第12回 shiseido art egg賞

shiseido art egg賞―クリエーションに関わる様々な分野で活躍する3人が審査し、3つの個展の中で、資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造を最も感じさせた展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。

第12回 shiseido art egg賞は、宇多村英恵さんに決定いたしました。

宇多村英恵展
宇多村英恵展

宇多村英恵展
撮影:加藤健

9月21に行われた授賞式において、当社役員の青木より宇多村さんにトロフィー並びに賞金20万円を贈りました。

受賞式
展
宇多村英恵さん

撮影:加藤健

受賞の言葉

このたびは、shiseido art egg賞という大変大きな賞をいただきまして、光栄です。誠にありがとうございます。
これまで海外での発表の場が多く、まだ日本での発表が少なかった私の展覧会のプランを信じて実現の扉を開いてくださった審査員の皆様、また展覧会をとても丁寧にご覧いただき、これからさらなる飛躍のための思考の種を植えてくださったshiseido art egg賞の審査員の皆々様に御礼申し上げます。
このたびのアートエッグでの経験は、作品制作の後に存在する、展覧会という空間を作っていくという仕事に集中する過程で、非常に多くの学びがありました。素晴らしいスタッフの皆様、また経験豊富な施工の方や照明の方に支えられながらお仕事ができ、改めて、質の高い展覧会を実現するということは、多くの方々に支えられての共同作業によるものだということを実感しました。また、9年前に日本を出てからのこれまでの道のりを振り返る機会をいただけたことも含め、今回の経験は、これから作品を制作していく上で、大きな影響を及ぼしていくと思います。
今後は日本の土壌にも自分の根をはり、作品制作に精進しながら、いただいた卵を大切にあたためていければと思います。これからも、多くのアーティストにとって、shiseido art eggが、成長を育む希望の光であり続けますように。
このたびは本当にありがとうございました。

審査実施報告

【総評】
本年の審査員は流麻二果、畠山直哉、森岡督行の3氏が務めました。審査員はshiseido art egg展の開催期間中に3つの展示を鑑賞し、各作家との対話およびポートフォリオの精査も経て審査にのぞみました。
心霊現象や神秘体験などの「現実と非現実の狭間」をテーマに、不可思議な現象に出会う部屋をギャラリー全体にしつらえた冨安由真、さまざまな境界線を横断する多様な生の可能性を考察する空間を映像や音、香りも用いて構成した佐藤浩一、近現代の社会のあり方に焦点を当て、身体性に重きを置くインスタレーションと世界各地で行ったパフォーマンスの映像を展示した宇多村英恵。それぞれのテーマや世界観は異なりますが、大きく変動する時代状況の中で各作家が切実な実感を伴って捉えたテーマを構成していた点は共通しています。審査にあたっては、展示の完成度の高さを基準とするという原則に基づき、作品や展示の魅力も加味しながら議論が進められました。
最終的には作品世界に通じる入口の多さやコンセプトの明快さ、鑑賞者のイメージや思考を喚起する力が評価され、第12回 shiseido art egg賞大賞は宇多村英恵に決定しました。
貴重なお時間をshiseido art egg賞審査に費やし、真摯な議論を重ねてくださった流麻二果氏、畠山直哉氏、森岡督行氏に心から御礼申し上げます。

審査員
撮影:加藤健
審査員

審査員所感

冨安由真展 くりかえしみるゆめ Obsessed With Dreams
2018年6月8日(金)~7月1日(日)

冨安由真展
撮影:加藤健
冨安由真展

ギャラリー全体を複数の部屋に区切った大規模なインスタレーションで、鑑賞者は自らドアを開けて次の部屋に足を踏み入れ、室内を歩き回りながら鑑賞する。薄暗い室内には様々な家具や日用品、窓や鏡などが配置され、夢や無意識の世界などをモチーフにした絵画や映像作品が飾られている。室内では急にテレビがついたり、照明が点滅したりなどの仕掛けが施され、現実と非現実の間のような空間を体感させた。幼少時より不可思議な経験をしてきたという作家の心霊体験をアートに組み入れてアートの領域を広げていきたいという挑戦的な意思も感じられた。
室内には様々な仕掛けがあったが、室内にかけられた絵画が印象的だった。作家が表現したいことは、それらの絵画の中で実現できているように思われる。
空間の使い方としては、ギャラリーの天井高や吹き抜けを非常にうまく活かしていたが、ベニヤの材質感が強かったため、非現実の世界に没入しにくくなるところがあった。
会期後半にはSNSをきっかけに話題になり、連日、大盛況だったという。作品が大きな話題となった経験は、作家の将来につながる大きな財産となるだろう。

佐藤浩一展 Crepuscular Gardens 半開花の庭
2018年7月6日(金)~7月29日(日)

佐藤浩一展
撮影:加藤健
佐藤浩一展

生と生殖を象徴するイチジクをモチーフに、人間と自然(植物)の境界を探る試みを行い、大展示室にはバイオテクノロジーの実験場のような怪しげな空間のインスタレーションを、小展示室にはイチジクの人工授粉の映像を、受粉による電位変動を可聴化させた音響とともに展示した。
生と生殖という重いテーマの中に遺伝子組み換え技術という社会的な話題も組み入れながら、その表現の中に自身の存在を軽やかに落とし込んでいく手つきは鮮やかであるし、要素を絞り、作品点数も抑えてすっきりとまとめた構成、嗅覚・聴覚の要素のバランスも見事である。自分自身が見つけた大切な“物語”を、文字のかわりに音や光、造形物を用いて描いたような趣も感じられた。
小展示室の音響は、イチジクの人工授粉の瞬間の電位データをベースに、作家本人が変換してつくったものだという。この点に佐藤の独自性が表れているが、解説を読まなければ意図が鑑賞者に伝わらない点は惜しまれる。
また、インスタレーション内部の光源をもう少し明るくして、植物の影のコントラストを強く映し出すと、展示としても強い印象になったのではないだろうか。しかし、それらの課題を考慮に入れても、完成度の高い、美しさの感じられる展示であった。

宇多村英恵展 Holiday at War 戦争と休日
2018年8月3日(金)~8月26日(日)

宇多村英恵展
撮影:加藤健
宇多村英恵展

海外を中心に制作を続けている宇多村は、今回、大展示室には音、テキスト、イメージ等で構成した、空間の中を歩きながら鑑賞するインスタレーションを、小展示室には世界中の様々な場所で行ったパフォーマンスの写真や映像を十数点展示した。
大展示室の作品は、作者の視点をどう鑑賞者に伝えるかを含めてよく練られており、政治的なテーマを扱いながらも鑑賞者の共感を無理なく促すものになっていた。テキストと立体作品のスケール感を対応させる手法が、インスタレーションとして会場の可能性を引き出し、「戦争と休日」というタイトルに素直に頷くことができた。一方で、小展示室と合わせると、作家の考えが盛り込まれすぎ、伝えたいことが伝えきれていなかったところがあったかもしれない。
パフォーマンス映像については、自然に対する素直で聡明な姿勢に感心した。そもそも世界中の様々な土地に出かけて制作をするというパワーは素晴らしい。また、一度きりの行為が、結果として充実した表現につながっているのも、表現に対する作家の熱量のたまものといえるだろう。

作品世界への入口の多さ、パワフルさ、平面作品の質の高さ、そして展覧会としての楽しさがあったことを評価し、今回、宇多村をshiseido art egg賞に決定した。

審査員

森岡 督行(森岡書店代表)

森岡 督行(森岡書店代表)

1974年山形県生まれ。1998年に神田神保町の一誠堂書店に入社。2006年「森岡書店」として独立。2015年銀座に一冊の本を売る書店「森岡書店 銀座店」をオープン。著書に『写真集 誰かに贈りたくなる108冊』(平凡社)、『BOOKS ON JAPAN 1931-1972 日本の対外宣伝グラフ誌』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『荒野の古本屋』(晶文社))、『東京旧市街地を歩く』(エクスナレッジ)などがある。2016年の「雑貨店」に出展(21_21DESIGN SIGHT)。2017年「手の国の職人たち」(日本橋三越)でウインドウを担当する等、幅広く日本のカルチャーシーンで活躍。

流 麻二果(美術家)

流 麻二果(美術家)

1975年香川県出身。女子美術大学芸術学部絵画科洋画専攻卒。絵画を軸としながら、パフォーマンスやパブリックアートを通して絵画の可能性の拡張に挑んでいる。2002年文化庁新進芸術家在外研修員。主な展覧会に、2000・2006年「VOCA展」(上野の森美術館)、2010年「DOMANI・明日」(国立新美術館)、2015年「絵画を抱きしめて」(資生堂ギャラリー)、2015年「一葉/Rivers need Springs」(ユカツルノギャラリー)、2016年「高松コンテンポラリーアート・アニュアル vol.05」(高松市美術館)、2018年「色を追う」(ポーラ美術館アトリウムギャラリー)。子どもたちにアートを届けるNPO「一時画伯」発起人。

畠山 直哉(写真家)

畠山 直哉(写真家)

1958年岩手県陸前高田市生まれ。東京在住。筑波大学芸術専門学群にて大辻清司に師事。1984年に同大学大学院芸術研究科修士課程修了。以降東京を拠点に活動を行い、自然・都市と写真のかかわり合いに主眼をおいた、一連の作品を制作。2011年に東京都写真美術館で個展「畠山直哉 ナチュラル・ストーリーズ」(平成23年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞)を開催。2012年、べネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館に参加(国別参加部門金獅子賞受賞)。2016‐2017年、せんだいメディアテークで個展「畠山直哉写真展 まっぷたつの風景」を開催するなど、国内外の数々の個展・グループ展に参加。