催にあたって

市橋 正光氏(神戸大学 医学部 皮膚科 教授)

市橋 正光氏 PHOTO

日焼けで小麦色に肌を焼くことが健康に良いと考えられた20世紀も、後2年半程となった。1970年から80年にかけて、フロンガスによるオゾン層破壊が明らかになり、地表紫外線が増加し、皮膚や眼の障害が増大することが懸念されるところとなった。一方、太陽紫外線を長年浴びた皮膚の癌や、光老化が遺伝子異常により誘発されることも明らかになった。さらに紫外線は免疫を抑制することから、皮膚癌や感染症に対する紫外線の有害性も、ヒトの健康に与える障害として注目されている。

オーストラリアを筆頭に、米国、ヨーロッパやカナダの白人では、過去30年間にわたり皮膚癌が増加し続けている。特にオーストラリアでは人口10万人に対し非黒色腫患者罹患率は800人を超える。日本人でも、ハワイでは年間紫外線量が多いため、罹患率は約50人と高い。疫学調査によれば、10才未満で強い紫外線を浴びると、10才以降に浴びる場合より皮膚癌の罹患率が高い。SPF15のサンスクリーン剤を18才まで使用すると、生涯の皮膚癌発生率を80%は低くできるとの疫学報告もあり、マウスの紫外線発癌実験でもSPF10を使用すると皮膚癌の初発は著しく遅くなることもわかっている。さらに、皮膚癌は遺伝子変異で誘発されるとの証拠が次々と出されているが、サンスクリーン剤使用によりマウスのp53変異も遅くなり、発癌が遅れる現象とよく一致することもわかってきた。

従来サンスクリーン剤はサンバーン防止を目的としていたが、今後は急性反応としての免疫抑制の防止、慢性反応としての発癌やしわの発生を抑制できるかが焦点となる。最小紅斑量の1/10量の少量の紫外線で、既にある遺伝子は活性化され、老化に関与することも考えられる。

光線過敏症に対する超高SPF(≧50)の臨床応用も考慮し、市場のサンスクリーン剤の有用性を皮膚科学の立場から考えてみたい。


最近のサンスクリーンの問題点

松永 佳世子氏(藤田保健衛生大学 医学部 皮膚科 講師)

松永 佳世子氏 PHOTO

紫外線は皮膚に対して有害作用を持つことが一般に知られるようになり、紫外線を防御するサンスクリーン製剤の開発が相次いでいる。紫外線の皮膚に対する有害作用には日焼けや光線過敏型薬疹などの急性光線性皮膚障害と、シミやシワまた皮膚癌などの慢性光線性皮膚障害があげられる。

これらの有害な紫外線を防御する有力な手段の一つにサンスクリーン製剤がある。その紫外線防御効果は、長波長紫外線(UVA)に対するものと、中波長紫外線(UVB)に対するものの二つに分けられる。

日本化粧品工業連合会は1992年1月「SPF測定基準」を、1996年1月「UVA防止効果測定基準」を世界に先駆けて制定発効した。SPFの数値についてはアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドは最大30と制限しており、欧州はSPF20以上を最高ランクとしているが、日本は上限を設定しておらず、高SPF製品の開発競争の結果、現在日本で市販されている製品のSPFはほとんどが50以上で、中には87と表示したものもある。高SPF製品の開発は技術的にはそれほど困難ではないと思われるが、安全性を保証し向上させることと、白さや伸びなどの使用性の確保と低価格の実現は背反事項であると思われる。1992年以降のサンスクリーン製品にはそれ以前より2倍以上多い量の紫外線吸収剤、主に2-ethylhexyl p-methoxycinnamate、oxybenzoneが含まれ、これらによる皮膚障害例の報告数も増加している。

本シンポジウムでは、まず本邦と諸外国におけるSPF測定基準、UVA防止効果測定基準とその表示法を解説する。つぎに、高SPFをもつサンスクリーン製剤の開発状況と使用されている紫外線吸収剤の現状について述べる。加えて、これらによる皮膚障害の最近の報告を概説する。

果たして高サンスクリーン製剤を使用する意味があるのか。あるとすれば、どのような場合に有用なのか。サンスクリーン製剤についての意識調査の結果もあわせて報告する。

以上、サンスクリーンの現状と問題点をまとめ、SPF上限設定の必要性を提言したい。


光線過敏症とサンスクリーン

堀尾 武氏(関西医科大学 皮膚科 教授)

堀尾 武氏 PHOTO

光線過敏を呈する疾患はきわめて多彩であり、その病因、発症機序、作用波長、臨床症状、臨床経過なども疾患によって一様ではない。したがって、治療法や予防法も疾患の特性に応じて考えなければならない。たとえば薬剤などによる外因性光線過敏症であれば、光感作源である原因薬剤の中止が原則である。しかし、遺伝性あるいは内因性の光線過敏症では、病因の回避が不可能なため、対症療法とともに遮光が不可欠である。治療としては、副腎皮質ホルモンの外用および内服、PUVA療法、免疫抑制剤等による種々の方法が試みられるが、いずれも重症例では効果や副作用の点で問題がある。しかし、近年開発された市販のサンスクリーン剤は、UVBに対して高いSPF値を有するばかりでなく、UVAや可視光線にも遮光効果がある。これらのサンスクリーン剤は、健常人における急性(日やけ)および慢性紫外線傷害(光老化)の予防目的で開発されたものであるが、光線過敏にも効果があり、重症例でも全身療法を行うことなく良好にコントロールできることが多い。とくに、紫外線領域に極度の過敏性を呈するchronic actinic dermatitisに対する有用度が高い。また、薬剤性光線過敏症において原疾患の治療上、原因薬剤の中止が困難な場合でもサンスクリーン剤使用により継続治療が可能な症例もある。色素性乾皮症のモデルマウスを使用した動物実験では、サンスクリーン剤が紫外線発癌を著明に抑制した。

サンスクリーンの成分として用いられる紫外線吸収剤は、ときにアレルギー性の接触皮膚炎や光接触皮膚炎を生じうるが、現実にはこれらの副作用の発現頻度は低い。さらにこの問題も、紫外線散乱散のみを含有するサンスクリーン製品を使用することにより回避することができる。

患者のQOLは向上し、使用感も改善されて、光線過敏症に対するサンスクリーン剤の有用性は近年著しい向上をみた。


健常人とサンスクリーン

上出 良一氏(東京慈恵会医科大学 皮膚科 助教授)

上出 良一氏 PHOTO

紫外線による皮膚の急性障害としてサンバーン、サンタンが、また慢性の障害としては「しみ」、「しわ」などの光老化や脂漏性角化症、皮膚悪性腫瘍の発生が知られている。さらに皮膚の免疫能に対する抑制作用も感染、腫瘍免疫の観点から問題となろう。それらの有害作用から皮膚を守る手段としてサンスクリーンの持つ意味は大きい。

これまでサンスクリーンの紫外線防御能は主としてUVB照射による紅斑反応を指標として、SPF(sun protection factor)で表されてきた。一方UVAに関してはごく最近測定基準が提案された。これはUVA照射によるIPD(immediate pigment darkening)が比較的安定する2-4時間後の黒化を指標としてPA(protection grade of UVA)で表示するものである。

健常人におけるサンスクリーンの効果として最も端的に捉えられるのはサンバーンの防止である。そのほか光老化の予防と改善、DNA損傷の軽減、皮膚癌の発生抑制などの効果が様々な系を用いた研究で確認されている。しかし紫外線照射による免疫抑制がサンスクリーンの使用によりどの程度阻止できるかについてはその結果が一定しない。これは指標とする免疫学的反応の複雑さと、反応の感度などに起因する可能性がある一方、紅斑反応のみでは紫外線防御能を把握しきれないことを意味している。即ち紅斑量以下であっても皮膚障害は生じているということである。

サンスクリーンの持つ問題点として、その効能が適正に表示されているかという点がまず挙げられる。いたずらに高いSPFを誇示した宣伝は消費者を惑わすだけで、実際的には意味がないものである。また成分による皮膚障害の発生や皮膚の内因性抗酸化能の障害などの安全性の面も今後さらに注意深く見守っていかなければならない。常用によるビタミンD3欠乏の可能性も現実的には問題とはならないが、論理的には考慮しておくべき点であろう。新たな遮断素材の開発、使用感、耐水性などに関しても今後の更なる製剤技術の向上が望まれる。

従来のサンスクリーンは紫外線を単に遮断して皮膚障害を予防することだけがその役割であったが、今後は更に一歩進めて、紫外線照射により発生した活性酸素種の除去や、生じたDNA損傷の修復効果を持つもの、更には光老化皮膚を回復させるものなど皮膚障害を回復させる機能を持つものが期待される。


関連文献

  1. 1.堀尾 武: 遮光剤、皮膚臨床37: 1145-1149、1995
  2. 2.河本 英恵、宮内 洋子、山田 聖佳、秋友 保千代、堀尾 武: Chronic actinic dermatitis に対するサンスクリーン剤の有用性、皮膚 37: 791-799、1995
  3. 3.上津 直子、堀尾 武: 光線過敏症に対するサンスクリーン剤の有用性、香粧会誌 22
  4. 4.長沼 雅子: 紫外線防止剤とその効果、香粧会誌 20: 187-191、1996
  5. 5.福田 實: 紫外線防御能の評価と表示方法、粧技誌 31: 385-395、1997
  6. 6.Lowe NJ, Shaath NA, Pathak MA, ed., Sunscreens, Mercel Dekker, New York, 1997
  7. 7.Funk JO, Dromgoole SH, Maibach HI: Sunscreen intolerance contact sensitization, photocontact sensitization, and iritancy of sunscreen agents, Dermatologic Clinics, 13: 473-481, 1995
  8. 8.Stonley B. Levy: Sunscreens for photoprotection, Dermatologic Therapy, 4: 59-71, 1997
  9. 9.Bisland D. Ferguson J: Contact allergy to sunscreen chemicals in photosensitivity dermatitis / actinic reticular syndrome and polymorphic light eruption, Contact Dermatitis, 29: 70-73, 1993
  10. 10.Hayakawa R: Contact / photocontact dermatitis due to sunscreen products in Japan, Environ Dermatol, 1: 98-105, 1994
  11. 11.Pathak MA: Sunscreens: Progress and perspective on photoprotection of human skin against UVB and UVA radiation, J Dermatol 23: 783-800, 1996
  12. 12.Marks R: Summer in Australia, Arch Dermatol 131: 462-464, 1995
  13. 13.Thompson SC et al: Reduction of solar keratoses by regular sunscreen use, N Engl J Med 329: 1147-1151, 1993
  14. 14.Serre I et al: Immunosuppression induced by acute solar simulated ultraviolet exposure in humans: prevention by a sunscreen with a sun protection factor of 15 and high UVA protection, J Am Acad Dermatol 37(2 Pt 1): 187-194, 1997
  15. 15.Yarosh D et al: Enzyme therapy of xeroderma pigmentosum: safety and efficacy testing of T4N5 liposome lotion containing a prokaryotic DNA repair enzyme, Photodermatol Photoimmunol Photomed 12: 122-130, 1996
  16. 16.Roberts LK, et al: Commercial sunscreen lotions prevent ultraviolet-radiation-induced immune suppression of contact hypersensitivity, J Invest Dermatol 105: 339-344, 1995
  17. 17.Wolf P, et al: Sunscreen and T4N5 liposomes differ in their ability to protect against ultraviolet-induced sunburn cell formation, alterations of dendritic epidermal cells, and local suppression of contact hypersensitivity. J Invest Dermatol 104: 287-292,1995
    Ananthaswamy HN, et al: Sunlight and skin cancer: inhibition of p53 mutations in UV-irradiated mouse skin by sunscreens, Nature Genet 3: 510-514, 1997
  • Google+
  • Facebook
  • Twitter
一般のみなさまへ
専門家のみなさまへ
スペシャルコンテンツ
おすすめコンテンツ
資生堂グループのブランド一覧へ

新着情報