1. Home
  2. 研究開発
  3. 医師・研究者向け情報
  4. シンポジウム・セミナー
  5. 2003年度

研究開発
Innovation

2003年度

第102回日本皮膚科学会総会 イブニングセミナー

「Quality of Life(QOL)と化粧」

開催年月 :
2003年5月
共催 :
第102回日本皮膚科学会総会・資生堂

概要

1)座長から
「はじめに」

川島 眞氏(東京女子医科大学皮膚科 教授)

2)講演I
「QOLの正しい理解のために」

田崎 美弥子氏(東京理科大学理学部 助教授)

3)講演II
「アトピー性皮膚炎女性患者のQOLは化粧によって向上する」

有川 順子氏(東京女子医科大学皮膚科 助手)

4)講演III
「膠原病患者のQOLは化粧によって向上する」

田辺 恵美子氏(東邦大学医学部付属佐倉病院皮膚科 講師)


座長から
「はじめに」

川島 眞氏(東京女子医科大学皮膚科 教授)

川島 眞氏 PHOTO

QOLという言葉を知らない医師はいないし、自分なりにある程度理解して、診療の場においても患者さんのQOLを考えた治療を施していると皆思っている。しかし、QOLの真の意味はとあらためて問われるとやや自信がないというのが本音ではなかろうか。われわれは、QOLの意味するところを真に理解することなく、その言葉の響きの良さに魅かれて使用しているのではなかろうか。このセミナーでぜひQOLに対する正しい理解を深めたい。

ところで、医師の考えるQOLの向上とは、治療効果がもたらす患者さんの不具合からの脱却であり、例えば疼痛や痒みの軽減であり、運動機能の回復などが主である。一方、顔面の紅斑が軽減することは、治療目標である炎症の軽減がもたらした二次的な結果であり、それで患者さんのQOLが改善することを主たる目的と考えていたわけではない。逆に言えば、炎症性皮疹の存在そのものがQOLをどれだけ阻害しているかについては、あざやしみほどには考えていないのではなかろうか。

一方、顔面に炎症性皮疹をかかえる患者さんの考えるQOLの向上とは、自覚症状の改善とともに、見た目の改善が医師の考えるところ以上に大きいと思われる。その証拠がこのセミナーにおいて、アトピー性皮膚炎と膠原病の患者さんでの顔面の紅斑を化粧にて目立たなくすることによりQOLが改善するという事実により明らかにされる。

皮膚科の男性医師にとって、アトピー性皮膚炎の患者さんで顔面の皮疹がある人には「化粧はひかえなさい」と言うのが常識であり、膠原病の患者さんは全身的な管理が主であり、顔面の皮疹は「しょうがない」と諦観すべきものではなかったか。

このセミナーは、前半はすべての皮膚科医に、そして後半は、男性皮膚科医にぜひ聞いていただきたいと考えている。


講演I
「QOLの正しい理解のために」

田崎 美弥子氏(東京理科大学理学部 助教授)

田崎 美弥子氏 PHOTO

「人を外見で判断してはいけない。」とは良く言われることですが、それは、むしろ人が外見で判断するからこそ、そのいましめとして、子供に教える必要があるということでしょう。残念ながら、美人は得です。光背効果といわれ、身体的魅力度の高い人は、性格も能力も高いと思われますし、また、人がどのように自分の外見を判断しているかは、人のQuality of Life(QOL)に大きく作用します。女性がなぜ化粧をするのかについては議論の余地があるとは思いますが、社会的動物として人から美しい人と判断されることが有利であり、それが他者評価による自尊感情を高め、結局、自分自身のQOLを高めるから、と言っても過言ではないと思います。

QOLの概念は、30年ほど前に、癌患者の疼痛ケアから始まったもので、それが現在医療社会福祉分野において広く使われるに至りました。特にWHOが考えるQOLは、WHOの健康の概念である、「心理、身体、社会的良好状態を満たしていること」を反映し、人の価値観や期待や文化的な枠組みによって人が自分自身をどう評価しているかという主観的満足感に焦点が当てられています。WHOQOL調査票は、1992年から世界15カ国で同時期に開発が始まり、質的調査や予備調査、幾多のフィールド調査を経て、現在25カ国以上の言語版が存在します。調査票の特徴として、異なる文化にわたる国際比較が可能であるということと、癌患者から健常者まであらゆる対象者に対して適用ができ、調査票の信頼性・妥当性が高いことが実証されていることが挙げられます。今までに、研究用の100項目の基本調査票、26項目の臨床用の短縮版、HIV/AIDS版、スピリチュアリテイ版が発表され、現在WHOとEUの国際共同研究として高齢者版開発が進んでいますが、それらの、どの調査票にも人が「自分の外見にどの程度満足しているか?」という質問項目が入っています。顔面や身体表面に疾患・障害のある人たちは、その症状ゆえに社会から受ける差別や偏見からトラウマを抱えていると伺いました。今日の主題である化粧によって、そういった方達のQOLが少しでも向上されるものと確信しております。今日は基本的なQOLの考え方や歴史、臨床における適用についてご理解いただけるようお話させていただきたいと存じます。


講演II
「アトピー性皮膚炎女性患者のQOLは化粧によって向上する」

有川 順子氏(東京女子医科大学皮膚科 助手)

有川 順子氏 PHOTO

アトピー性皮膚炎(AD)の治療目標は完治ではなく、QOLが維持された状態にある。QOLが維持された状態とは、患者の環境や、年齢に応じた社会生活、特に女性は美容上の問題も含めて支障なく過ごせることを意味する。よって標準的な治療に加え、化粧指導を含めた多面的なケアを行うことも治療目標へ近づくことに役立つと思われる。女性は社会生活を送る上で、多少の症状を伴っていても化粧をせざるを得ない状況が多く、AD患者も例外ではない。化粧は特別なものではなく、みだしなみ、あるいは自分をより良く表現する一手段であって、化粧を制限されることは精神的にも苦痛となる。メイクアップの心理的、社会的意義についての研究は心理学的分野で行われ、痴呆や高齢者を対象とした化粧の生活への活力に対する意義の高さについては多くの報告がある(1)。また、近年では顔面神経麻痺、口唇口蓋裂などの医療分野での化粧の心理的効果に対する貢献度も注目されている(2)(3)。しかしAD患者を対象とした化粧の心理的効果についての検討はなされていなかった。我々が行ったAD女性患者での化粧に関するアンケートやメイクアップ指導から、メイクアップは社会生活に自信を与えるのみならず、不安や緊張の緩和に有用である可能性が示唆された(4)。今回は、21人のAD女性患者にメイクアップ指導を行い、心理テスト(QOL26、GHQ30、STAI)とVASを用いて前後での変化を調査した。医療の目的は疾病を治すためだけではなく、患者の健康に伴う幸福度、物質的な幸福度、社会人間関係における幸福度などを向上させることも含まれる(5)。またQOL評価を行うことの意義は、患者が感じる疾病による影響とともに医療サービスの質を医療提供者が把握し、支援するためのものである。皮膚科医が、皮膚症状をコントロールすることは当然であるが、化粧がもたらす心理的効果を知り、安全性の高い化粧品の知識を持ち、その情報を患者へ提供する必要もあると考える。本講演では、今回のQOL評価を通じて、慢性疾患であるADをコントロールする際に、我々医療側が化粧を皮疹の悪化要因の1つとして否定的にとらえるだけではいけないこと、方法次第では患者の幸福度の向上、サポートに有用であることなどについて述べたい。

参考文献
(1) 大坊 郁夫:ストレス科学15、124,2000
(2) Kanzaki J,et al:Ear Nose Throat J,77: 270,1998
(3) 北川 太二、他:日口蓋誌26,204,2001
(4) 有川 順子:香粧会誌25、272,2001
(5) 田崎 美弥子、中根 允文:WHOQOL26手引き、世界保健機構・精神保健と乱用予防部編、金子書房、東京、1997


講演III
「膠原病患者のQOLは化粧によって向上する」

田辺 恵美子氏(東邦大学医学部付属佐倉病院皮膚科 講師)

田辺 恵美子氏 PHOTO

膠原病の皮膚病変はしばしば慢性・難治性であり、しかも顔を中心に露出部に形成されやすいため、女性患者の多い膠原病患者において、そのQOLを著しく障害している。難病であるため、患者の側にはあきらめの感情があり、医師に対し生活の現状を訴えることは少ない。医師の注意は臓器障害、全身的治療に偏りがちで、生命予後に関わらない部分への対応はとかく遅れてしまいがちである。皮疹の治療にあたり、局所療法のみでは対応しきれないことが多いが、全身症状が安定している患者に対し副作用を考慮に入れると強力な全身療法に踏み切れないことがしばしばある。また、膠原病患者の診療にあたり、私たち医師は当然ながらその疾患を「治す」ことを目標にするため、表面的に「隠す」ことにはある種の抵抗がある。

皮疹を有する膠原病患者に対し、WHO-QOL26とSkindex 16(1)を用いてQOL評価を行った結果、特に顔面に紅斑のある患者ではQOLが低下していることが分かった。

エリテマトーデスを中心とする膠原病患者の主に顔面の難治性紅斑のカバーを目的に、光混色理論に基づき開発された光フィルターパウダーを含有する部分用ファンデーション(パーフェクトカバー(R))を用いた化粧を指導した。着色剤の隠蔽効果による従来型カバーファンデーションに比べ、薄づきでありながら簡便に色調の補正がなされ、予想以上の患者の満足が得られた。患者の多くは常に周囲の視線を気にしており、中には病院の往復以外ほとんど外出していなかった例もあったが、この化粧により日常生活の中で皮膚のことを全く意識しなくなったと述べるようになった。男性患者にもおいても使用可能であり、遮光料の場合よりコンプライアンスが良く、遮光効果によると思われる皮疹の改善が見られた例もあった。

皮膚科領域における膠原病患者の診療において、cureからcareへの転換、すなわち患者のQOL向上という観点から、化粧も重要な手段となり得る。

参考文献

  1. (1)Higaki Y,Kawamoto K,Kamo T,Horikawa N,Kawashima M,Chren MM.:The Japanese version of Skindex-16: a brief quality-of-life measure for patients with skin diseases. J Dermatol 29:693-8,2002
  • Google+
  • Facebook
  • Twitter
一般のみなさまへ
専門家のみなさまへ
スペシャルコンテンツ
おすすめコンテンツ
資生堂グループのブランド一覧へ

新着情報