第13回 shiseido art egg賞

異なるジャンルのクリエーションに関わる3人が審査し、3つの個展の中で、資生堂ギャラリーの空間に果敢に挑み、新しい価値の創造を最も感じさせた展覧会にshiseido art egg賞を贈ります。

第13回 shiseido art egg賞は、遠藤 薫さんに決定いたしました。

遠藤 薫展
遠藤 薫展

遠藤 薫展

11月11日には授賞式を行い、当社取締役常務の青木より遠藤氏にトロフィー並びに賞金20万円を贈りました。

左:遠藤氏 右:当社役員・青木
左:遠藤氏 右:当社役員・青木
左から、小野耕石氏、小林清乃氏、遠藤薫氏、今村文氏、住吉智恵氏、有山達也氏
左から、小野耕石氏、小林清乃氏、遠藤薫氏、
今村文氏、住吉智恵氏、有山達也氏
遠藤 薫氏

受賞の言葉

どのようにすれば、私が大事だと思っているものを人に伝えることが出来るだろうか、井戸を掘る様な旅と模索の半年でした。
御来場頂いた皆さま、資生堂ギャラリー学芸員、展覧会スタッフの皆さんに、改めて感謝申し上げます。
真っ白な場所に自分の作品を配置することは初めての試みで、しかし、物そのものの持つ熱、質量、輪郭、布の向こうにある背景が高い純度で浮かび上がったその時、ホワイトキューブの意味を必然性を再認識し、感動した事をよく覚えています。
この半年、本当に沢山のことを、大勢の方々からお教え頂きました。一生忘れません。今後とも活動を見守って頂けると幸いです。

審査総評

本年の審査員は、 有山 達也氏、住吉 智恵氏、小野 耕石氏の3氏が務めた。

3人の作家の展覧会に共通していたものは、それぞれの作品が大小2つの展示空間の構成、高い天井高のある空間への取り組み、地下の展示室へと降りていく途中の踊り場の用い方など、資生堂ギャラリーの空間にそれぞれ挑戦し、その特徴を生かした質の高い展示となっていたことである。
広大な空間と向き合いながらインスタレーション作品に取り組んだ今村の作品は、来場者に強い没入感をもたらすものだった。この今村作品のもつ強度は、今後の作家にとって突破口となるだろう。
小林の作品もこうした空間の中で過去の集合的な記憶を音で表現することに取り組んだものだった。音響の完成度が非常に高く、来場者を惹きつける作品だった。
遠藤の展覧会は、展示物自体を作者が自らつくり上げたものではないが、作者の制作態度のアクティブさとエネルギーを強く感じさせるものだった。また、作者のそうした制作態度が展覧会の軸に据えられており、作品の背後に様々なレイヤーで豊かな意味合いを含んでいた。今回の審査では、遠藤の作品がもつ熱量の強さ、作品の背後に読み取れる歴史性や社会性が評価され、shiseido art egg賞に選ばれた。
3人の審査員からは、作品を発表することに純粋に集中できるshiseido art eggから自身の作品を堂々と発表できる作家が現れて、今日のアートシーンに影響を与えられる作家が育っていくことを期待するという意見をいただいた。
貴重な時間をshiseido art egg賞審査に費やし、真摯な議論を重ねてくださった有山 達也氏、住吉 智恵氏、
小野 耕石氏に心から御礼申し上げます。

審査員

審査員所感

今村 文展 見えない庭 Invisible Garden
2019年7月5日–7月28日

今村 文展
今村 文展

手を動かしてゼロベースから何かをつくることに没頭していることが明確に伝わってくる作品だった。そのことが雑念をもたずに見る側も没入できる強さがあった。審査員の小野氏は「その作品に対する没入感はいろんなところを突破できる可能性があるのではないか」とコメントした。紙に彩色した表現も非常に繊細で、紙の重なり具合に美しい透明感があった。一方で、ギャラリーの広い空間を物理的に(オブジェクトを)ぶら下げて埋めることに悩み、工夫を考えたうえ、部屋やキャビネットを用いたのは、何となく植物自体の表現との違和感もあった。
モチーフの中心となる植物のほかに、昆虫の存在があり、毒を思わせる要素があったことは、美しいものだけで世界をつくろうとしていないということが伝わって、より作品の世界を広げられる可能性がある。
作品制作においてかたちをつくるということに集中することは、何を人に伝えようとするのかという作業から距離を置くことにもなる。作家の外部に作品を開いていくことの意味や、インスタレーション的にするのか、平面で見せるのか、あるいは他の素材による作品の展開など、作品を発表するということを意識した作品との対話がもっと明確になってくると、作品はどう変わるのか?その期待値が大きな作家である。

小林 清乃展 Polyphony1945
2019年8月2日–8月25日

小林 清乃展
小林 清乃展

手紙をもとにした当時の人々の対話がその年頃の女性らしく、聞く人を温かい気持ちにさせる作品だった。戦時中の悲劇を伝える媒体として、サウンド・インスタレーションの質の高さや深度、集中の具合のアレンジメント、声のコントロールなどが緻密に調整されていた。作品制作の手法自体は目新しいものではないが、ドキュメンタリーの性格をもったものにもかかわらず、俳優に朗読させることで作者のコントロール外のところにもっていこうとするような意図が感じられ、面白さを感じた。審査員の住吉氏からは「作為的な演出を極力避け、鑑賞者の感情を安易に操作しない手法を選んでいることに誠実さを感じた」というコメントがあった。
その一方で、偶然に見つけた手紙がテーマだが、先に表現スタイルがあって、そこに手紙という素材をはめこんだような印象も感じられた。例えば、なぜ舞台をつくらないといけないのか? 舞台では見えないこと、言葉だけでは感じられない何かが欲しかった。いろいろな要素が混ざり合って作品になったとき、最初にある素材を超えて、テーマ以上のものが見えてきてほしい、と感じられる部分があると良かったという意見もあった。今回は、手紙が見つかったことから始まったが、今後、どういう素材やテーマから発展させていくのか、新たな展開が期待される作家である。

遠藤 薫展 重力と虹霓 Gravity and Rainbow
2019年8月30日–9月22日

遠藤 薫展
遠藤 薫展

作家の活動のアクティブさ、その行動自体が展覧会の軸になっていた。ヴィデオの中で動き回っている作家自体が面白く、展示された古布も物々交換によるもので作家の行動・取材の結果でもある。また、それらの布は、作家のこれからの行動によって再び変化していく途中段階のものである。審査員の有山氏からは「じっとしてないで動き回っているところが自分の仕事にちょっと近いところも感じている。そのアクティブなところが遠藤さんの面白さである」という意見があった。
一見、「工芸」の展示だが、工芸の歴史や民藝運動、岡本太郎といった文脈にもつながっており、工芸史のなかに、社会性や政治性を織り込んでいて作品の背後のある文脈の豊かさが感じられた。
作者が作品をゼロからつくろうとしていないところ、工芸の無名性ということに共感を覚える審査員もいた。ほころびた布を縫う行為も絵画制作に近いと考えることができ、作品をどこかで美しくしたいという意識が強く感じられた。一方、蚕など自然物を取り入れて作品にするのは難しい。作者自身がつくっていないものを押し出していくところがいい意味で武器になっている。
作家が工芸史の政治性に興味があることは理解できる。自分というよりも工芸の職人に対しての思いが強く、それを新しい何かに発展させたいというエネルギーにあふれた作家である。社会に開いた現代的な態度、アクティブさと熱量は、この先も何かがあるのではないかと強く思わせる作家である。

審査員

有山 達也(グラフィックデザイナー)

有山 達也(グラフィックデザイナー)

1966年埼玉県生まれ。90年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業後、中垣デザイン事務所にて約3年勤務。93年アリヤマデザインストア設立。『ku:nel』(マガジンハウス)などさまざまなジャンルのアートディレクションを担当する。2004年、第35回講談社出版文化賞ブックデザイン賞を受賞。2019年「音のかたち」(クリエイションギャラリーG8)を開催。

住吉智恵(アートプロデューサー/RealTokyoディレクター)

住吉 智恵(アートプロデューサー/RealTokyoディレクター)

東京生まれ。慶応義塾大学文学部美学美術史学専攻卒業。1990年代よりアート・ジャーナリストとして活動。2003〜2015年、オルタナティブスペースTRAUMARIS主宰を経て、現在、各所で現代美術とパフォーミングアーツの企画を手がける。子育て世代のアーティストとオーディエンスを応援するプラットフォーム「ダンス保育園!! 実行委員会」代表。2017年、RealJapan実行委員会を発足。バイリンガルのカルチャーレビューサイト「RealTokyo」ディレクターを務める。

小野耕石(美術家・版画家)

小野 耕石(美術家・版画家)

1979年岡山県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻版画科修了。シルクスクリーンの手法を用い、独自の表現を追求している。近年の主な展覧会では、2019年「The ENGINE 遊動される脳ミソ/小野耕石×門田光雅」(セゾン現代美術館)、2018年「開館20周年記念-版の美Ⅲ- 現代版画の可能性」(茅ヶ崎市美術館)などがある。2015年VOCA賞を受賞。2009年第3回shiseido art egg展(資生堂ギャラリー)に参加。

撮影:加藤健