国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、EUを中心に各国で国別活動計画(NAP:National Action Plan)が策定されており、多くのNAPにおいて人権デュー・ディリジェンスに関する記載が含まれています。資生堂は、2020年に人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、資生堂が社会に与える人権に対する負の影響を特定し、その防止および軽減のための改善アクションを行っています。そして、実施や結果の開示を求める各国・各地域の規制にも遵守・対応しています。
人権デュー・ディリジェンスプロセスでは、まず人権リスクアセスメントを行い、すべてのステークホルダーに関わる人権リスクを評価・特定します。次に特定した人権リスクに対する負の影響の停止、防止、軽減に向けた改善活動を推進します。この活動の推進状況をチェックし、さらなる人権リスク軽減に向けた活動を継続するとともに、進捗報告・開示を行います。
顕在化している人権リスクに加えて、潜在的な人権に対する負の影響を定期的に特定し、重大な被害を防ぐためにリスク軽減策を講じています。この活動はサステナビリティ関連課題について専門的に審議する「Sustainability Committee」において報告されています。重要な実績や懸念は、取締役会へ毎年報告・提案しています。
資生堂の人権デュー・ディリジェンスにおけるリスク特定プロセスのスコープは、自社のオペレーションのみならず、サプライヤーにも拡大しています。M&Aなど新たな事業関係についても、投資判断を行うデュー・ディリジェンスの一環として人権尊重(人事労務のコンプライアンス遵守、社員・お客さまの安全など)についても確認しています。人権リスクアセスメントでは、強制労働・児童労働などの課題に焦点を当て、サプライヤーの従業員などを脆弱なグループとして明確に考慮しています。潜在的・顕在的な人権影響のリスクマッピングは、定期的にレビューしています。
人権に関する国際規範や、非財務情報開示に関する基準、企業人権ベンチマークのCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)の内容などを参照し、考慮すべき人権課題を抽出しました。この人権課題の中には、強制労働や児童労働などの現代奴隷に関する課題のみではなく、結社の自由、団体交渉権、差別など、人権に関連する幅広い課題が含まれています。バリューチェーン全体を通して、当社が関連する対象先におけるリスクを抽出し、人権デュー・ディリジェンスの領域と対象を整理しました。
抽出した人権課題に関連する当社の活動の状況を、国内外の当社内の関係者へのヒアリングや資料閲覧によって確認しました(潜在的な人権影響の発生可能性については社外資料も参考としました)。上記によって確認した国内外での潜在的・顕在的な人権影響の発生可能性、またそれらに対し当社が実施している予防・是正措置の状況から、各人権課題のリスクを評価しました。
人権リスクアセスメントの結果、資生堂のバリューチェーンにおいて人権リスクが比較的高いと想定される分野は、「差別的行為・差別的表現」「コンプライアンスと公正な競争の阻害」「消費者の個人情報管理の不徹底・情報漏洩」「社員のプライバシーへの侵害」「サプライヤー管理の不徹底」「労働環境における事故・事件(労災の発生)」「休憩・休日の権利の侵害(労働時間の超過)」「ハラスメントと虐待」と特定しました※。一方で現代奴隷や人身取引と関連の深い「強制労働」「児童労働」については、他の分野と比較し人権リスクは低いと評価されました。資生堂は各人権分野において、リスクの状況とすでに導入済みの予防・是正措置の状況を精査したうえで、自社の課題を分析しつつ対応策を講じ、リスクの優先度に応じて対応していきます。
人権リスクアセスメントにより特定した8分野を、エグゼクティブオフィサーの担当領域ごとに6項目に整理・統合しました※。
資生堂は各人権分野を担当するエグゼクティブオフィサーを定め、人権に対する負の影響の停止、防止、軽減に向けた活動を行っています。社員の人権は人事部門とリスクマネジメント部門が対応し、サプライヤーや生産委託先の社員における人権はサプライネットワーク部門が対応にあたっています。
管理職へのハラスメント研修や倫理研修などでは、「資生堂倫理行動基準」やそれに関連する方針やルールについて、階層別や職種別に定期的な研修教育を行い、社員の人権に対する理解を深め、人権リスク軽減に努めています。グローバル本社エグゼクティブオフィサー・国内外部門長を対象とした研修会、国内事業所責任者・海外事業所責任者を対象とした研修会、事業所社員を対象とした研修会、新入社員を対象とした研修会などを開催しています。
グローバル本社および各地域の事業所に設置した通報・相談窓口に寄せられた通報・相談をきっかけに、差別・ハラスメントや贈収賄等の不正行為が明らかになった場合には、関連する会社・事業所・部門と連携して、不正行為などを直ちに停止させるとともに、速やかに是正措置および再発防止策を講じます。また、不正行為などに関与した従業員に対し、就業規則や社内諸規程に従って処分を行います。通報者・相談者に対して不利益な取り扱いや嫌がらせ等が行われていることが判明した場合には、関連する会社・事業所・部門と連携して、速やかに適切な救済・回復の措置をとるとともに、不利益な取り扱いや嫌がらせ等を行った従業員に対して、懲戒処分を含む厳正な措置を行います。経営に影響を及ぼす懸念のある事案には各部門から経営層へ速やかに報告します。コンプライアンスに関する重大懸念事項はGlobal Risk Management & Compliance CommitteeやHQ・SJコンプライアンス委員会にて経営層へ報告し、関連する会社・事業所・部門と連携して、直ちに当該事案を停止させるとともに、速やかに是正措置および再発防止策を講じます。
資生堂グループ サプライヤー行動基準では以下のように規定しています。
サプライヤーは、本行動基準に違反したと認識した時点で、直ちに、資生堂グループに報告します。サプライヤーは、違反が認められた場合は、当該違反を解消するための計画をたて 是正措置を実施するとともに、資生堂グループに是正の状況をその都度報告します。なお、違反の内容によっては、資生堂グループとの契約が破棄されることがあります。サプライヤーは、従業員の苦情や通報を受け付け、従業員を被通報者やサプライヤーからの報復のおそれから保護するとともに、プライバシーに配慮しながら、こうした苦情等の改善に向けた適切な対応を採ります。
人権課題※ | リスク軽減策(2021~2022年) |
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コンプライアンスと公正な競争 |
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ハラスメント・差別 |
国内資生堂グループ
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休憩・休日の権利の侵害 (労働時間の超過) | 国内資生堂グループ
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プライバシー侵害と個人情報・機密情報の漏洩 |
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労働環境における事故・事件 (労災の発生) |
国内資生堂グループ全事業所
|
サプライヤー管理の不徹底 | 「サステナブルで責任ある調達の推進」をご覧ください。 |
実績は「社会データ」をご覧ください。
当社は、資生堂グループ内における法令・定款・諸規程に違反する行為を発見し、これを是正することなどを目的として、通報・相談窓口を設けています。守秘義務、不利益な取り扱い・報復の禁止、利益相反の排除、および通報・相談の対応プロセスなどを明記した社内規程に基づいて、通報・相談窓口を運営しています。これらの社内規程は、社内イントラネットにおいて、従業員がいつでも閲覧できるように公開しています。
グローバルでは、各地域の事業所に通報・相談窓口を設置し、その国や地域の法律、社内諸規程、「資生堂倫理行動基準」や倫理に反する言動、または反する懸念のある言動について従業員からの通報・相談に対応する体制を整えています。なお、グローバル本社には資生堂グループの全社員を対象に通報を直接受け付ける窓口として、「資生堂グローバルホットライン」を設置しています。
日本国内では、幅広い職場の相談や通報を受け付ける「資生堂相談ルーム」、「資生堂社外ホットライン」、通報の受け付けに特化した「コンプライアンス委員会ホットライン」、国内外から取締役・エグゼクティブオフィサーおよび通報・相談窓口担当者に関係した通報を受け付ける「監査役通報窓口」を設置しています※2。なお、いずれの通報・相談窓口も、匿名での通報・相談を受け付けています。
また、日本国内の取引先に向けた窓口としては、「ビジネスパートナーホットライン」を設け、資生堂グループ各社や社員による人権やコンプライアンス違反にかかわる通報・相談を受け付けています。
資生堂は社員に対して、賃金が社員およびその家族が人間らしく生活するために必要な額となるよう考慮します。
国内資生堂グループにおいて子どもを扶養する社員に対しては、ベース給与に追加して、子どもの育児や教育を賄うための手当を毎月支給しています(カフェテリア制度の育児・教育費用補助)。
株式会社資生堂・資生堂ジャパン株式会社の社員においては、日本労働組合総連合会が発行する2021 連合リビングウェイジ報告書と比較して基本的な給与が生活賃金を上回る設計となっていることを2022年にセルフアセスメントにて確認しています。
また、サプライヤーについては、資生堂グループ サプライヤー行動基準にて、サプライヤーが従業員に対し支払う賃金について、従業員およびその家族が人間らしく生活するために必要な額となるよう考慮するよう、定めています
2022年は、一部のサプライヤーに対し、EcoVadis※を使って生活賃金の支払いに関するコミットメント・評価の実施有無について確認しました。その結果、5社がコミットメントまたは評価を実施していることが確認できました。
持続可能で責任ある調達や事業活動全体での人権尊重のために、資生堂はさまざまなステークホルダーと環境・社会の両面について対話し、課題の共有や解決に努めています。人権専門家との対話では、人権デュー・ディリジェンスの進め方について助言を得て、当社の活動に反映しています。
2022年は以下のようなテーマで合わせて10の人権団体・有識者との対話を行いました。
ステークホルダーとの対話から得た重要な懸念事項や改善策は「Sustainability Committee」で報告されます。
資生堂はサステナビリティレポートおよび企業情報サイト「サステナビリティ」にて、人権に関する進捗を報告しています。この報告には、最新の人権デュー・ディリジェンスおよびリスク評価活動、該当する場合には人権に関するインシデントや救済措置・計画が含まれます。また当社は、英国現代奴隷法への声明を企業情報サイトで開示しています。このようなコミュニケーションを経て、評価プロセスの見直しと改善を行っています。
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