1. Home
  2. 研究開発
  3. 医師・研究者向け情報
  4. シンポジウム・セミナー
  5. 2000年度

研究開発
Innovation

2000年度

資生堂サイエンスシンポジウム2000

「スキンケア・ミレニアム 皮膚と遺伝子:見えてきた接点」

開催年月 :
2000年4月
主催 :
資生堂

概要

皮膚と遺伝子のつながり。
いま最先端の皮膚研究が取り組んでいるのは、この興味深い領域です。
資生堂は「スキンケア・ミレニアム 皮膚と遺伝子:見えてきた接点」をタイトルに、
2000年4月に7回目となるシンポジウムを開催。
93年度ノーベル生理・医学賞受賞者のフィリップ・シャープ氏による特別講演をはじめ、
国内外の研究者からスキンケアや遺伝子に関わる最新の研究成果が発表されました。

1)開会挨拶

弦間 明(資生堂 代表取締役社長)

■セッション1 表皮のホメオスタシス

2)乾燥環境に対する表皮の機能

傳田 光洋(資生堂リサーチセンター)

3)表皮のサイトカインとケモカイン

古江 増隆氏(九州大学大学院 医学系研究科

4)ランゲルハンス細胞研究の新展開

Mr. Georg Stingl(ウィーン医科大学)

5)T細胞と免疫監視機構および炎症性皮膚疾患

Mr. Thomas S.Kupper(BWH/ハーバード医科大学)

■セッション2 21世紀の生命科学の目指すところ

6)特別公演 21世紀における生命科学の展望

Mr. Phillip A. Sharp(マサチューセッツ工科大学 がん研究センター)

7)老化疾患克服への挑戦

鍋島 陽一氏(京都大学大学院 医学研究科)

■セッション3 表皮と真皮のクロストーク

8)細胞成長因子による表皮ケラチノサイト機能の制御

橋本 公ニ氏(愛媛大学 医学部)

9)サイトカインによる細胞外マトリックス遺伝子の発現調節

Mr. Jouni Uitto(ジェファーソン医科大学)

10)皮膚線維芽細胞の増殖制御

竹原 和彦氏(金沢大学 医学部)

11)VEGFとトロンボスポンジンの役割

Mr. Michael Detmer(MGH/ハーバード医科大学 CBRC)

12)皮膚基底膜におけるラミニン5の重要性

西山 敏夫(資生堂リサーチセンター)

13)閉会挨拶

熊野 可丸(資生堂 取締役 研究開発本部長)


開会挨拶

弦間 明(資生堂 代表取締役社長)

弦間 明 PHOTO

資生堂は「つねに肌と向き合い、肌を通して人にふれあい、ともにいい肌をつくりあげる」ことを創業以来の基本理念とし、「スキンケアハウス資生堂」のテーマのもとにお客さまの肌とともに歩んでおります。この理念に基づいて、サイエンスに裏打ちされた「皮膚と心と美のありかた」を深くさぐるためには、世界における最先端のサイエンス動向を広く探るとともに、それを企業枠を越えて活かすことが必要と考え、1972年より皮膚科学の専門家を対象とした国際サイエンスシンポジウムを開催して参りました。

1992年には脳と皮膚と免疫の関わりをテーマとするシンポジウム「ヒューマンヘルスサイエンスと皮膚」を開催し、1997年には「いつまでも美しい肌を…という遺伝子が、あるのかもしれない」との仮説を追求するシンポジウム「皮膚:生体のインターフェイス」を開催しました。そして1998年には世界の皮膚研究者が集うドイツ・ケルン市で「皮膚生物科学を巡るさまざまな問題」と題するシンポジウムを開催しました。

このように皮膚生理のしくみを分子のレベルで明らかにしてきた流れを受け、今回、スキンケア科学をより一層深化させるために “スキンケアは皮膚のさまざまな遺伝子産物の影響を受ける”ことを主題とし「スキンケア・ミレニアム <皮膚と遺伝子:見えてきた接点>」を開催いたします。

今回のシンポジウムでは、皮膚の最外層の表皮のダイナミックな動きをホメオスタシスの面から捉える第一セッションと、表皮と真皮がさまざまな遺伝子産物を介してクロストークしている姿に迫る第三セッションを組み、世界の精鋭皮膚科学研究者9名による最新の研究成果についてご講演いただきます。さらに、スキンケアは皮膚局所ばかりでなくからだ全体から捉えていく必要がありますので、生命科学の根幹に迫るセッション「21世紀の生命科学の目指すところ」を設け、1993年度ノーベル生理・医学賞受賞者のフィリップ・シャープ教授と、生命の糸を紡ぐクロトー遺伝子の発見者であられる鍋島陽一教授にご講演いただきます。

新たに迎える時代へのメッセージとして開催するこのシンポジウムが、21世紀のスキンケアを考えるヒントとなれば幸いです。


乾燥環境に対する表皮の機能

傳田 光洋(資生堂リサーチセンター)

傳田 光洋 PHOTO

皮膚の機能は外界から生体を保護することである。特に陸棲哺乳類にとって、かつて海の中で発生し今なお水分に満たされた体内組織を、外部環境の乾燥から保護するために、皮膚は極めて重要な役割を担っている。

乾燥環境が、様々な皮膚疾患を増悪させることは経験的に知られていたが、そのメカニズムは不明であった。ところが最近の研究で、まず湿度の低下が皮膚表面の落屑や形態の変化を惹起すること、さらに表皮中のDNA産生を増加させることが明らかになった。さらに乾燥環境下に曝された皮膚は、外部からの軽微な刺激に対して、著しい表皮増殖性異常やマスト細胞の脱顆粒を起こした。また、表皮におけるインターロイキン(IL)-1の産生の上昇、そして角質層バリアー破壊に伴うIL-1の放出も、外部環境の乾燥に伴って誘導される傾向が認められた。

生体と環境との境界を形成する角質層には本来、二つの重要な機能がある。一つは細胞間脂質と角化細胞から形成される角質層構造がもつバリアー機能である。角化細胞を覆って形成されるコーニファイドエンベロープは、この構造形成に重要な役割を果たしている。もう一つの役割は角化細胞内のアミノ酸などにより保持された水分子による緩衝機能である。皮膚表面の乾燥を生ずる様々な皮膚疾患では、この角質層中のアミノ酸量の低下が共通して観察される。

これら二つの機能が低下すると、乾燥に伴う皮膚状態の悪化が起きる。そのような場合、スキンケア製品によってこれらの角質層の機能を回復させることが、皮膚全体の健康を維持するために必要になる。

角質層は本来、傷害を受けても自ら回復する能力を持っている。しかし精神的なストレスなどによってこの能力が低下することも分かっている。また軽微なダメージでもそれが繰り返されたり、あるいは乾燥環境下では、皮膚全体に大きな影響が現れる。そのため、ダメージを受けた角質層の回復を促進することは表皮増殖性異常の改善につながる。最近の研究では、表皮におけるプロテアーゼ活性やイオン・バランスの調整によって角質層の機能回復を促進できること、そしてそれらの処置には皮膚の状態を改善する効果があることが見い出されている。これらの結果は、皮膚が本来持っている恒常性維持機能を高めることによる新しいスキンケア製品の可能性を示唆している。


表皮のサイトカインとケモカイン

古江 増隆氏(九州大学大学院 医学系研究科)

古江 増隆氏 PHOTO

細胞はいろいろな可溶性物質を産生し相互に情報伝達を行っている。細胞が産生・分泌する可溶性物質は総じてサイトカインと呼ばれる。サイトカインの作用には多重性や相乗性があり、しかもあるサイトカインが別のサイトカインの産生を誘導したり抑制したりすることによって複雑なサイトカインネットワークが形成されている。

ケラチノサイトは実に多種多様なサイトカイン、たとえばインターロイキン(IL)-1、IL-6、腫瘍壊死因子 -α(TNF-α)、顆粒球単球細胞刺激因子(GM-CSF)などを産生分泌することが知られている。紫外線照射や接触皮膚炎によってケラチノサイトは IL-1を産生し、IL-1は自己あるいは周辺のケラチノサイトを刺激し、IL-6、IL-8、TNF-α、GM -CSFの産生を促し、産生されたIL-1、IL-8は好中球、マクロファージ、T細胞の局所への遊走を引き起こす。このように複雑なサイトカインネットワークが絡み合い、皮膚の免疫・炎症反応が形成されていくと考えられる。

白血球走化活性作用を有する一群のサイトカインはケモカインとよばれ、現在までに30余りが同定されている。アミノ酸配列中の最初の2つのシステイン残基の存在形式によりCXCケモカイン、CCケモカイン、Cケモカイン、CX3Cケモカインの4つのサブファミリーに分類される。CXCケモカインにはIL-8、Groα、Groβなどが、CCケモカインにはMCP-1、MCP-2、RANTES、eotaxin、 MIP-1αなどがあり、これらの多くはケラチノサイトから産生される。本講演では、ケラチノサイトが産生するサイトカイン・ケモカイン群について総括するとともに、ヒスタミンなどによる産生調節の一端を紹介したい。


ランゲルハンス細胞研究の新展開

Mr. Georg Stingl(ウィーン医科大学)

Mr. Georg Stingl PHOTO

1868年にポール・ランゲルハンスは突起を有する塩化金染色陽性の細胞集団を哺乳動物の皮膚に発見し、今ではこれらの細胞に彼の名が冠されている。これらの細胞の生物学的機能が理解されるまでには、100年以上を要した。1970年代になって、我々はランゲルハンス細胞が骨髄由来の白血球であり、免疫反応の第1相および第2相の強力な促進機能を持っていることを見出した。1980年代に入ると、ランゲルハンス細胞による抗原提示反応が、抗原処理モードから、免疫促進モードへの転換というランゲルハンス細胞機能転換を含むダイナミックな現象であることが明らかになった。このような「成熟」過程を開始し、進行させるのは、危険信号を受け取った他の細胞から放出される液性因子である。

その結果として、ランゲルハンス細胞はT細胞の活性化に重要な相互刺激分子を発現し、表皮を離れ、求心性リンパ網を通って局所リンパ節へと移動する。1990年代には、ランゲルハンス細胞のライフサイクルを調節し、統括する細胞生物学的・分子生物学的メカニズムが解き明かされ、血中の前駆細胞から試験管内でランゲルハンス細胞を精製する方法が確立された。

新しい千年紀を迎える現在、我々は分子生物学的ランゲルハンス細胞研究の時代に突入した。新しい技術によれば、ランゲルハンス細胞や他の樹状細胞に特異的に、あるいは少なくともこれらの細胞に多く発現する遺伝子を同定し、試験管内、あるいは個体レベルの適当な実験系でそれら遺伝子の機能を研究することができる。それと同時に、ランゲルハンス細胞へのペプチド移入と同様、遺伝子導入の方法もますます効果的にかつ正確になってきている。こうした方法を代表とする手法が、実際の疾病過程で起こるようなランゲルハンス細胞の免疫機能の選択的調節の基盤となる。ランゲルハンス細胞に由来する免疫促進作用、あるいは免疫抑制作用を利用することは、皮膚に影響するアレルギーや自己免疫疾患、さらには皮膚感染や癌の治療の重要な戦術となるであろう。


T細胞と免疫監視機構および炎症性皮膚疾患

Mr. Thomas S.Kupper(BWH/ハーバード医科大学)

Mr. Thomas S. Kupper PHOTO

皮膚は我々と外界との最初の接点である。皮膚がさらされる病因は様々で、身体や微生物に対する薬剤、熱線や電磁波の照射、そして機械的傷害を含んでいる。最も重大な病因は病原性微生物の侵入であり、この攻撃に対する効果的な防御手段の必要性が、免疫系を進化させる主要な力となってきた。これらの病的な傷害を皮膚における炎症反応へと変換させること(自然免疫)、そしてこの外界との接点の場で出会った抗原への反応応答によりクローン性の増殖をしたメモリーT細胞を誘導すること(獲得免疫)、の2つが皮膚免疫の監視機構の成立に必要である。

ある種のメモリーT細胞はそれらが最初にどこで抗原に遭遇したかを記憶しているように思われる。特に、選択的に皮膚へと循環してくる能力を持ったメモリーT細胞の一群を識別することができる。これらのT細胞は、皮膚リンパ球抗原(CLA)をマーカーとして認識されるのであるが、皮膚を支配しているリンパ節で生まれ、炎症によって最も効果的に皮膚へと呼び戻される。これらの細胞は一群の特徴あるケモカイン・レセプターを発現しており、そのことはさらに皮膚への特異性を高めている。これら細胞の第一の機能は皮膚における免疫的な監視であるが、CLA陽性のT細胞は、比較的希な皮膚疾患、例えば、皮膚T細胞リンパ腫やアロジェニックな骨髄移植の後の移植片対宿主反応の病因に関与している。また、これらのT細胞は、アレルギー性の接触皮膚炎、乾癬、アトピー性皮膚疾患、円形脱毛症、白斑、薬疹、そして偏平苔癬を含む通常の多くの皮膚疾患にも関係している。皮膚免疫の監視機構に必要なT細胞の遊走と浸潤のパターンの解析は、T細胞によって引き起こされる皮膚疾患の、臨床的、病因論的な理解にとって最も重要なものであると考えられる。この原則は、なぜ皮膚癌や皮膚の感染症が免疫抑制状態において頻発するのかを理解する手助けにもなる。


特別公演 21世紀における生命科学の展望

Mr. Phillip A. Sharp(マサチューセッツ工科大学 がん研究センター教授/生物学部長)

Mr. Phillip A. Sharp PHOTO

マサチューセッツ工科大学助教授に就任後、カリフォルニア工科大学で修得したDNAの電子顕微鏡観察技術をいかして、アデノウイルスのmRNAの生成メカニズムを研究した。その結果、分断遺伝子の仮説とその実証の業績を認められ、Dr. Richard J. Robertsと共に1993年度ノーベル生理・医学賞を受賞した。この分断遺伝子の発見が、今日の生命科学、分子遺伝子学の発展の基礎となっている。現在、マサチューセッツ工科大学で生物学を理工系学生の必修科目にする運動を推進しており、工学と生物学を結びつけて考える重要性を説く、生命科学の第一人者である。

20世紀はメンデルの法則の再発見から始まり、今世紀の中頃にワトソンとクリックが遺伝物質であるDNAを発見した。そして、今世紀はヒトゲノム配列決定の完了で終わる。このように、過ぎ去って行くこの世紀は、生物学あるいはライフサイエンスの誕生の時代であった。 21世紀初めにおけるライフサイエンスは、ゲノム配列の登場が主役を演じるであろう。それらの配列は、何百ものヒトゲノム配列だけではなく、生物の多くの主な種類である、バクテリア、カビ、昆虫、植物、げっ歯類、魚類そして鳥類の代表的なゲノム配列も含まれます。これらの配列は、生物現象を強力に、そして多くの要素を統合して全体を理解するための源泉となる。増殖や分化のような複雑な生物の過程や癌のような病気は、何百、何千の遺伝子を制御するシステムとして統合的(インテグレイティブ)に研究されなければならない。これらの生物の過程は、どのようにして遺伝子産物の回路が進化の間に生じ、特別な役割に適応してきたのか、ということを進化の前後関係においてインテグレイティブに理解される必要がある。この新しいインテグレイティブな生物学は、バイオ情報科学や情報理論、そして高感度の物理学的、化学的方法の応用のような新しい道具を必要とする。20世紀の分子生物学はそれ自身が化学と物理学から別れたが、 21世紀における新しい生物学は再びこれらの研究分野と結び付くであろう。

21世紀におけるライフサイエンスの進歩は、ヘルスケア、農業、そして材料科学を大きく変えるであろう。ヘルスケアにおいては、ゲノム配列が病気にかかるリスクを予知し、腎臓や肝臓のような器官は、患者の組織から採取した幹細胞から再生され、自己免疫疾患は制御され、心臓疾患のリスクは非常に減少し、そして、成人の癌の多くは、現在の治療よりも、概してより低い毒性の新しい治療法により、治るようになるであろう。大部分の人が80歳代後半、そして90歳代に入っても元気で生活をするようになるため、余命は増加し続けるであろう。次の世紀において、脳の科学はライフサイエンスのフロンティアになるであろう。すなわち、それらは情報の処理および蓄積において新しい概念的ブレークスルーを生み出すとともに、老化に伴う精神機能の慢性的な低下を防ぐことにより身体の状態を改善する、そしておそらくは精神的な過程をも高めることになろう。農業、材料科学、そして遺伝子工学の組み合わせは、わたしたちの食物、衣服そして次世紀の環境のほとんどを生産する。たとえば、植物は新しい食材を生み出すように種子に遺伝子工学的な処理が行われる。同様に、上述したインテグレイトした生物学は、高価値の化学的な中間生成物を高収率で生産するために、バクテリア、カビ、そして植物のような生物の代謝経路を設計することを可能にする。生物発酵とプロセッシングは、21世紀初頭には部分的に、石油炭素化学に取って代わることであろう。

20世紀は、バイオテクノロジーの創造、遺伝子工学における進歩の実際的な応用を見た。21世紀は、ほとんどすべての人の寿命を延ばすことになるであろう。しかし、その他のすべてのテクノロジーがそうであったように、このバイオテクノロジーの発展に関連するリスクもおそらく存在するであろうが、人間のための利益はこれらの潜在的な問題よりも、はるかに重要である。


老化疾患克服への挑戦

鍋島 陽一氏(京都大学大学院 医学研究科)

鍋島 陽一氏 PHOTO

老化に伴う疾患を克服することは人類の有史以来の願望であり、先人達により多くの試みが積み重ねられてきたが、その困難性により進展が阻まれてきた。しかし、最近の遺伝子研究の進展によってその突破口が開かれようとしている。細胞の分裂寿命に関連するテロメラーゼ遺伝子の同定と機能解析、ヒト早老症の原因遺伝子ヘリカーゼ・ファミリーの同定、線虫の寿命に関する分子遺伝学的解析など、ここ数年で老化に伴うさまざまな現象を解明する鍵となる研究の進展がみられる。klotho遺伝子の発見もその一つである。

われわれは挿入突然変異によって早期老化症状を呈するKlothoマウスを樹立した。Klothoマウスは動脈硬化、骨粗鬆症、精子形成阻害、卵子の変異、軟部組織の石灰化、胸腺萎縮、肺気腫、プルキンエ細胞の脱落、グルコース代謝異常などの多彩な老化症状が見られ、それは単一遺伝子の欠損に起因していた。さらに、その原因遺伝子をマウスとヒトで単離し、klothoと命名した。

klotho遺伝子は新規のI型膜タンパク質をコードしており、その発現は腎臓で高く、弱い発現が中枢神経系で観察された。骨、皮膚、胃などの強い変異症状が観察される臓器で、klotho遺伝子の発現は観察されず、Klothoタンパク質の機能を伝える液性因子の存在が示唆された。ヒト相同遺伝子は同様のI型膜タンパク質と分泌型タンパク質をコードしている。Klothoがターゲット組織、分子に結合し、機能していることが推定されるが、Klothoがβ-Glucosidaseに相同性が高いことから、酵素活性によって不活性分子の活性化に関わる可能性も残されており、その他の可能性を含めてKlothoの分子機能を検討している。現段階ではKlothoタンパク質の作用機構としては3つの可能性を考えている。ひとつは、Klothoの酵素活性により、循環している不活性な液性因子が活性化されることで、二番目の可能性は、Klotho自身が細胞外へ分泌されて、液性因子として機能することである。もうひとつの可能性は、Klothoを介してシグナルが伝えられ、新たな作用分子の合成や分泌に関与する、との考えである。いずれにせよ、Klothoタンパク質の分子機能を全身に伝える因子の存在が推定され、その解明により老化関連疾患の理解が得られるものと期待される。

現在われわれは老化の過程を理解する上で、また、身体の老化に関連する変化や疾患を調節する上で、これから進むべき極めて重要な道の門口に立っている。本シンポジウムではklotho遺伝子を中心に、昨今の老化研究の進歩について概説し、21世紀の老化研究の発展について討論したい。


細胞成長因子による表皮ケラチノサイト機能の制御

橋本 公ニ氏(愛媛大学 医学部)

橋本 公二氏 PHOTO

表皮は皮膚の最外層を形成する厚さ約1mmの組織であり、外界から生体を保護するために重要な役割を果たしている。表皮を構成する細胞は、表皮ケラチノサイトであり、分裂能力を持つ細胞は最下層の基底細胞層に存在し、有棘細胞層、顆粒層、角層へと分化していく。また、創傷治癒においては、表皮細胞の遊走がみられる。このような表皮細胞の増殖、分化、遊走といった機能の制御に表皮ケラチノサイトの産生する種々の細胞成長因子が関与することが明らかとなってきた。これらのなかでも、特に、表皮細胞成長因子(EGF)ファミリー細胞成長因子と形質転換成長因子(TGF)-βファミリー細胞成長因子はその中心的な役割を果たしている。例えば、表皮ケラチノサイトの増殖は、前者が促進的に、後者が抑制的に、協調して作用することにより巧妙に制御されている。

EGF ファミリー細胞成長因子は10数種類、その受容体は4種類(erbB1、 erbB2、 erbB3、 erbB4)が同定されているが、表皮ケラチノサイトでは、TGF-α、amphiregulin (AR)、HB-EGF、epiregulin (ER)の4種類のEGFファミリー細胞成長因子とerbB1、 erbB2、erbB4の3種類の受容体が存在する。表皮ケラチノサイトはautocrine inductionおよびcross inductionと呼ばれる二つの作用機構により極めて効率的にこれら4種類のEGFファミリー細胞成長因子の産生を制御している。autocrine inductionとは、これらの細胞成長因子を添加すると、表皮ケラチノサイトの増殖のみならず、表皮ケラチノサイトによる同一の細胞成長因子の産生を促進し、さらに放出された細胞成長因子が表皮ケラチノサイトの増殖と細胞成長因子の産生を促進するというもので、cross inductionとは、これらの4種類のEGFファミリー細胞成長因子のどれか1種類を添加すると他の3種類の細胞成長因子の産生が増加するものである。

TGF-βファミリー細胞成長因子はβ1からβ5の5種類が同定されているが、表皮ケラチノサイトは主として TGF-β1およびβ2を産生する。これらはⅠ型およびⅡ型受容体に結合し、細胞内のシグナル伝達分子Smadを介して、増殖の抑制、細胞外マトリックスの産生の促進などの作用を発現する。

このシンポジウムでは、EGFファミリー細胞成長因子とTGF-βファミリー細胞成長因子による表皮ケラチノサイトの機能の制御について解説する。


サイトカインによる細胞外マトリックス遺伝子の発現調節

Mr. Jouni Uitto(ジェファーソン医科大学)

Mr. Jouni Uitto PHOTO

皮膚の主要な二つの層である表皮と真皮は近接しているため、それぞれに存在する細胞の間では互いにクロストークする機会がある。しかし、真皮と表皮は、細胞同士の直接の接触を阻害する基底膜によって隔てられている。したがって、真皮と表皮間の情報交換は基底膜を通過できる分泌分子を介して行われる必要がある。

表皮ケラチノサイトは真皮線維芽細胞による遺伝子発現を調節するサイトカインや増殖因子を合成、分泌する。細胞外マトリックス遺伝子発現に影響するサイトカインのプロトタイプは形質転換成長因子(TGF)-βや、骨形成タンパク群(BMP)、TGF-βs、アクチビンを含む増殖因子群のスーパーファミリーである。TGF-βは転写レベルでコラーゲン遺伝子の発現を高めることができる強力なサイトカインである。我々は TGF-βが真皮線維芽細胞によるI型コラーゲンの産生、そして表皮ケラチノサイトによるVII型コラーゲンの産生をそれぞれ高めることを過去に報告している。最近、ケラチノサイトによるVII型コラーゲン遺伝子(COL7A1)発現において、Smadタンパク質ファミリーに分類される数多くのタンパク質がTGF-βシグナル伝達において重要であることが明らかとなった。特に、我々は、68塩基のTGF-β応答エレメントをVIIコラーゲン遺伝子(COL7A1)の5'側に見出した。この部位の5'側にはCAGA繰返し配列が存在し、3'側にはGCCGGCGストレッチが存在していた。この TGF-β応答エレメントを用いた電気泳動移動度シフト試験ではTGF-β刺激後11分ぐらいから TGF-β特異的DNAタンパク複合体の形成が観察され始め、約1時間持続した。Smad抗体を用いたスーパーシフト試験によって、Smadファミリーのタンパク質が上記複合体中に含まれることを明らかにした。したがって、VIIコラーゲン遺伝子(COL7A1)は、TGF-β/ Smadシグナル経路を介して早期に反応する遺伝子であることが明らかとなった。Smadタンパク質(Smad1-5)をコードする遺伝子を強制発現させた系を用いて、DNAタンパク複合体にSmad3単独あるいはSmad3と4の両方が存在することを明らかにした。これらの研究はサイトカイン制御のもとでの細胞外マトリックス遺伝子の発現に必要な細胞応答過程に関する新たな知見をもたらすにとどまらず、強皮症などの細胞外マトリックスタンパク質の異常沈着に関与する病的状態に至る原因を理解するための知見をももたらすものと考える。


皮膚線維芽細胞の増殖制御

竹原 和彦氏(金沢大学 医学部)

竹原 和彦氏 PHOTO

スキンケアや皮膚の老化を考える上で、皮膚線維芽細胞の増殖制御は重要である。皮膚線維芽細胞の増殖や機能の異常により、強皮症やケロイドなどの疾患が生じるが、皮膚線維芽細胞の増殖や機能を制御することにより、皮膚の老化を防ぎ、いつまでも若々しい皮膚を維持することが可能となるかもしれない。

皮膚線維芽細胞の増殖は種々の細胞成長因子によって複雑に制御されている。その主要なものは、血小板由来成長因子(PDGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(b-FGF)、形質転換成長因子-β(TGF-β)、結合組織成長因子(CTGF)などである。これらの成長因子は、皮膚線維芽細胞の増殖制御以外にも多様な生理活性を有しており、創傷治癒や疾患の発生に関与している。例えば、PDGFやCTGFは皮膚線維芽細胞の走化性を、b-FGFは血管新生を、TGF-βはマトリックスタンパクの合成を促進する。

次に、我々の確立した新生マウスにおける皮膚線維化モデルについて紹介する。1986年Robertsらにより、 TGF-βを新生マウスの皮下に注射すると、肉芽組織の形成に引き続いて線維化が起こることが報告された。我々は同様の実験を試みたところ、TGF- β1、β2、β3のいずれを用いた場合でも、3日間連続皮下注入により線維化がみられたものの、この変化は一過性であり、7日間連続注入によっても消失した。これに対して、TGF-βと b-FGF又はCTGFを同時に投与、あるいは最初の3日間TGF-β投与し、次の4日間にTGF-βないしb-FGF又はCTGFを投与することによって不可逆的な線維化が観察された。以上のことより、種々の皮膚線維化疾患において、TGF-βが線維化を誘導しb-FGFないしCTGFがその線維化を維持していることが示唆された。

21世紀においては、種々の細胞成長因子カクテルによって皮膚線維芽細胞の増殖を微妙に制御する高度のスキンケア技術が確立することが期待される。


VEGFとトロンボスポンジンの役割

Mr. Michael Detmer(MGH/ハーバード医科大学 CBRC)

Mr. Michael Detmer PHOTO

皮膚の血管系は、正常皮膚の構造と機能を維持するために必須である。それ以上に、皮膚の血管系は毛髪の成長の制御、紫外線による皮膚損傷の鎮静、加齢による皮膚老化、刺激と炎症に対する皮膚反応ならびに組織の修復のそれぞれにおいて主要な役割を演じている。血管は正常な成人皮膚では定常的に働いているが、異なる刺激に対しては迅速に活性化し、そして血管拡張と既存の血管から新しい毛細血管を形成する血管新生を伴って反応する。これらの変化は、前血管新生分子(血管新生促進因子)と抗血管新生分子(血管新生抑制因子)の両方の間におけるバランスに依存している。そして、正常皮膚は、血管新生促進因子よりも内在性の血管新生抑制因子が優位に働いている。

血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管透過性因子としても知られているが、最近の研究によりヒト皮膚における主要な血管新生因子であることが示唆されている。正常な皮膚において、VEGFはケラチノサイトにより少量分泌され、真皮の微小血管内皮細胞上の特異的なレセプターに結合し、それによって内皮細胞の生存能力を確保することにより、上部の網状構造の血管を維持している。炎症あるいは創傷治癒時の肥厚した表皮におけるVEGFは、非常に高く発現していて、それゆえ、血管が無い表皮のために真皮での血管の増加と栄養供給を導いている。毛髪の成長期では、毛包周囲の血管が劇的に拡張していて、毛包の細胞でVEGFが発現している。また毛髪の退行期と休止期では、血管の退縮に伴いVEGFの発現が抑制されている。 VEGFが血管上で選択的に活動している一方で、VEGFファミリーの新しいメンバーであるVEGF-Cが、強力なリンパ管新生因子として皮膚におけるリンパ管の成長を仲介していることが最近同定された。

対照的に、細胞外マトリックスタンパク質のトロンボスポンジン(TSP)ファミリーの2種は、正常皮膚における血管新生の阻害因子としての主要な役割を演じている。TSP-1とTSP-2は、基底層のケラチノサイトを含む数種の皮膚の細胞により発現していて、真皮- 表皮間の基底膜領域に堆積し、表皮の血管新生を防ぐ自然の抗血管新生バリアーとして働いている。重要な事は、血管新生と血管の退行の間にTSPの発現が調節されていることである。TSP-1とTSP-2のノックアウトモデルと同様に、皮膚においてVEGF,TSP-1あるいはTSP-2の過剰発現のトランスジェニックモデルを用いたわたしたちの in vivo の研究は、これらの血管新生促進因子と阻害因子のレベルの調節が、毛髪の成長、紫外線による損傷と皮膚のシワの程度、刺激性の皮膚反応、そして皮膚損傷の修復に著しく影響を及ぼしていることを示唆している。


皮膚基底膜におけるラミニン5の重要性

西山 敏夫(資生堂リサーチセンター)

西山 敏夫 PHOTO

皮膚は大きく分けて、表皮と真皮の二つの層から構成されている。表皮と真皮の間には基底膜と呼ばれる、薄くて繊細な膜が存在する。表皮の代謝は、この基底膜を通して真皮の細胞が産生する因子や血液供給に依存している。皮膚における表皮の増殖と分化は、基底膜と真皮によって調節されている。従って、基底膜を介しての表皮ー真皮間のコミュニケーションは、皮膚表皮の機能調節にとって重要な役割を担っている。

皮膚基底膜にはアンカリング複合体と呼ばれる特殊な構造があり、表皮と真皮という2つの組織の接着やコミュニケーションを安定させる役割を果たしている。アンカリング複合体のタンパク質は、ケラチノサイトの細胞骨格であるケラチンと真皮乳頭層の結合組織タンパク質の双方にリンクしている。アンカリング複合体の重要な構成要素の一つがラミニン5である。これまでの研究から、ラミニン5の3本鎖をコードする遺伝子の遺伝学的変異は、Herlitz接合部型表皮水疱症という重度の水疱を形成する先天性の遺伝疾患の原因であることが解明された。このことは、ラミニン5は表皮の接着に不可欠な物質であることを示している。また、ラミニン5はアンカリング・フィラメントを形成し、さらに、ラミニン5の受容体として知られているインテグリン α6β4(ヘミデスモソームに存在する細胞膜貫通型のインテグリン)と結合することが解明されている。現在、我々はラミニン5が基底膜成分や真皮の成分とどのように結合するのかを解明しつつある。その一つは、ラミニン5が、真皮乳頭層に接続しているアンカリング線維を形成するVII型コラーゲンと直接結合しているという結果である。もう一つは、ラミニン5が他のラミニン6や7と複合体を形成し、この複合体がナイドジェンを介して基底膜の骨格であるIV型コラーゲンと結合しているという結果である。これらの成果から、ラミニン5は表皮ー真皮間の安定性に寄与する重要な物質であるとの仮説を立てた。この仮説から導き出される推論として、ラミニン5は種々の創傷治癒過程や表皮ー真皮結合や基底膜形成が障害されていると思われる疾患において、表皮の接着を改善する可能性があることが考えられる。このため、我々は、培養三次元皮膚モデル系や、創傷治癒過程ならびに表皮シート移植術におけるラミニン5の効果を検討している。今まで得られた結果から、ラミニン5は基底膜の形成速度を増大させることにより、表皮の接着を促進することが強く示唆された。

in vitro および in vivo の所見から、ラミニン5は皮膚の健康においていくつかの重要な機能を果たしていることがわかった。表皮基底細胞と真皮乳頭層の間の重要な結合機構のなかで、ラミニン5は表皮と真皮の安定した結合を提供している。また、ラミニン5は基底膜の構築を促進し、皮膚のダメージからの回復力を増進する。表皮ー真皮接合部の基底膜が正常であることは、皮膚の安定性にとって極めて重要である。基底膜は構造的役割のほか、表皮ー真皮間のコミュニケーションの選択的な受け渡しにも関与しており、皮膚の恒常性維持にとって極めて重要である。


閉会挨拶 新世紀におけるスキンケア

熊野 可丸(資生堂 取締役/研究開発本部長)

熊野 可丸 PHOTO

皮膚はからだの外界と直接触れる臓器で、紫外線や乾燥、酸化物、病原微生物などのストレッサーにさらされています。また、からだの内部から不規則な生活や不摂生、精神の不安定などによるストレス関連のホルモンや因子の影響を受けています。また、皮膚は負のストレスに対応するばかりではなく、こころの歓びや美しさを反映する役割をも果たしています。皮膚はいわばからだの外と内をつなぐインターフェイスとして重要な働きをしています。そのために皮膚の細胞は相互に会話し、免疫・神経・内分泌系ともコミュニケーションをとり、常に安定した状態を維持(ホメオスタシス)しています。このホメオスタシスを積極的に働かせて肌を良い状態にするのがスキンケアといえます。

皮膚の最外層の角層は、老廃物として捨てられるだけではなくてバリアー機能を発揮する「生きた」器官として重要な働きをしていることがわかってきました。また、多くの異物にさらされる表皮は精巧な免疫監視機構を働かせて、からだの内部とコミュニケートしながらスキンケアに寄与していることも理解されるようになりました。

さらに、表皮の細胞から発信される情報は真皮で受け取られ、またその逆もあり、皮膚全体のホメオスタシスが成り立っています。これらは必要に応じて発現する遺伝子の産物が主役となり、あるいはメッセンジャーとなって、スキンケアに貢献しているものと考えられます。とくに、表皮と真皮の境をなす基底膜ではこれらの情報交換がダイナミックに行われ、さらには真皮の構成成分や血管系のはたらきも複雑な情報ネットワークに基づいていることが理解されるようになりました。

21世紀におけるスキンケアは、これらの複雑な系をひも解きつつ、全体を捉える生命科学の進化によりなされるものと確信いたします。

  • Google+
  • Facebook
  • Twitter
一般のみなさまへ
専門家のみなさまへ
スペシャルコンテンツ
おすすめコンテンツ
資生堂グループのブランド一覧へ

新着情報